第13話「C」狂奏

『Dロイス』....

 ディスクリプトロイスと呼ばれている

 この能力を手に入れているオーヴァードは少ない。

 何故なら、この能力を発現するには、

 自らが"極限状態"又は"瀕死状態"であり

 更に自らの"生存本能"すらもはね除けてしまうような強烈な感情が起こる事がトリガーとなり始めて発現する"チャンス"が出てくる能力であった。


 その分、発現した能力はどれも強力で、

 能力の中では暴走したジャームですら一息の内に殺せるほどの者も存在した。


 発現したDロイスにより伊藤ジャンの肉体は瀕死状態を回復し、目の前の敵を撃滅するために急速に肉体の改良が行われている。

 ジャンはクロスブリードであり能力は、

 "蜂の力を発現させる"キュマイラと、

 "蜂の羽や針を生成する"ためのエグザイルの二つである。

 その二つの能力がジャンの暴れ回る恐怖の感情により新たな力へと覚醒を始める。

 二つの力が混ざり合いより強くより濃く、変化した力がジャンの肉体へと急激に反映されていく。


 その姿はもう人とは呼べずまた蜂とも呼べない姿だった。

 蜂のような昆虫節を持ちながらも人間の筋肉を有しており背中から生えてきた八枚の羽は蜂のように薄いが所々に血管が浮き出ていた。

 頭からは二本の触角が出現し片目は蜂のような複眼でもう片方は人間の目をしている。


 どちらの形態とも言えずまた中間と呼ぶには融合しすぎている。

 もう"怪物"と形容する他ない姿となっていた。



 ジャンの手に入れたDロイスの名前は、

 "超侵食"《ディープエロージョン》

 恐怖を糧にこの力は強くなる......



 リカルドは怪物へと変異していくジャンの姿を見ながらこの状況を推察していた。

(ジャーム化....って訳じゃなさそうだな。

 ジャームなら"俺達の細胞"が反応する筈だ。)

 ジャーム化したオーヴァードは同じ様にジャーム化した者を知覚することが出来る。

 しかし、ジャンが変貌する様を見てもリカルドの細胞は同じ仲間ジャームだと反応しなかった。

(とすると残された可能性は1つ。

 Dロイス...あのガキ覚醒しやがったのか!)

 いくら戦闘経験が豊富なリカルド・フェリスでもDロイスに覚醒したオーヴァードとの戦闘は殆ど経験したことがなかった。


 リカルドもフェリスも戦闘狂ではあるがバカではない寧ろ一流の殺し屋であった。

 未確認の敵と対峙する際は、情報を集め勝てる可能性を見出だしてから殺す。

 故に敵の能力が分からなくなったリカルドは戦法を変えることにした。

(起きろ!フェリス!お前の"出番"だ。)

 リカルドは自分の中で眠っているフェリスを起こし"人格を交代させる"。

 前にも説明したがリカルドとフェリスは人格を交代してもそれまで行っていた相方の記憶を引き継いでいる。

 故に交代した瞬間からフェリスは距離を空け武器を生成する。

「暫く寝てる間に随分と化物な見た目に変わったね君?(;・ω・)

 まぁ良いや、取りあえず色々と調べさせてもらうよ。」

 フェリスは生成したアサルトライフルとマシンガンをジャンに向けて発砲する。

(貫通力を高めたライフルと破壊力を上げたマシンガン.....さぁてどっちなら効くかな?( ロ_ロ)ゞ)

 ジャンはフェリスから放たれた攻撃を回避することはなく真正面から受け止める。

 銃弾はジャンの身体を捉えるが弾はジャンの肉体を貫通すること無く分厚い鉄の壁にでも当たったかのような音を鳴らしながら弾けていく。

「うげっ!どっちも効かないとかそんなのあり?!!(゜ロ゜ノ)ノ

 えーっと銃弾が効かないとする.....!?」

 突如フェリスは危険を感じ回避をとる。

 すると、さっきまでフェリスがいたところに高速で何がが通りすぎたかと思うと、

 怪物化したジャンがフェリスの後ろにいた。

(見えなかった。

 距離は空いていた筈なのに私が知覚できない速度で近づいてこれるなんて....)

