第15話「C」結果

(まさか....これ程までとはな。)

 リカルド・フェリスとの死闘の最中、

 致命傷に近いダメージを受けた"彼"は、

 リカルドにトドメを刺される筈だった。

 しかし、その結末は起こらず彼は生き残っていた。


 メンターは変化しているジャンを観察する。

 メンターから見ても異質な能力の変化、

 この変化をメンターは知っていた。

("Dロイス"この戦いで覚醒したか。

 しかし、不味いですねこの状況は...)

 組織の協力者であるメンターにとって、

 ジャンは"ある意味"では排除しなければいけない対象だがそれをしてしまうと、

 今度は古巣であるFHから命を狙われるのは誰の目から見ても明白であった。

 かといって裏切ろうにも相手が悪すぎる。

(せめて、あの"老人"の追跡から逃れる術があれば良いのですが....)


 そんな事を考えているとメンターの懐にある携帯から着信があり画面を開く。

 その番号は我が主が"緊急を要する際"に、使用することいった連絡用の番号だった。

 フェリスはジャンとの戦闘に気を取られておりこちらを気にする素振りは無い。

 誰にも怪しまれること無く連絡が出来ると思ったメンターは主からかかってきた電話に出る。

「マスター....何かトラブルでも?」

 メンターからの問いに黒須はいつも通りのトーンで答える。

「いいや、"FHの奴と取引"をした。

 信用できる。」

 相も変わらず詳しい説明のない黒須から信用と言う言葉を聞きメンターは驚きながらも詳しいことをを聞く。

「詳細は?」

「お前が任務を終えた後、組織の情報を提供し俺と共に姿を消せば終わりだ。」

「それはまた豪勢な取引ですね。

 しかし、あの老人から追跡されますよ?」

「どうやら、その"対策"もあるらしい。

 だから、取引に応じた。」


 一番の障害となっていた追跡の妨害が可能と分かりメンターは内心安堵しながらも話を続ける。

「成る程、マスター1つ聞いてよろしいでしょうか?

 マスターは何方と取引を?」

「マスターローズだ。」

「あの"薔薇姫"ですか.......」


 ここで、全てが繋がったメンターは現在のこの状況を加味して次の策を考える。

(取引相手には印象を良くしておきたい。

 ここは1つ"リスク"と引き換えに"情報"を渡しておきますか。)

 メンターはそう考えて黒須に話をする。

「マスターローズに1つ言伝てを頼みたいのですが.....」



「.....分かった。」

 黒須は電話を切るとローズに結果を伝える。

「取引は成立した。

 アイツ等との契約が終わったら情報をお前達に渡す。」

 取引が成功しローズは内心安堵していると黒須は話を続けた。

「奴からお前に伝言がある。

 "伊藤ジャンが能力に覚醒した"

 そう伝えて欲しいと言われた。」

 その言葉を聞き春日は意味が分からず首をかしげるがローズはその意味を考える。

(ジャンくんは元々、オーヴァードとして覚醒しているしそれはメンターも知っている。

 "ジャーム化"したならばそう言えば良い。

 ジャーム化でもなく能力の覚醒......

 Dロイス?

 だとしたらメンターは何故それを私に教えた?

 ジャンくんにはメンターの捜索を依頼したが、そこで覚醒した.....戦闘状態にいる?)

 メンターの伝言から事態が動いていることを察したローズは即座に次の行動に移った。


「バルデロ、ジャンくんのいる場所にゲートを開けなさい。」

 少し焦った言い方に春日が驚く。

「おい!どう言うことだ!

 ジャンに何かあったのか?」

「まだ分かりませんが、今"危険な状態"になっている可能性があります。

 それを確かめるために私とバルデロで彼の元に向かいます。」

「俺も行くぞマスターローズ。」

 春日もバルデロの生成している黒い円に向かおうとするがローズに止められる。

「貴方には、ここでマスター14と戦って、貰わないと行けません。

 理由はお分かりでしょう?」

 現段階では黒須はFHを裏切っている立場にある。

 協力していることが敵組織にバレたら取引も失敗してしまうため演技でも敵対する行動をしなければならなかった。

 苛立った顔をしながら状況に納得した春日は黒須に向き直るとローズが彼を励ます。

「安心してくださいディアブロ。

 ジャンくんは必ず助けます。」

 ゲートの生成が完了するとローズとバルデロはその中に入り姿を消した。


 二人きりになった黒須は春日に話しかける。

「まさか、貴様が仲間の事を心配するとはな。」

 過去の春日しか知らない黒須は素直にジャンを心配する姿に驚いた。

「俺も変わったと言うことだ。

 お前もそうだろう?」

 春日が黒須に尋ねる。

 お互いに自分の目的のために仲間を作らず利用して生きてきた。

 しかし、今は仲間のために行動していた。

 互いの心証に変化を及ぼしつつも、

 春日は黒須に話しかける。

「悪いが、演技とは言え本気で行かせて貰うぞ。」

 春日は腕を変化させながら黒須に言う。

「当然だ。

 こっちもストレスがたまっていてな。

 加減はできそうにない。」

 全身に電気を帯びさせながら黒須は答えた。



 後日、N市工業地帯での黒須と春日の壮絶な衝突はN市UGN支部でも話題になる事となった。




 バルデロのゲートを抜けてF市に戻ったローズは目の前に広がる光景に驚きを隠せないでいた。

 破壊されたビルのコンクリート、

 アスファルトの地面に残る破壊の跡、

 どれもかれもがこの場で行われた壮絶な戦いを物語っていた。

 そして、破壊されているビルの一角を見てみると"三人の人影と一匹の怪物の姿を確認できた。

 一人はメンターでどうやら戦いを静観しているらしく外傷は全くないがビル近くで倒れているゴスロリ服を着たの少女は服は破け片足は有らぬ方向へと曲がっていた。

 そして、恐らくこの状況を作り出したであろう怪物は仮面を着けた男に縛られながら燃えている体の火を消そうともがいていた。


(あの怪物は恐らくジャンくんなのでしょう....見た感じDロイスに覚醒したは良いものの軽く暴走状態になっているみたいですね。

 そして、恐らく敵は倒れている少女とジャンくんを縛っている男の二人。

 あの仮面はゴールドネストの構成員であるWORKERが着けている物ですね。)

「バルデロ、"カレ"にここに来て貰えるよう交渉して下さい。

 時間は私が稼ぎますので....」

「承知いたしましたマスターローズ。」

 バルデロはローズの命令を受けゲートを開き姿を消すと、ローズはジャンを救出し事態を収拾させる為自らの能力を発動した。



「Dロイスに"覚醒している"のは貴方だけじゃないんですよ?

 今助けますからねジャンくん。」

 能力発動により支配している物体を操作しながらローズは怪物化したジャンと敵に向かっていくのだった。




続く

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