第6話「B,C」平穏

 ピピピピ!ピピピピ!

 目覚まし時計がけたたましくなりジャンは目を覚ます。


 ローズに用意して貰ったアジトは一軒家でありジャンは海外から両親の都合で一人引っ越してきた高校生男子の役を演じていた。

 ジャンは体を起こしシャワーを浴びて服を着替えるとテレビのスイッチを入れる。

 事件等のニュースが無いことを確かめると、キッチンに行きカップ麺に注ぐお湯を作る。

 元々、スラム育ちの為食べ物は盗んで食うかしかしてこなかったせいで、ジャンは料理を全くしてこなかった。


 一応、FHのエージェントになる訓練の一貫として作っては見たものの炭素の塊を量産してしまったせいでボスからは料理はしなくて良いと言われてしまった為、潜入任務を始めてからはカップ麺やコンビニ弁当が主食となっていた。

 お湯が出来カップ麺に注ぐと乱雑に資料がおかれたテーブルにカップ麺を持っていき読みかけの資料を読み直し始める。


 そこにはローズが集めた鹿波エマの情報が記載されていた。

 FHの実験の為集められた子供の一人で処分されそうになるところをUGN援護課 課長である小田嶋ユウサクに救われて以降、ユウサクの養女となる。

 その後、UGNチルドレンとなり援護課に勤務しつつも表の顔はF市公立高校に通う高校二年の一生徒を演じていた。

 ジャンは鹿波に接触し色々と話をしてみたのだが有益な情報は得られず仕舞いだった。


 しかも、横で話を聞いていた姫尾とかいう女が話に混じってきたお陰で毎回話があまり進まず録な情報が引き出せないでいた。

 その事に苛立ちを感じつつもジャンは資料を整理し学校に行くため部屋を後にした。


 学校に付き自分の教室に入るとジャンを見た女子が集まってきた。

「あっ!ジャンくんおはよう!」

「ねぇねぇ、今日の一時間目古典なんだけど分からないところあるから教えてくれない?」

「あーっ!ずるい!私にも教えてよジャンくん。」

(全く、コイツらは毎度毎度邪魔しやがって!)

 ジャンは心の中で近寄ってくる彼女らに悪態をつきながらも笑顔で対応する。

「おはようみんな!今日もみんな綺麗だね。

 僕も君達と勉強が出来るならとても嬉しいよ。

 ただ、僕は静かでおしとやかな君達も見てみたいな?」

 歯が浮くような台詞なのだが言われた女子達は皆、顔を赤らめて嬉しそうにしていた。

 転校初日から外人でイケメンのジャンと話したいのか女生徒が群がってきたのだが、

 春日さんに言われて勉強していたマナーの中にあった女性の褒め方をそのまま言ったら、どうやら直球で褒めるやり方が思ったよりも女子に効いたらしくまるで絵本から出て来た王子様の様な扱いを毎回受けていた。

(その分、男子からは嫉妬の感情からかあまり仲の良い人物は出来なかったのだが....)


 群がる女子を押し退けて自分の席に着くと、

 姫尾がジャンに話しかけてくる。

「相変わらずのモテッぷりだねぇ、ジャンくんは。」

(笑ってんじゃねーぞ!お前何ぞ針指せば一発で殺せるって言うのに....)

 苛立ちを声には乗せず作り笑いを強めながら答える。

「そうかな?好かれるのは嬉しいから悪い気はしないけど....男子生徒の皆と仲良くできないのは辛いね。」

「まぁ、八割嫉妬二割は羨ましさがあるからね仕方ないよ...どんまいどんまい!」

 そう言いながら姫尾はジャンの背中を叩く。

(コイツ、やっぱり殺したい。)

 ジャンはそう感じながら席に着くと、

 チャイムギリギリで入ってくる教室に入ってくる鹿波を見つけた。

「はぁはぁはぁ....セーフ!」

「あっはっはエマちゃん今回はかなりギリギリだったねー。」

「ちょっと....色々と....あって.....ね....ハァハァ。」

 走って息が切れ切れになりながらも彼女は自分の席につく。

 鹿波は授業を途中退席したり学校を遅刻しそうになったりする事が多くある意味で問題児扱いされていると言うのが学校内での彼女の評価だった。

(UGNの任務の為に学校休んでいると言えない以上、そう言う評価になるのは仕方がないが少し不憫だな。)

