妹VS転校生

「今まではロシアにいたけど日本に戻ってきました三井理奈です。よろしくお願いしまーす」


 朝のホームルーム、先生に転校生がいると言われ、教室に入ってきたのが理奈だった。

 元気良く自己紹介をした理奈は、丁度空席だった優介の右隣に座る。

 美少女が転校してきたことで、男子たちのテンションが高い。

 学校一の美少女と言われる氷天が男子に冷たいため、理奈みたいに接しやすそうな女子が来て嬉しいのだろう。


「よろしくね、お兄さん」

「ああ」


 笑みを浮かべる理奈に対して、優介の左隣に座っている氷天は頬を膨らませている。

 何で兄さんの隣なんですか? と思っていそうな顔だ。

 氷天が「ハバネロ……いや、もっと辛いやつを……」などと呟いているため、今日の夜ご飯は激辛料理になるかもしれない。

 よほど優介が他の女子と仲良くしてもらいたくないのだろう。

 一番大切だ、と言ったはずなのだが、どうやら嫉妬は理屈ではないらしい。

 優介は嫉妬したことがないから良くわからないため、面倒だな、と思うだけだ。


「先生、私は教科書がないんで、隣の人と机をつっくけてもいいですか?」

「そうだな。くっつけなさい」


 先生から許可を貰った理奈は、何故か優介の机に自分の机をつっくける。

 隣の男子よりかは今朝話した優介の方が頼みやすいというのがあるかもしれないが、氷天の機嫌がさらに悪くなっていそうなので止めてほしい。

 でも、教科書がないのは授業を受けるのには不便であり、拒否するのは抵抗がある。

 今日の夜ご飯は激辛料理が決定した瞬間だった。


「先生、私も席をつっくけます」

「は?」


 質問じゃなく先生に宣言した氷天は、自分の机を優介の机にくっつける。

 いくら嫉妬してても真面目な氷天が机をつっくけてくるのは予想外だったため、優介は驚きを隠せなかった。

 先生はどうした? という顔をしており、何故か席を戻しなさいと言ってこない。


「氷天は教科書あるだろ?」

「ありません。今日は全て忘れました」


 氷天が教科書を全部悪れるのはありえないことなので、絶対に嘘だ。

 恥ずかしがり屋の氷天が自ら近寄ってくるのだし、相当理奈に対して嫉妬しているのだろう。

 先日一日中くっついていたので、もしかしたら少しは慣れたのかもしれない。


「にゃはは、二人って面白いんだね」

「面白くない」


 氷天の機嫌が悪いから夜は激辛料理になりそうだし、クラスメイトの、特に男子からの嫉妬の視線を向けられて凄い嫌な気分だ。

 まるでラブコメアニメの主人公みたいだな、と思いつつ、優介は面倒でため息をつく。


「兄さんが三井さんにデレデレしないように私が見張ります」

「俺が転校生にデレる理由がどこにあるのだろう……いでで」


 太ももを氷天につねられ、痛みで顔が歪む。


「私のことは理奈でいいよ。お兄さんも私のことを理奈って呼んでね」


 何故か理奈にツンツン、と指で頬をつつかれ、優介は彼女から距離を取りたくなってしまう。

 ただでさえ普段から氷の天使様と呼ばれる氷天が、まるで氷点下のオーラを放っていそうな勢いで冷たい視線を向けているからだ。

 六月で暑くなってきているはずなのに優介は寒気を感じてしまい、思わず体を震えさせてしまう。


「何でそんなに兄さんと距離が近いんですか?」


 優介に気軽に触れる理奈に不満を感じているのか、氷天は冷たい視線を彼女に向けて頬を膨らます。


「何でって言われても、お兄さんは安心そうじゃない? 氷天ちゃんとイチャイチャしても興奮しなそうだし」

「妹に興奮する兄はいな……」

「兄さんは黙っててください」

「妹が辛辣……」


 確かに氷天に対して興奮することはないが、優介の言葉を聞いて一層彼女の機嫌が悪くなったようだ。

 好きな人に自分では興奮しないのは嫌らしい。


「あの……授業を始めたいんだが……」


 もうホームルームが終わって一時間目の授業開始時間になっていた。

 授業さえきちんと受けてもらえれば机がくっついていようが関係ないらしく、先生は氷天に注意することがない。


「あ、気にせず始めちゃってくださーい」


 理奈の一言で授業が始まった。

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