第5話「C」潜入
廃工場での一件から数日が経過し怪我が完治したジャンと春日はローズの部屋へと訪れていた。
「二人とも完治したようでなりよりですね。」
ローズの言葉に春日が答える。
「御託は良い....犯人を取り逃がしたんだ。
責任はちゃんと取る。」
春日の言葉を聞き、ジャンが言う。
「いえ、元を正せば私が本丸を逃がしたのが原因です....責任は私にあります。」
「ジャン、黙っていろ。
部下の責任は上司の責任だ....お前は関係ない。」
二人の言い争いにローズは口を挟む。
「何か勘違いをしているようですが、
私が二人を呼んだのはこの一件の責任を取らせる為ではありませんよ?」
「ヤテベオの一件はエージェント一人で解決出来るなんて思ってもいませんしディアボロと戦ったグリードに関しても相手が悪すぎましたからね。」
「知っているのか?グリードの事を。」
春日の問いにローズは答える。
「えぇ、WORKERの中でも武闘派として名高い組織ですよゴールドキャンプは」
「なら、教えてくれ。
アイツらは一体何なんだ?」
「WORKER《ワーカー》とはオーヴァードの組織の1つでまぁ傭兵みたいな物です。」
「傭兵?『ギルド』や『ティンダロス』みたいな連中か?」
「ギルドのように世界規模の存在ではありませんしティンダロスの様に表立って行動するほど明るい組織でもありませんよ?」
『ギルド』とは犯罪者の国連と呼ばれるほどの巨大犯罪結社でFHの関わらない事件にはほぼギルドが関与しているとまで言われている。
『ティンダロス』はレネゲイドの存在に気づいた民間人によって組織された市民団体だが昔はオーヴァードの能力を使って傭兵まがいの事を行っていた。
最近はトップが変わり考えも変わって自警団的な扱いに変わったらしいのだが.....
「WORKERは『トップ』と呼ばれるリーダーが組織する集団でその種類は多岐にわたります。
荒事専門の集団もあれば窃盗や逃走、道具の調達に特化した組織など様々です。」
「F市で精力的に活動しているので私達も利用したりしますよ。」
「マスターローズが使う人材となれば相当腕が立つんだろうな?」
「まぁ、それこそピンキリですがその中でもゴールドキャンプは別格ですよ?」
「彼等は荒事の中でも汚れ仕事を専門として請け負っています。
理由は仕事を全て報酬の高さだけで選んでいるのですが実力は本物で過去にUGNやFHのエージェントを何人も殺害しています。」
「成る程、それならあの強さも納得がいく。」
「しかし、だとすると面倒だな謎の組織とゴールドキャンプ両方を相手にしなければならないとは....」
「えぇ、ですので二人には別々に任務をして貰おうと思います。」
「ちょっと待てジャンは俺の部下だ。
勝手に命令なしないで貰おうか?」
春日の言葉に横にいたバルゲロが良い放つ。
「マスターローズに助けて貰っておいて随分な言い草だなディアボロス?
また、医務室送りになりたいか?」
「お止めなさいバルゲロ。
ディアボロス、これはセントラルドグマからの直々の命令ですので拒否はできませんよ?」
『セントラルドグマ』
FHの最高意志決定機関であり、FHのエージェントは例えマスターであってもその命令は遵守しなければならない。
「セントラル直々の命令!?
随分と敵を危険視してるみたいだな本部は」
「まぁ、仕方ないでしょう?
これだけ調べても組織の名前すら分からない...それでいてFHのエージェントが引き抜かれているともなれば死活問題です。」
春日は少し考えると溜め息を吐きながら言った。
「はーっ、本部の意向ならば仕方がない。
それで俺とジャンには何をさせる気なんだ?」
「ディアボロス、貴方はバルゲロと共に、
ゴールドキャンプの調査と謎の組織の手掛かりを調べて貰います。」
「手掛かり?そんなものあったのか?」
「えぇ、これです。」
そう言うとローズは手元のタブレットを操作すると一枚の記事を二人に見せる。
「学校で放火事件が発生し重傷者が一名出た....これが一体何なんだ?」
「どうやら、この事件を起こした犯人は、
オーヴァードの様で鎮圧に来たUGNのエージェントをヤテベオが相手をしたらしいのですよ。」
「この事件に関係してると思っているわけか?」
「それもありますがこの事件を先導した相手に一人心当たりがありましてね。
ディアボロスにはその調査をお願いしたく。」
「.....了解した。」
春日は納得すると今まで黙っていたジャンが話し始める。
「それでは俺の仕事は何なんですか?」
「貴方にはここに潜入して貰い"彼女"について調べて貰います。」
ローズが一枚の写真を手渡す。
「彼女は一体?」
「ヤテベオとスラッシュが盗んだトラックの事件に関係している人物です。
彼女はUGNのエージェントですので今後、接触してくる可能性があります。」
「貴方はその調査を行ってください。」
ジャンは手渡された写真を見ながら、自分の任務を確認すると了承の返事をローズに行った。
二日後、F市公立高校 2年1組 教室内にて
朝礼が終わり生徒達が教室で談笑していると担任が部屋に入ってきて話し始める。
「はい、注目!
今日からこのクラスに転入してきた生徒が来たので皆に紹介しよう!
さぁ、入ってきて。」
その台詞を合図に学生服を身に纏った一人の男子生徒が教室に入ってくる。
女子生徒からは「何このイケメン!」と黄色い声援が飛びつつも男子生徒は黒板にチョークで自分の名前を書き終えると皆に向かって挨拶をした。
「今日からこの学校に転入してきました。
伊藤 ジャンです。
皆さん、宜しくお願いします。」
こうしてFHエージェント、伊藤 ジャンの潜入任務が始まった。
続く
【おまけ】
二人への説明が終わるとローズが話し始める。
「取りあえず君には潜入任務のために用意した戸籍とか道具とかの受け渡しがあるから外に待たせてある車に乗って別のアジトに向かってください良いですね?」
「承知いたしました。」
ジャンは返事をするとボス《春日》に一礼して部屋を後にする。
「気にくわないな。」
ジャンが出ていったのを確認すると春日は、ローズに向かって話しかける。
「潜入任務とは言いつつも俺達よりもヤテベオやスラッシュと遭遇する危険性が高いんじゃないのか?」
春日の危惧にローズは答える。
「問題ありませんよ。
彼には極力能力は使わずに偵察だけするように言っておきますから」
「それにしても自分の部下の割にははとても心配するのですねディアボロ?
昔の貴方なら考えられない行為だと思うのですが....」
「勘違いするな!俺は作戦の成功率を考えて提案しているだけだ。」
「ジャンは優秀な男ではあるがまだ経験が少なく未熟な所がある。
今回の任務は潜入だ....1つのミスが命取りになりかねない。」
「まぁ、それもそうですね。
しかし、この決定は覆りませんよ?」
「.....何故だ?」
春日の問いにローズは呆れながら答える。
「ディアボロ?今回の潜入は彼女と同じ視点に立ち信用を勝ち得る必要があります。」
「貴方は高校生にはなれませんよディアボロ。」
「.........先生なら」
「無理ですね顔的に。」
「......そうか。」
話が終わり部屋を退出する春日の目には何故か涙が浮かんでいる様に見えたローズであった。
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