第6話 気持ちの行方を知りたくて

 魔物に襲われ気を失ったフィーネは、バルオキーの自分のベッドで目を覚ます。


「……あれ? ここは……」


 体に不調や怪我の類は見受けられず、もしかしたら兄を心配して追いかけた出来事そのものが夢なんじゃないかとすら感じてしまう。


「よかった。 目が覚めたみたいだな。」


 いつもの優しい兄の声。

 しかし、声とは裏腹にアルドは腕を組み眉根に皺を寄せる。


「お兄ちゃん……」

「ここに運ぶ途中で合成鬼竜に聞いたぞ。 オレのこと 追いかけて来てたんだって?」


 アルドの話ぶりで夢でないことと、尾行していたのがバレたことの両方を確信する。


「……ごめんなさい。 お兄ちゃんの様子が変だったから どうしても心配で……」


 目を伏せながら素直に白状するフィーネに、アルドも相好を崩して柔和な笑みを浮かべる。


「ありがとうな。 心配してくれて。」

「お兄ちゃん。」

「けど なんでこそこそしてたんだ? 合成鬼竜も その辺は話してくれなかったから。 何か 特別な理由でもあったのか?」


 尾行の理由。

 アルドの気分転換の訳を知った今、当初考えていた特別な相手を確認する理由も立ち消えた。

 恋愛小説を読みすぎたせいで思考回路がそっち方面に伸びてしまったのだと、今のフィーネなら冷静に考えられる。

 けれど……。もし……。

 そんな微かな期待を持つ乙女な自分も消えてはいない。


「実は お兄ちゃんに 聞きたいことがあって。」

「なんだ?」


 理屈ではない。単純な好奇心だ。


「いろんな時代を旅して いろんな人と出逢って」


 今日一日で兄がそれぞれ違う魅力を持つ女性と逢っていた。

 それぞれの女性の誰が兄の心を射止めていても不思議はないと思った。

 だからこそ、意を決して訊く。


「お兄ちゃんにとって 特別な人って いるのかな? って」


 兄妹の間に沈黙が訪れる。


「いるよ。」


 短く答えたアルドに、続きを待つ神妙な面持ちのフィーネ。


「オレにとっての特別は フィーネだよ。」

「お兄ちゃん……」


 兄から他の誰よりも特別な存在だと告げられて、嬉しさが込み上げ声が震える。……なんてことはない。

 この期に及んで質問の意図を理解していない鈍感すぎるアルドに対して、フィーネは腰に手を当てて怒りをぶつける。


「そういうことを訊いてるんじゃなーい!!」


 アルドは本気で何故自分が怒られているのかわからないらしくフィーネの怒声にただただ困惑している。


「ええー!?」


 そんな二人のやりとりを、杖を突いて階下からやって来た村長は口髭を揺らしながら見ていた。


「ほっほっ。 二人とも 相も変わらず 元気じゃのう。」

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乙女の妄想は時空を超えて 霜月 龍 @ryu_shimotuki

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