妹は離れない
「兄さん……」
学校が終わって家に帰ってきた瞬間、優介は氷天に抱き締められた。
まだ玄関だというのにお構い無しに抱きついてきたため、本当に優介は驚きを隠せない。
髪の隙間から見える耳が赤く染まっていることから恥ずかしいのだろうが、氷天には抱きつかないといられないのだろう。
「とりあえずリビングまで行こうか」
「はい。でも、離れないで移動します」
絶対離れたくないらしく、このままの体勢でリビングまで行きたいようだ。
何を言っても無駄だと悟ったので、優介は頷いて氷天とくっついたままリビングに向かう。
ソファーに座っても氷天離れようとせず、このままだと着替えることが出来ない。
本当はすぐにでも着替えたいが、氷天が離れないのであればどうしようもないだろう。
無理矢理にでも抱き地蔵の体勢になせて氷天を寝かして着替えることも出来るが、恐らく寝るのは拒否するだろう。
転校生である理奈の登場で、氷天は恥ずかしくても優介から離れたくないらしい。
授業中教科書を見せたために理奈と肩が触れ合うこと何度かあり、見ていた氷天は明らかに嫉妬していた。
「氷天、俺はずっと離れないから」
「本当ですか?」
「ああ。約束したろ」
そもそも離れようと思ったことがない。
毎日きちんと一緒に寝ているから氷天もわかっているだろうが、女心というのは難しいということだ。
ずっと一緒にいたい、というのは本心なので、どうにかして氷天の不安を消し去ってあげたい。
大切な妹を不安にさせてしまっては、兄として失格だ。
ただ、女心というのは良くわからないため、とりあえずここ最近やっている氷天の顔を自分の胸に埋めさせて頭を撫でてみる。
すると氷天はまるで匂いを付けるかのように、優介の胸におでこをぐりぐり、と擦りつけてくる。
(ペットが自分から離れていかないように主人に匂いをつけるのはこんな感じなのだろうか?)
そう思いつつも、優介は氷天の頭を撫でるのを止めない。
ここで止めてしまっては、氷天が悲しむと思ったからだ。
「兄さん、ずっと一緒です」
「ああ」
ここまで一途に愛されていたとは予想外だったが、不思議と嫌な気はしなかった。
そして生まれて初めて氷天のことを可愛い、と思ってしまったのだ。
もちろん初めて会った時はあまりにも美少女だから衝撃を覚えた記憶があるが、それとは違って見た目だけでなくて行動なども含めて色々可愛い。
本当に離したくないと思ったのは生まれて初めてだ。
「兄さん……」
「何だ?」
おでこを押し付けていた氷天は顔をこちらに向けてきて、優介か彼女から目が離せなかった。
可愛いと思ったからなのかもしれない。
「ずっと一緒にいる証拠を見せてください」
「証拠?」
「はい。私がしてほしいことを兄さんがしてくれたら、私はずっと一緒にいると言った兄さんの言葉を信じられます」
頷いた氷天は、ゆっくりと瞼を閉じて顔を近づけてくる。
氷天がしてほしいこと……優介には何かわかってしまい、思わず息を飲む。
確実に兄妹がやることではないし、普段の氷天だったら間違いなくしてほしい、と言ってこないだろう。
嫉妬してしまった今だから言ってきたとしか考えられない。
「いいのか?」
「はい。兄さんにしてほしいんです」
覚悟を決めた、というか前からしてほしいと思っていたようで、氷天は優介にそれを求めている。
ずっと一緒にいると決めた以上、もしかしたら……と考えたことはあるが、こんなにも早く氷天にしてほしいと言われるとは思っていなかった。
「じゃあするぞ」
「はい」
一緒にいるという証明が出来るのであれば、たとえ妹相手にそれをすることに躊躇いはない。
赤く染まっている頬に手を当て、優介は氷天の顔に自分の顔をゆっくりと近づけていく。
距離が縮まるにつれて氷天の吐息が感じられ、彼女の息が凄くいい匂いだった。
「んん……」
生まれて初めて氷天の唇に自分の唇に触れる……いわゆるキスを優介はした。
キスをした瞬間に氷天の口から甘い声が漏れる。
毎日ように一緒にいたのだし、氷天も同じファーストキスだろう。
むしろ初めてじゃなかったら嫌だという感情が溢れてきて、優介はさらにキスをしていく。
兄妹でキスは普通じゃないは、どうやら理屈ではキス語れないくらいに夢中にさせる。
「んん……私のファーストキスを兄さんに捧げてしまいました。あう~……」
キスを終えると恥ずかしくなったのか、氷天は再び胸に顔を埋めさす。
氷天がキスをするのは初めてと知り、心の中でホッとした優介だった。
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