第3話 回想
ケアマネさんに連絡するとすぐに来てくださった。
去年ご近所の方から心配の声が上がって、地域包括支援センターが動いた。英子おばさんは認知症と診断され要介護2となり、今は週に2回デイサービスに通い、生活面は訪問介護サービスを受けている。その他配達のお弁当。お金の管理は権利擁護が関わっていると、、、教えてくださった。
ケアマネさんも正直困っていたという。
「ご本人は私が関わったはじめの頃は、まだもう少しお話しができたんです。頼れるようなご家族はいない、夫はずっと昔に亡くなり、子供はいない とおっしゃられました。生活は…これはちょっと詳しくはお話しできないんですが、英子さん若い頃に働かれていた関係で、年金や貯蓄はまあ、困らないほどにはあるようなんです。今のところですけどね」と経緯を説明してくださり、最後に「ご家族様としては、今後どうお考えですか?」と聞かれた。
私は「姪なので、決定権はありません、一度、他の家族と話し合ってみます」と答えお礼を言って今日のところは…となった。
一応、ケアマネさんに、連絡先を聞かれ、とりあえず私が窓口となった。
にしても、、一年前にまだ英子さんが自分の思いを伝えられたとして、、頼れる家族は居ないと言ったなんて。
なんだか、ちっとも考えてあげられなかった事を申し訳なく思う。5年前におばあちゃんの葬儀の時に会っていたのだから、あれからもう少し連絡を取っていたなら、、後悔は先にたたない。
この日は英子さんのところから母に電話をかけた。母の声なら、もしかして会話が違うかもしれないと考えて。
「もしもし、お母さん?、今ね、英子さんと一緒。詳しい事はまた後で話すとして、、ちょっと代わるね」はい、英子さん、カヨコちゃんの娘の、洋子です。と、携帯を英子さんの耳に近づける。電話の向こうから「えーこさーん、わたし、ようこですー」と聞こえると英子さんは「あら、お久しぶり」と応じた。一瞬通じたかとおもえたが、また何を話しかけても「そうねぇ」と繰り返した。
…。「こんな感じなのよ」と、母に伝え、後でまた連絡すると言って電話を切った。
そういえば、英子さんは一年前は、、夫がいたと言ったという。
「英子さん、あのぉ、もしよかったら…。英子さんの若い頃のお話しを聞かせていただけませんか?」と話しかけると「私の話なんて面白くもなんともないわよ」と笑った。
「そんなぁ、、例えば、、お仕事は?」「してましたよ。デパートに勤めていたのよ。毎日銀座まで通ってましたよ」「へぇ〜、だからお洒落な服やバッグをたくさんお持ちなんですね」「いやぁ、たいしたものは持ってないけどね」あれ?記憶があるものはよく喋れるんだな…。
「銀座にお勤めしていた時に、ご主人に出会ったんですか?」「ううん、私はね、一度親のすすめで結婚したんだけど、その人は身体が弱くてね、戦後だったし、、肺炎みたいなので亡くなっちゃって、私もまだ若かったから、戻って来たのよ。嫁ぎ先は意地悪な人がいたから」「ああ、そうだったんですね、、。では、この方は?」「その人とはね、結婚はしなかったのよ」「でも、一緒に住んでいらっしゃったんですか?」「ちょくちょく来てたけどね、、住んでは居なかった」「この方は、、おなくなりに?」「さあ、どうかしら。とてもいい人だったけど、慶応ボーイで背が高くて素敵な人だったわよ」「えっと…、その方は、今はどこに?」「わからないけど、貸してあるものがあるから、そのうち返しに来るでしょう」「何を貸したのですか?」「カメラよ。私のカメラを持ってっちゃったのよ」
私はふとあのサイドボードに目をやる。
「英子さん、この写真を撮ってくれたのはその方?」「そうよ」「これは、、いつ頃の、写真ですか?」「あら、懐しい。これは、、、2年前ぐらいかしらね」
…。ダメだ。
どれが確かな事かわからない…。
英子さんの家からの帰りの電車に揺られながら、私は思いだした。
たしか、秋田の遠い親戚のおじさんに、英子さんが電話していたとき、、誰かに、返してほしい物があるって言ってたんだった…。
あれ、何だったっけ?
なんて名前の人だったっけ…。
自宅に帰って早速実家に電話を入れる。
「ね、わかったでしょ、あんな感じなのよ」
「うん…」
「でもね、要介護の認定がされて、介護サービス受けながら、なんとか生活はできているみたい。えーと、ケアマネさんという方に会って聞くことができたの。 でもね、英子さん、頼れる家族なんて居ない。って言ってたらしい。一年前から…」
「そう、、私も、まったく頭になかったわ。 それで? 秋田のおじさんに電話した件は何か言って無かった?」
「ああ、それがね、妙なのよ。自分の年齢も60歳と思ってるぐらいだから、、どこまでが本当の話しかわからないんだけど… 長く付き合っていた人がいたみたいで、、仏壇に飾ってあったのはその人の写真だったの」
「そうでしょう、だって独り身だって聞いてたんだもの」「ところがね、うんと若い頃に、一度はお嫁に行った事かあるらしいの。その時の旦那さんは、肺炎で早くに亡くなって、英子さんは戻って来たらしいんだけど…」
「へ〜、そうだったんだ…」
「まあ、、どこまでが本当の話だかわからないんだけどね、その、さっき話した、お付き合いしていた方にカメラを貸していたとかで、その記憶と、秋田のおじさんに電話した事がごっちゃになっちゃってるんじゃないかしらと思う。記憶の順番というか…」
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