 ジャンは鹿波に同情を向けつつも話しかける。


「鹿波さん、今日も遅刻しかけたね?何かあったの?」

「うへっ!なっ何でそんなことを?」

「いや、何か最近鹿波さん妙に疲れた顔をしていたし大変なことでもあったのかなと思って」

 惚けた様に鹿波に尋ねるがジャンは詳細を知っていた。

 オーヴァードが学校で起こした放火事件を二人のイリーガルと共に解決した問題について支部長はその問題を査問委員会にかけるつもりだった為である。

「いや、ちょっと用があってね。

 それで遅れた訳で任.....じゃなかった用事とは関係ないよ。」

 分かりやすい鹿波の反応を見たジャンは推察する。

(今日の遅刻この前の事件が関連している....となると支部長とのいさかいが原因になっているわけか。

 最近、本部からエージェントが一人入ってきた連絡も受けているし何とか支部に潜入できれば....)

「そう言えば鹿波さんのお父さんって確か

 輸入業の人なんだよね?」

「うん、輸入って言っても小さい部署の課長だけどね。」

「実は僕の家族も輸入関係の仕事をしていてね僕の両親が君のお父さんと話がしたいって言っているんだ。

 それで何だけど会社に行くことって出来るのかな?」

「うーん、難しいと思う。

 流石に友達だからって簡単には紹介できないよ。」

(チッ!そう簡単にはいかないか。)


 そうして、ジャンは打開策を考えていると横から姫尾が会話に入ってきた。

「えーー!、お父さん優しそうだから問題ないんじゃないの?

 一回聞いてみなよ。」

「姫尾さんは鹿波さんのお父さんと面識があるのかい?」

「まーね、あたし達がバイトしてるお店でエマとお父さんは朝御飯食べに毎回来てくれるんだ。」

「そうなんだね羨ましいよ。」

 ジャンのその言葉にエマは尋ねる。

「何で羨ましいの?ジャンくん。」

「家は両親二人とも海外で仕事をしていてねだから、基本的にご飯は一人で食べるんだけど僕は料理があんまり上手くなくてね。

 だから、コンビニ弁当とかカップ麺で生活してるんだよ。」

「意外に不健康な生活してるんだねジャンくんは、」

「ははは....まぁ、仕方ないさ。」

 ジャン自体、食に関して全く興味のないので平気なのだがこの前ボス《春日》にこの事を話すと「バカ野郎!体調管理も任務の内だ。」と言われ近日中に食生活を改善しろとボスとローズ二人から命令を受けてはいたが正直、ここに関しては解決策が浮かんでなく現状サプリメントを飲んで何とかしようとジャンは思っていた。

 そんな中、姫尾がジャンに助け船を出す。

「なら、今夜の夕食にジャンくんも来たら良いじゃん。」

「夕食?」

 ジャンの疑問に姫尾が答える。

「うん、今日はバイトの店が定休日でついでに新メニューの試食会をするんだよね。

 それで結構量が出るからエマちゃん家にも協力して貰うつもりだったんだ。」

 思いもよらない姫尾からの提案にジャンは思考を巡らせる。

(小田嶋ユウサクと接触する良い機会だ。

 上手く行けば支部に入り込むことも出来る。

 それに食生活に関する命令も完遂する事が出来るかもしれない。)

 姫尾の提案がメリットが多いと判断したジャンは姫尾に笑顔で答える。

「それじゃあ、お言葉に甘えることにするよ。

 それで、お店の場所は何処かな?」

「後で時間と場所をメールするよ。

 ....あっ!先生が来たみたい。」

 そう言って姫尾が視線を正面に移すと先生が部屋に入ってきて授業の準備を始めていた。


 こうして何時もの平穏な一日が始まる。





 続く


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