第2話 デイサービスに通う

 どうするか泰治は考えた。着替えはベッドに寝た状態で着替えさせるのは、かなり困難に思われた。

 それにトイレのこともある。急いで薬局に行き大人用のオムツを買って来た。しかしこんなモノ扱ったことが無いのでオムツの充て方も分からない。急いでスマホで検索をしてやり方を学ぶ。この時ほどスマホが有り難いと思ったことは無かった。

 具体的には介護される人をベッドの横に寝かせる。もちろん下半身は何も身に付けていない状態にする。

 次にベッドの中央にオムツを広げる。そして介護される人を転がすようにしてオムツの上に体を乗せる。この時介護される人が仰向けになるようにする。あとは両脚を掲げて普通にオムツを充てるだけだ。少し考えれば思いつくかも知れないが、泰治には分からないことばかりだった。

 デイサービスに行くまで数日しかなかった。先日施設長が来て面接をしたばかりだったので、こんな状態を見たら驚くだろうと考えた。そしてこのままなら、折角決まったデイサービスも断らないとならないと思った。

 その数日泰治はお先真っ暗という感じだった。このままなら、どこかこのような状態でも入れてくれる施設を探さないとならない。多分それは月に数十万かかるだろうと思って気持ちが萎えるのだった。

 結果から言うと和子は三日ほど寝たら嘘のように元の状態に戻った。酒が抜けたからだろうかと泰治は思った。

 何でも良かった。一応元の状態に近くなったら取り敢えずデイサービスには行けると考えた。

 その当日の朝、和子は玄関まではシルバーカを押して行き車椅子に乗り換えでリフト付きの送迎車に乗って出て行った。

 そこは朝は八時半に迎えに来て送られて帰って来るのは夕方の五時半だった。色々ある施設でも時間が長い方だった。だからその間泰治と亜由美は家の掃除やら洗濯に精を出した。

 夕方帰って来た和子はご機嫌で

「行ってみたら楽しかったよ」

 そんなことを言っていた。それを聴いて亜由美は泰治に

「ほらね。私が言った通りだったでしょう」

 そう言って自慢げな表情を見せた。

 それからは特に何も無かったのだがケアマネージャの和田が

「お母さまですが、どうも『要支援2』という感じでは無いと思いますので宜しければ再申請してみようと思いますが?」

 そんなことを言って来た。どうも和田の観察では少なくとも「要介護1~2」ぐらいにはなるとのことだった。

 ランクが上がると施設の使用量も若干上がるのだが出来ること。ようするに介護保険が使える項目が増えるのだった。

「多少の値上げは構いませんからお願いします」

 泰治は和子の先の事も考えて和田にお願いをした。

 暫くしてまた判定員がやって来て同じような質問をしていく。だが和子は今回は片足で立つ事も出来なかった。両脚でもやっと立てる程度だったからだ。

 その後の判定は「要介護2」だった。このクラスになると色々なことが出来るようになる。泰治としてはデイサービスに行く回数も週三回に増やせたのがありがたかった。

 この頃までは和子は自分で台所に行って冷蔵庫から何かを持って来る事も出来たし、自分でトイレに行くことも出来た。いろいろな事が出来るようになって来ると、またお酒を飲みたいと言い出した。

「お酒ぐらい飲まないとやってられない」

 そんなことを嘯いて泰治に酒を強請った。泰治としてみれば酒を与えておけば煩い事も言わないので一日一本ぐらいなら、と買って与えてしまった。思えばこれが間違いの元になるとはこの時は全く思わなかった。

 和子は茶の間のコタツのテーブルの前に座って泰治が用意した食事を食べていた。自分で立ってトイレにも行けたし、隣の部屋のベッドにも行けたのだ。

 そんな期間が暫く続いた。泰治はこのまま暫くこの状態が続くと思っていた。事実一年ほどはそのままの状態が続いた。しかし和子の状態は少しづつ悪化していたのだった。事実この一年で和子は物忘れが酷くなりボケが始まっていた。痴呆症とは違う年齢によるボケだが、会話が噛み合わなくなって来ていたのだ。それは頭の状態だけでは無かったのだ泰治達はそれには気が付かなかった。

 介護保険は基本半問に一度見直すことになっている。大抵はケアマネージャが事務的なことをやってくれるのだが、時に審査が必要になる場合もある。

 その度に介護される者と介護者(家族)施設長、介護用品を扱ってる業者とケアマネージャが一同に集まって今後の相談をするのだ。これを「介護会議」と呼ぶ。

 

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