甘々な朝

「何でツインテールなんだ?」


 夜更かしした次の日の朝、優介はリビングに行くと、エプロン姿の氷天がキッチンで朝食を作っていた。

 寝る時以外は髪を下ろしている氷天であるが、今日はツインテール調に纏めている。

 しかも可愛らしいピンクのリボンで髪を結んでいるし、服もいつもはワンピースなのに今日は白のブラウスに黒いミニスカートだニーソックス。

 何か心境の変化でもあったかのように、普段の氷天と違いすぎる。


「べ、別にいいじゃないですか。どんな格好をしようと私の勝手です」


 一瞬だけこちらに顔を向けた氷天であるが、すぐにキッチンへと向けて料理を再開。

 ツインテールにしているのは、昨日見たアニメのツンデレキャラが同じ髪型をしていたからだろう。


「氷天、コーヒー欲しい」

「昨日は甘々だったので、今日は兄さんが用意してください」


 何故か氷天は甘味があった場合に、中和したくなるような性格をしているようだ。

 確かに昨日は慣れさてたくていつもより触れ合っていたが、兄妹で甘味なんてあるのだろうか? と優介は思う。

 あくまで氷天が抱き地蔵の体勢じゃないと眠れないからやっているのであって、彼女が一人で寝れるなら触れ合うことなんてなかっただろう。

 血の繋がりはないとはいえ、兄妹なのだから。


「氷天が冷たい。いつも通りだけど」

「そもそも自分で飲むのですし、きちんと自分で用意してくださいよ」


 正論であるため、優介は反論出来なかった。

 家事全般はほとんど氷天がしてくれており、優介は自分の部屋の掃除くらいしかしない。

 両親が出張で家を空けて二ヶ月ほどたつが、リビングなどに埃がたまっていないのは氷天が掃除してくれているからだ。

 なので氷天に負担をかけないように、自分で出来ることがあるなら自分でした方がいいだろう。

 だけど優介はキッチンに行くも、コーヒーを入れることはない。


「氷天」

「あ……」


 ゆっくりと後ろから手を回し、氷天のことを抱き締める。

 丁度包丁をまな板に置いたとこで抱き締めたし、うっかり怪我をさせてしまうこともないだろう。


「最初の一杯は氷天に入れてほしいな」


 ただ何となく……特に意味があるわけではないが、寝起きの一杯は氷天に入れてもらったのを飲みたい。

 コンビニでも売っているようなインスタントコーヒーでも、氷天が作ってくれた方が脳が覚醒する感じがするのだ。


「兄さん……朝から甘いのは……」


 口では色々言ってくるが、氷天は抵抗しようとしない。

 力を入れて抱き締めているわけではないので、逃げようと思えば逃げることが出来のにその場から動かないのは、氷天が心の底から嫌だと思っていないからだろう。

 本気で嫌ならば抵抗すればいいのだから。


「ブラックコーヒーで中和されるさ」

「今回はコーヒー程度の苦味じゃ無理です」


 何で氷天がそこまで中和することに断るのかわからなかったが、彼女の想いがはっきりしている今ではわかる。

 無理矢理にでも中和しないと、好きという想いが抑えきれなくなるからだろう。

 氷天は恥ずかしがり屋であるため、どれだけ好きになって告白することはないのだろうが。


「別に中和しなくてもいいじゃん」


 甘い雰囲気を出しているとは思っていないため、中和する必要はない。


「兄さんのバカ。私がどう思っているのかもわかってないくせに……」

「恥ずかしくて死んじゃいそう?」

「はい。今も恥ずか死してしまいそうです」

「その理屈だと毎日恥ずか死しそうになってるわけだが」


 夜は寝るために我慢しているのだろう。

 手を頬に当てて少し無理矢理に氷天の顔をこちらに向けて見ると、耳まで真っ赤だった。

 朝からくっつくのは久しぶりのため、かなり恥ずかしいのだろう。


「話を戻すけどコーヒー入れて?」

「あう~……わかりましたよ」


 コーヒーを入れてくれるようなので、優介は「ありがとう」と言って氷天から離れる。

 氷天は少しだけ残念そうな顔をしたため、恥ずかしくても本音はもっとくっついていたかったのだろう。

 既に電気ケトルにはお湯が入っていたので、氷天はカップにインスタントコーヒーを入れてお湯を注ぐ。

 カップを氷天から受け取り、優介はリビングのソファーに座ってコーヒーを飲む。


「やっぱり苦い……」


 以前に砂糖を入れたことがあるのだが、それでは脳が覚醒した感じがしなかった。

 だから朝のコーヒーは必ずブラックと決めている。

 甘くしても脳が覚醒するのであれば、砂糖を入れて飲んでいるだろう。

 コーヒーをのんでいると、キッチンから「ご飯出来ました」と聞こえたので、優介は氷天の元に行ってテーブルに朝食を運んだ。

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