第8話「C」調査

 CatTailでの試食会が終わり自宅に帰って来たジャンは自分の手に渡された不審な資料に目を向け一種の恐怖を感じていた。


(俺は今日、小田嶋ユウサクとコンタクトをとりUGNの情報を手に入れるためにあの場所に行った筈だ......それなのに俺は、

 "任務の更新"を"誰か"に言い渡されその事に疑問を思わずにここまで帰って来た。

 俺は一体何をされたんだ?)


 FHのエージェントとして数々の任務を受けてきたジャンは勿論、精神や意識に作用する攻撃を行うオーヴァードとも戦闘を行ってきた。

 そんな彼でも今回の様に疑問や違和感が全くない精神攻撃は受けたことがなかった。

 今はFHのエージェントが、いない筈のあのバーでこの資料を貰ったことに違和感を感じているが時間がたつ毎にその感情も薄くなっていった。

(このままじゃ...マズイ!)

 ジャンは直ぐにローズに連絡を取った。


 恐らく自分は今まで受けたことのない、

 強力な精神攻撃を受けたのだ。

 まるで"生物を支配する圧倒的上位者"から命令されたかのような.....

 伝えなければ.....もしこの攻撃をした奴が敵なら大変な事態になる。

 自分の身に起きている異常事態を伝えようとし電話が繋がった瞬間、ローズから話しかけてくる。


「何も問題ありませんよジャンくん。」

 その言葉にジャンは呆気に取られて返事をするのを忘れる。

 そんな中でもローズは話し続ける。

「異常なことが起きたと貴方は思っているでしょうが問題ありません。

 "彼"と会った以上、仕方がない弊害です。」

 ローズはジャンに起こっていることが"当然"の出来事であることを伝える。

 もうこの言葉が出た瞬間、ジャンは"彼"の能力に抗う手段を失った。

「それで....次のターゲットについては分かっていますか?ジャンくん。」


 その言葉を聞きジャンは彼から貰った情報を話し出す。

「はい、ターゲットの名前は、

 "塔ヶ崎フミヤ"(とうがさき)

 FHのエージェントでこれまでかなりの任務をこなしてたみたいで、今はF市で何かの任務を行っているようです。」

 そう言いうとローズが驚いたように答える。

「塔ヶ崎....まさか"マスターレイス14"の子飼の部下がターゲットだとわね。」

 "マスターレイス"FHの幹部を表すマスターの称号の中でも重要な意味を持ち選ばれる者は限りなく少なかった。

 そして、その中でもマスターレイス14

 "黒須 左京"(くろす さきょう)は異質の存在だった。

 かつてはイリーガルとしてUGNに協力していたがUGNエージェントにより家族を殺されて以降、全てのオーヴァードを憎み、

 オーヴァードを全て殺すことを目的として、これ迄の数々のUGNエージェントや、イリーガルのオーヴァードを殺害してきた。

 その為、他のFHのエージェントとも折り合いが悪く基本、単独で行動し作戦をこなす

 正に一匹狼であった。


 故に、部下も作らない事で有名だったのだがそんな彼が唯一、部下として手元に置いたのがこの塔ヶ崎フミヤだったわけだ。

(何故、塔ヶ崎はF市にいるのかしら?

 一度だけしか会わなかったけど塔ヶ崎は黒須に対してある種の狂信的な信頼を向けていたはず...そんな彼が黒須を置いて任務を行うのかしら?)

 黒須 左京は、とある事件の影響でN市のUGN支部に強いこだわりを持っており、他の地区で任務を行うことをしていなかった。

 ならば塔ヶ崎がF市にいる意味はないと、

 ローズは考えた。


(兎に角、鍵は塔ヶ崎だと彼は言いたいわけか....)

 「ジャンくんは塔ヶ崎を動向について調べてください。

 必要な情報があれば私の権限で開示させます。」

「塔ヶ崎を発見した際はどう対処しましょうか?」

 ジャンの質問にローズは少し考えてから答える。

「捕縛してこちらに連れてきて下さい。

 多少手荒になっても構いません。

 仮にもマスターレイスの部下なのですから、大抵の事では死なないでしょう。」




 F市の歓楽街の一画で"メンター"は、

 次の計画の準備を行っていた。

 前回、目を付けた少年(根津)は炎と爆発の能力を発現させることに成功させた。

(まぁ、UGNとイリーガルに邪魔されたおかげであの"少年"は捕まってしまったが....)

 そうやって過去の作品の失敗を鑑みながらもメンターは次に能力が発現しそうな人物を探す。


 メンターが"あの組織"から依頼を受けた内容は、「強力な爆発や炎を生み出す能力を持ったオーヴァードを作り出すことだった。」

 何時もなら、我が主(マスターレイス14)

 以外の命令では一切動かないメンターだが今回ばかりは違った。

 今、あの組織と敵対することは我が主にとっても不利益になり得る。

 それ以前に私個人としてあの組織には借りがある....後々面倒な頼み事をされるぐらいならここで協力してチャラにしておくにこしたことはない。


 現に我がマスターは私が組織に協力することに不快感はあれど認めてくれた。

 組織の目指す"最終目的"にも興味があるのだろう。

 そんな事を考えながらメンターはタブレットで"とあるサイト"を覗いていた。

 そこのサイトの運営者はとある

 "FHエージェント"に盲信しているのか、

 彼が行った犯罪の記事や摸倣した事件を起こしては自分のサイトに掲載していた。

(彼ならば丁度良いかもしれない....)

 次のターゲットが決まったメンターはタブレットを閉じ目の前に顔を向けると、

 一人のフードを付けた少年が立っていた。

 彼はメンターを見るなり話しかける。



「お前が"塔ヶ崎"だな?」と

 その言葉から全てを察したメンターは答える。

「同じFHのエージェントならコードネーム

 で呼ぶべきじゃないかな?」


(どうやら、見つかってしまったようだ。)

 メンターはそう心の中で悪態を付くのだった。




 続く

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