第7話「B.C」不穏

 学校が終わり生徒達が帰宅する中で、

 ジャンはスマホでローズに電話をした。

 数コール聞こえた後ローズは電話に出る。


「何か進展でもありましたか?ジャンくん」

 余計な挨拶をせずにローズは本題をジャンに尋ねる。

「はい、鹿波エマの父親と今日コンタクトが取れそうです。」

「そうですか、意外に早く接触出来ましたね。」

「はい、同級生の提案で皆で夕食を取る事になりました。

 その場に父親も来るそうですのでそこで接触を図ろうと思います。」

「成る程、場所は小田嶋ユウサクの家ですか?」

「いえ、鹿波エマの友人がバイトをしているCatTailという店だそうです。」

「............」

 ローズがその店名を聞き黙った事に疑問を覚えたジャンが尋ねようとするとローズが話し始める。

「成る程、中々面白い流れになってきましたね。」

「?.....マスターローズ。」

「いえ、こちらの話です。ジャンくんは予定通りその店で小田嶋と接触してください。

 終わったら経過報告も忘れずに.....では」


 そう言うとローズは電話を切った。

 ジャンはローズの含みを持った解答に疑問を感じつつも家に帰り、準備を整えると店へと向かうのだった。



 夜の町の歓楽街でネオンがきらびやかに輝く中、Bar.CatTailだけはそのなりを潜め休業中の看板が立て掛けられていた。

 姫尾のメールの通りジャンは扉を三回ノックすると姫尾が扉を開けて中に通してくれた。

「我が屋敷へようこそジャンくん!」

 その発言に近くのテーブルで試食の準備をしている同級生の犬神が声をかける。

「お前の屋敷でも無いしここのオーナーは角山さんだろ?

 アホな事言ってないでこっちを手伝え。」

「アホってなんだよ!タツヤ。

 この店の看板娘に対してそんな口を聞いて良いのかなぁ....ねー?角山さん。」


 姫尾はバーのカウンターで料理の仕込みをしている男性に声をかけた。

 今日はオフらしいのかジャージ姿で調理をしながら姫尾の質問に答える。

「...........知らん。」

「相変わらず、クールですよね角山さんって....あっ、ジャンくん紹介するね。

 この人は店のオーナー兼バーテンダーの角山デンシチさん。(かどやま)

 そしてカウンターで寝転んでいるこの猫ちゃんはクロって言うんだ。

 家の店の看板猫であたしと二人で店を盛り立てているって訳よ。」

「伊藤...気にするな。

 何時もの姫尾の妄言だ。」

 犬神がジャンにそう伝えると姫尾は不服そうな顔をしながらも席に案内してくれている。

 どうやら、ビリヤード台を机の代わりにしているようで周りには複数の椅子が置かれ、

 馴染みの同級生以外にも知らない人物が数人座っていた。

 そこでまだ話していない同級生に声をかける。

「海田くん、君もここに来ていたんだね?」

 声をかけられた海田は驚きながらも辿々しく答える。

「あっ....うん、僕や犬神や姫尾は同じマンションに住んでて....そのマンションのオーナーが僕たちのためにご飯を奢ってくれているんだ。」

「随分と優しい方なんだね君たちのマンションのオーナーは。」

 そんな話をしているとジャンの背後から強烈な"違和感"を感じ振り向こうとするが、

『気のせいだ。』という声が聞こえて気のせいだと理解したジャンは振り向くのを止めた。


 そんな事をしていると角山さんの料理が完成したらしくジャンは集まった皆と共に席に着き食事を始めた。


 食事が終わると小田嶋が最近の娘の行動についてオレに尋ねてきた。

 どうやら、娘について心配なことがあるらしく特に男関係についてしつこく聞かれていると鹿波に聞こえたらしく遠くへ連れ去られていった。

 そんな中、同級生達のマンションのオーナーである黒宮アカシという男が俺に話しかけてきた。

「君が伊藤ジャンだな?

