シスブラップルの学校生活
「よっ、シスブラップル」
教室に着いて早々に、優介と氷天は一人の男子生徒に話しかけられた。
彼──
「何バカなことを言っているのですか? 変なことを言うバカは消えてください」
氷天はシスブラップルと言う人には容赦なく辛辣な言葉をプレゼントし、まるで人を殺せるくらいの鋭い視線を向ける。
よほどシスブラップルと呼ばれるのが嫌なのだろう。
あまりにも冷たい声と視線を向けられるため、氷天の側で言うのは太一くらいだ。
何回注意されても言ってくるので、心性のドMかバカなのだろう。
せっかく見た目はいいのだから黙っていればモテるだろうに、性格が残念過ぎる。
「何で兄妹なのに同じクラスなんでしょうか?」
「知らんがな」
高校だけじゃなく、中学でも同じクラスだった。
兄妹が同学年にいたら別のクラスになるのが普通だろうが、優介と氷天は何故か同じクラスだ。
どうでもいいことなので、追及する気にはならない。
「俺は平和に暮らせればどうでもいいんだけどな」
「平和にはほど遠いかもしれないですけどね」
クラスの男子からの嫉妬の視線が優介に向けられており、氷天の言う通り平和とはかけ離れている。
学校一の美少女である氷天は基本的には男子に冷たい態度で接するため、一緒にいることが出来る優介が羨ましいのだろう。
義理の兄妹であることは知られているし、ラブコメみたいな展開で羨ましい、と思っていそうだ。
「高校でも私たちがシスブラップルって言われるのは、あのバカのせいですからね」
本当に人が殺せるくらいの鋭い視線で、氷天は太一を睨む。
小学校から同じ高校に進学した人は何人かいるが、入学してすぐに太一がシスブラップルと言ったのが原因で雄介たちがシスコンでブラコンでカップルという噂が広まってしまった。
高校生になった今でも一緒に寝るからブラコン、シスコンと言われるのはまだいいかもしれないが、カップルは本当に心外だ。
義理でも兄妹で付き合うのはアニメやラノベの二次元だけなのだから。
いや、中には兄妹で付き合う人はいるかもしれないが、少なくとも優介の周りにはいない。
義理の兄妹がいる知り合いがいないからなのだけど。
「氷天がブラコンなのはいつものことだしな」
ポンポン、と頭を撫でてあげると、氷天は「ブラコンじゃありません」と呟き頬を赤くして視線を反らす。
優介の温もりの良さを知っているためか、人前で少し触れられた程度で氷天は抵抗することはない。
頭を撫でることが少し、と言っていいかわからないが、抱き地蔵の体制よりかは全然マシだろう。
「いつまで頭を撫でているんですか?」
「嬉しいくせに何言ってるんだ……いでっ」
触れられることに抵抗してこない氷天は、言葉で言うと反撃してくる。
脛を氷天に思い切り蹴られ、優介は足を抑えながらゆっくりと歩いて自分の席に着く。
視線を氷天の方に向けてみると、ベッと舌を出してこちらを見た。
☆
「兄さん、お弁当です」
昼休みになり、氷天からピンクの包みに包まれているお弁当を受け取る。
高校生になってから両親が出張でいないため、学校がある時は氷天がお弁当を作ってくれることになった。
「いつもありがとうな」
「いえ、自分のお弁当を作るついでですから」
お弁当箱の大きさは違うが、おかずは同じなので一つ作るのも二つ作るのも手間はそんなに変わらないのだろう。
素っ気ない態度を取っている氷天は、兄である優介にお礼を言われて少し嬉しそうだ。
ご飯はいつも一緒に食べるので、氷天は椅子を持ってきて優介の隣に座る。
「……このお弁当は一体何?」
お弁当箱の蓋を開けてみると、ご飯からおかずまで何もかも赤かった。
しかも刺激臭がするため、見た目と相まってとても辛そうなことだけは予想出来る。
「私特製のハバネロ入りお弁当ですよ」
想像通り激辛弁当だった。
もしかしたら今朝言ったお兄ちゃん中毒、というのが気に触ったのかもしれない。
朝食を取った後に再びキッチンでお弁当に手を加えていたので、その時にハバネロを入れたのだろう。
辛いのは嫌いではないが、ハバネロみたいな激辛は流石に無理だ。
「どうしたのです? もしかして可愛い妹が作ったお弁当を食べれないのですか?」
笑顔で言う氷天がとても怖い。
夜は以外は基本的には冷たいため、氷天は嫌なことがあれば容赦なく言葉にするし、お返しと言わんばかりに何かしてくる。
今回のお返しはハバネロ入りお弁当になったようだ。
「流石は氷の天使様だ」
椎堂兄妹二人をシスブラップルと言うが、氷天はもう一つの呼び名がある。
──氷の天使様。
麗しい見た目や名前、冷たい性格からついた二つ名だ。
「兄さんのお茶は没収ですね」
朝に買ったペットボトルに入ったお茶を氷天に取られた。
シスブラップルと呼ばれるのと同じくらいに氷の天使様と呼ばれるのは嫌いらしく、氷天はこちらに冷たい視線を向けてくる。
氷のような藍色の瞳なので、他の人より冷たさは倍増だ。
「兄さん……私は兄さんにお弁当を残さず食べてもらいたいです」
椅子を近づけてきたせいで、氷天との距離が近くなる。
先ほどの冷たい視線はどこにいったのかと思わせるくらいに熱いものに変わり、氷天のデレモードが発動した。
寝る時以外にデレるのは大抵お返しするという合図みたいなもので、氷天は何が何でもハバネロ入りお弁当を食べさせたいようだ。
ちなみに他の人には冷たい言葉を浴びせるだけで、相手にしようとしない。
「何なら私が兄さんにあーんってして食べさせてあげてもいいんですよ?」
氷天は赤く染まったお米を箸で摘まみ、優介の口元まで持ってきた。
近くにきたことで匂いが直接嗅覚を刺激され、食べない方がいい、と脳が警告を出している。
氷天だから食べられない物を作ることは絶対にないが、口にしたら間違いなく辛さで悶絶するだろう。
「しょうがないから食べるか」
「あ……」
氷天の肩に手を置いた優介は、彼女を自身に引き寄せる。
家族である氷天は優介にとってとても大切な人であり、離したくないと思っているほどだ。
だから文句を言いつつも氷天の寝る手伝いをしているし、激辛弁当を食べさせられそうになっても側にいる。
「もう……優しくされたら激辛弁当を作った私がバカみたいじゃないいですか」
自覚しているのであれば、お返しは口で言うだけにしてほしい。
「激辛だから甘味もプラスしておかないとな」
「ふあ……兄さん」
頭を撫でてあげると、氷天が気持ち良さそうな声を出した。
今の氷天に氷の天使様の面影はまるでなく、単なる天使様だ。
学校でもこうしてしまうからシスブラップルと言われてしまうのだろうが。
「じゃあ食べるか」
「はい。あーん」
激辛弁当を食べた優介は、火が出るくらいに口が辛さによる痛みに襲われた。
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