 その瞬間、フェリスはジャンを"獲物"から"敵"へと認識を改めて攻撃を再開する。


 本気の戦闘モードになったフェリスは先程よりも速く複数の武器を生成した。

 ハンドガンから始まり

 ショットガン、アサルトライフル、

 マシンガン、手榴弾、焼夷弾、

 ロケットランチャー。

 そして、生成するや否やジャンに向けて

 弾が切れるまで放ち続ける。


 ジャンは避けること無く攻撃を受け続けていたが突然フェリスからの攻撃が止まった。

 見るとフェリスは"何かの攻撃"により横のビルに叩きつけられていた。

 突如の事にフェリスは攻撃をして来た物体を確認する。

 それは多関節で伸びた"ジャンの左腕"だった。


「カハッ!そんなに....腕が...伸びるなんて聞いてない...よ!(; ̄Д ̄)....」

 口から吐血しながらフェリスはジャンの伸びてきた左腕を見つめる。

 左腕は骨が組み換えられる様な異様な音と共に元の長さに戻った。


 ジャンはフェリスに向き直ると口を開け咆哮すると更なる肉体の変化が起こり始める。

「ギィヤァァァアアア!」

 ジャンの背後から蜂の腹部を模した三本の尻尾が出現する。

 尻尾がフェリスに向くと蜂のように内部から針が出現した。

 しかし、普通の蜂と違い針が"鉤爪状"に

 形状が変化していた。


(私達と戦うために肉体を効率的に変化させてるのね。

 あれだけの攻撃の中で動けたってことは防御能力は覚醒前の"数十倍"は軽くあるわね。

 でも、ちょっと"無茶"しすぎだね。)

 今まで数々の敵と戦ってきたフェリスは肉体を変化させて戦うオーヴァードに弱点があることを知っていた。

 それは"過剰な肉体の変化"はレネゲイドウイルスの侵食率を劇的に高める結果となり暴走の原因になることも....

 暴走を起こせば文字通り見境無く暴れる怪物となる.."ジャーム化"が起こる。

(見た感じもうかなり変化が進んでいる。

 あと少しで"彼は私達と同じ"になる。)

 フェリスはジャンのジャーム化を進めるためにリカルドに意識を交代する。


「.....あー、随分とやられたなフェリス?

 まぁでもコイツが俺達の仲間になるのなら....悪くねぇ.......なぁ怪物!!」

 リカルドは変化が終わったジャンを睨みながら武器を生成する。

(単発の破壊力でダメージが与えられないなら継続的なダメージを与えられる武器を使えば良い。)

 リカルドはチェーンソーを生成し構えるとジャンに向かって走り出す。

「チマチマ待つのは嫌いなんでなぁ!」

 リカルドはチェーンソーをジャンに向かって振り下ろすがジャンの尻尾によって攻撃を止められた。

 リカルドはチェーンソーを尾に向かって振り下ろし続ける。

 最初は尻尾の表面に当たり火花をあげていたが同じ箇所を攻撃し続けた為か最後の一撃でチェーンソーが尾の内部に達し切断された。

 痛みからかジャンが声をあげるが直ぐに切断された部位が再生し今度は三本の尾がまとめてリカルドを襲う。

 チェーンソーで一本は止められるが二本目がチェーンソーに刺さり三本目がリカルドに振り下ろされる。

 リカルドは咄嗟にチェーンソーを離し後ろに回避するが予め回り込んでいたジャンの蹴りが炸裂する。

 すると蹴りを加えたジャンの足が変化し急激に足が伸びてビルの壁に衝突する。

 壁が陥没しビルの柱に衝突すると止まる。


 ジャンは足を戻すと右腕を変化させて針を出現させる。

 その針は巨大化しており西洋の槍の様な形に変化していた。

 変化が終わると衝突したビルに向かってゆっくりと向かっていくジャン。


 リカルドは喰らった蹴りのダメージを

 "回復"するためにもう一度人格を交代する。

 リカルド・フェリスには知られていないもう1つの能力がありそれは人格を交代させる度に肉体のダメージをある程度回復させることが出来る事だ。


 これまでも大きなダメージを受けたことがあったが大抵の傷は人格を一回交代させることで殆ど治すことが出来た。

 それは毒にも有効でこの能力のお陰で、

 ジャンの攻撃を喰らっても、

 リカルド・フェリスの体には毒の効果がまともに発揮されなかった。

 しかし、フェリスに人格を交代しても身体のダメージが"全く回復"しなかった。

(身体が全く動かない。

 こんなこと初めて.....?初めて?

 違う前にもあった。

 その時は...確か.....)


 フェリスが意識をジャンから一瞬離すと

 もう目の前に来ていた。

 ジャンがフェリスに向けて腕の槍をを振り下ろそうとした瞬間、ジャンに何かが巻き付き急に発火した。

 ジャンの後ろから仮面をつけた男が現れ

 フェリスに向けて話しかける。


「あんたがリカルドか?

 それともフェリスか?」


「今のあたしはフェリスよ。

 貴方は?」


「あんたんとこに雇われている

 WORKERだよ。」



 新たな敵の乱入により、

 戦いの終演は近くなる.........

 この狂った舞台を終わらせるのは

 誰なのか?

 それはまだ誰も知らない。




 続く

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