第16話 友達になってね!

 じふちゃんが『ほっこり』に目覚める前は、とんでもなく気難しい少女でした。


 生来の性格がどんなだったのかは、自分でも未だにわかりませんが、幼い頃は病気と闘う毎日で、楽しいことを『創造する』どころではなかったんですよね。


 物心ついた時には小児喘息もちで、発作が起きると意識が無くなりそうなくらい呼吸困難になることなど、しょっちゅうでしたから。


 生きることに必死でした。


 いつも食欲がなくて体はガリガリにやせ細っており、今にして思うと『これぞ虚弱体質の決定版!!』みたいな感じでしたよ(笑)!


 喘息を持っていると他の病気も呼び寄せやすくなってしまうのか、風邪や原因不明のウイルスに侵されて即入院なんてことも良くありました。


 幼稚園は半分くらいしか行けませんでしたし、小学校に入学してからも最初の二年間は、『普通の生活』について行くので精一杯でしたね。


 体が弱ると、心も弱くなります。


 自分より体が強く、たくさん動いたり遊んだりできる従姉妹たちに対しては、羨ましさを超えて嫉妬心を覚えたりもしました。


 クラスメイト達は、私の眼にはとても輝いて映りました。


 だってみんな、自分より元気!


 オーラが違います。

 パワーが違います。


 本当はたくさんの友達に、どんどん話しかけてみたかったです。

 

 あの子は、すごく可愛い!


 あの子は、優しい!


 あの子は明るくて、元気をくれる!


 あの子は、絵がとっても上手。


 あの子は、スポーツ万能!


 もっと仲良くしたいなー。


 じふちゃんはマイペースで気難しかったですけど、意外と来るもの拒まずでした。声をかけてくれるお友達とは、割とすぐに仲良くなれたんですよ。


 でもね。


 当時、気になったお友達『全員』には、うまく話しかけられませんでした。


 特に自分と同性の『女の子』達。


 どうしてだろー。

 多分ですけど。


 女の子って、『グループ』で行動する生き物みたいなんですよねー。


 たとえば。


 クラス替えがあったとします。


 じふちゃんは、もともと仲が良かった子と、最初はいっぱい話します。


 そんなこんなしているうちに。


 別なグループの子には、話しかけづらい雰囲気がもう、出来上がっちゃってるー……。


 そんな気がしてました。

 これって私だけ?


 みんなのペースに全然、ついて行けないんですねぇ。


 んで、じふちゃんがぼーっとしているうちに、妙な『派閥争い』みたいなのが、生まれちゃったりしてるんですよ(笑)。


 『AちゃんのグループにはCちゃんを潜入させて、あいつらの動向を探ろう。Yちゃんだけは絶対に許せないから、こっちに来ても話しかけない事!!わかった?!!』


 んなもんわかるか、あほが。

 どこのスパイ組織だ。


 Yちゃんを許せないのはそもそも、テメーだけだろうが!!


 って腹が立ちました。


 実際怒りがおさまらなかったので、↑ この台詞を言った本人に「自分だけでやれば?」って伝えたこともありました。


 なんで『みんなもゼッタイ許せないよねー?!』みたいな雰囲気を、作り上げちゃうんだろ。


 どうして他の子たちは、発言した子の指示に従っちゃうの?!


 わけがわかりませんねぇ。

 ついて行けませんねぇ。


 先陣を切ってイジメをやり出す子が出始めたりして、なんだか嫌~な気分になることもありました。12歳くらいの頃ですね。


 男の子にももしかしたら、そういう事が起こっていたのかも知れませんが。


 私はいつも一緒にいてくれる友達が、大大大好きだったんですけど。


 あの『グループ意識』だけは全くもって、今でも思い返したく無いくらい、嫌でたまりませんでした。


 本当はもっと勇気を出してたくさんの友達に、自分の意志で自由に話しかけたい!という気持ちがとても強くあったんですよ。


 みんなそれぞれ、いい所がたくさんありましたから。一人ひとり違った個性があって、輝いて見えたから。


「たくさん話したら、楽しそうー!」


 と思える友達はたくさんいたのに。


 その妙な『グループ意識』あるいは『派閥争い』が、じふちゃんのトキメキを見事に台無しにしてくれました。


 我を通すほどのコミュ力は、当時の自分には無かったし。病弱だったからそんなエネルギーも無かったし。


 あまり自分を目立たせず、ただただ大人しくしてましたね。


 今考えると、嫌な奴ですねー。


 結局、自己保身に回ったということですもんね。


 でも、徐々に状況は変わりました。


 高校生になってはじめて『親友』と呼ばせてもらいたいと思えるような、生涯仲良くしてもらいたいと思えるような女の子と、巡り合ったんです。


 ようやく目が覚めました。


 ずっと話をしていたくなるような子でした。絵がメチャクチャ上手で面白くて、とっても優しい女の子でした。


 恋愛のような意味ではなく、一緒に暮らしてみたいと思っちゃうくらい、じふちゃんはその子の事を本当に、大好きになりました。


 今でも大事に想っています。だから自分から、彼女には必ず連絡を取ります。今でも北海道に帰ると、絶対に一度は会ってもらいます。


 自分が会いたいからです。

 彼女と話したいからです。


 そう思える事が嬉しかったですね。


 さらに、状況が変わりました。


 大人になってくるともう、『仲よくしたいグループ』に守られているわけには、いかなくなります。


 誰とでもきちんと、コミュニケーションを取らないといけません。


 どんな状況でも、色んな人と助け合わなければいけなくなりました。


 自分とは波長が合わないと思った人にも、話しかけなくてはならなくなりました。


 『自分とは正反対の考えを持つ人だろうな』と思った人とも、チームを組まなくてはならなくなりました。


 時には手を取り合って、互いのいい所を見つけあって、知らない人とも協力しなくてはならなくなりました。


 そこでじふちゃん、急に気持ちが楽になりました。


 なんだかとても爽快なんです。息がしやくすなったような気がしました。


 あぁ、小さな頃よりも、ずっと気持ちよくて自由だー。


 あの『グループ意識』に縛られる居心地の悪さに比べたら、今の方が何万倍も、心地が良かったんです。


 自分で自分のしたい事を、完全に諦めていたんですかね? あの時の私は。


 あああ、ときめくー!


 あの人にも話しかけちゃお!


 この人にも話しかけちゃお!


 もっと早く、こういう風にできたら良かったのに!


 ……私って変わってますかね?




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