 君の話は"彼女"から聞いているよ。」

 姫尾から俺の話を聞いていると思い話を合わせる。

「はい、姫尾さんには仲良くして貰ってますよ。」


「そうなのか、いきなりで悪いんだが君はFHのエージェントなのか?」

『正直に答えてくれ。』

 俺は彼からの質問に"正直に"答える。

「はい、その通りです。」

「ここには任務で来たのか?」

 黒宮の質問に俺はFHのエージェントだとバレないために誤魔化しを行う。

「何の事ですか?僕は只の高校生ですよ?」

『本当に?何か任務を受けていないのかな?』

 彼からの質問に俺は誠実に答える。

「いえ、鹿波エマとその父、小田嶋ユウサクに接触し情報を引き出すようにマスターローズから任務を受けています。」


『成る程、つまり君は"彼女"からの使いということか.....伊藤ジャン君の"任務"を更新する。』

 俺は新たな任務を受けるため彼の声に耳を傾け続ける。

『鹿波エマ、小田嶋ユウサクへの調査は終了とし今後は"とある人物"の動向を調べて貰いたいマスターローズには私の方から話を通しておこう。

 詳しいことは後日資料として渡す。』

「はい、承知しました。」

 俺は彼から更新された任務を受諾する。

『そして、君は任務の事は覚えていても私達と話したことは忘れてしまう....問題ないね?』

「はい、問題ありません。」

 そこで、俺の意識は一瞬飛ぶと直ぐに戻り目の前で"初対面の男性"に話をかける。

「....貴方は黒宮さんですよね?

 僕に何か用ですか?」

 俺の質問に黒宮は答える。

「いいや、"もう何もないよ"。

 それよりも彼らが呼んでたよ。」

 そう言って同級生達を指差す黒宮。

 俺は黒宮に言われたように同級生のところに行き談笑するのだった。



 事が終わりバーのカウンターに黒宮が向かうと角山がウイスキーを出してくれる。

 それに口をつけながら今回の立役者に声をかける。

「相変わらずの手際ですね?マスター。」

 そう呼ばれるとバーのマスターではなく別の存在が答える。

『少し怪しかったのでね....様子見がてら、力を使ったら彼は即座に察知したよ。

 薔薇姫も良い駒を持っているようだ。』

 FHのトップエージェントである薔薇姫、

 マスターローズから送られた駒と対峙した彼は率直な感想を述べる。

「それで....彼に何をさせる気なんですか?」

『ここ最近、オーヴァードの起こす犯罪が増えている。

 しかも能力に覚醒して直ぐの奴等ばかりだ。

 恐らく、誰かが覚醒の手引きをしている...."そいつ"を見つけ出す。』

『幸いな事に薔薇姫とリヴァイアサンの牙との情報から心当たりが一人いる。』

「そして、見つかったら彼に始末させるという訳ですか?」


 黒宮の発言にマスターは笑いながら答える。

『ふっふっふ、そこまで私も外道ではないよ。

 しかし、彼の能力なら対象を無傷で捕獲できる可能性が高い....それに"保険"もちゃんとつけておく。

 薔薇姫と険悪な関係にはなりたくないからね。』

 マスターの計画に不服そうな顔をしながらも黒宮はその合理性から納得しようとする。

 その表情を見透かされてかマスターが話す。

『やはり、子供を利用するのは気にくわないか?』

「............」

 黒宮は黙ったまま答えない。

『あの"一件"のせいで君はUGNを抜けてWORKERになった。

 君の感情も理解出来る......が』

「分かっています。

 私は正義ではない....勿論貴方も。」

「私達が動くのは仕事の障害になり得る可能性があるから....そうですよね?」

 黒宮の言葉にマスターは同意を見せる。

『そうだ。

 WORKERである我々とって大事なのは"仲間とその居場所を守る"こと.....』


『例え、どんな敵であろうとね。』




 続く




 


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