第4話「C」仕事

 ジャンの仕掛けた発信器の示す場所であるF市の廃工場に春日はローズの部下数名をつれて集まった。

(発信器を仕掛けてからもう1時間はたっている....手がかりでもあれば良いんだがな。)

 春日はそう思いながら工場内に入りトラックを探そうとするがその必要はなかった。


 何故なら目の前でトラックをスクラップに変えている集団を見つけたからだ。

 春日はその集団に声をかける。

「お前ら全員動くな。」

 その声を聞いた集団が春日に目を向ける。

 その中で白スーツに$マークが付いた仮面をつけた人物が春日に向けて話し始める。

「何者だ?どうしてここが分かった。」

「FHから盗みを働いておいて無事で済むわけが無いだろう?」

「FH?」

 仮面をつけた男はFHの名前を聞くと少し考えてから合点がいくと話し始める。

「成る程、どうやら"私のクライアント"はFHを怒らせてしまったから私達を雇ったというわけか。」


「クライアント?どういうことだ。」

「我々はWORKER《ワーカー》だ。

 ここにはクライアントの依頼で来ている。」


『WORKER』最近現れたUGNやFHに属さない第三のオーヴァード勢力であり、FHも全貌を知らない未知の勢力であった。


「WORKER?お前らの事は知らないが依頼と言うことはトラックを盗んだのは、

 別のヤツラという訳だな。」

「さぁな、我々はその事には関与していないから知らない。」

「我々の仕事は、証拠の隠滅だ。

 "この工場一帯丸ごとのな"」

「させるか!」

 仮面の男の言葉から次の行動が分かった春日は能力を発動し腕部を獣の腕に変異させると仮面の男に襲いかかった。

 しかし、その攻撃は仮面の男の隣にいた人物に阻まれた。

 隣の人物に獣の腕が突き立てられるが、

 ガキン!という金属音と共に止まる。

 春日は庇った人物を見るとそれは人ではなく"人の形をしている金色の金属の塊"だった。

「何だこれは?」

 春日の疑問に仮面の男が答える。

「これは私の盾であり矛だよ。」

 仮面の男は思い出したように話す。

「そう言えば自己紹介をしていなかったな。」


「私の名前はグリード、WORKER『ゴールドネスト』のトップを勤めている者だ。」

「我々は報酬次第でどんな仕事でも引き受けるので御入り用の際は是非検討を....」

「何を言っている?俺が貴様らを逃がすと思っているのか?」

「いいや、"逃がしてもらう"つもりはないよ力付くで逃げるだけだよ。」

 グリードは能力を発動すると彼の周りにいた人が崩れて黄金の金属に変化する。

「私の能力は金を意のままに操れる。」

 嫌な予感がした春日は逃げようとするが春日の腕が人形の内部に飲み込まれてしまっていた。

「ぐっ!貴様!」


「ゴールドウェーブ」

 グリードの周りにある大量の金が濁流となって工場内全てを襲った。

 工場を支えていた鉄骨が濁流により折れて潰され工場は跡形もなく壊された。

 残されたのは濁流によりダメージを受けて倒れているローズの部下と片腕を失った春日一人だけだった。

「まさか、ゴールドウェーブを耐えるとはな....」

 春日は失った片腕を抑えながら思案する。

(失った片腕の再生には時間がかかる...それにあのグリードという奴の能力は俺の能力と相性が悪い。連れてきた味方も全員やられちまってる....不味いなこれは)

 自分の状況を冷静に分析しながらも春日の頭には逃亡という考えはなかった。

「丁度良いハンデだ。」

 その春日の発言にグリードは答える。

「強がりはよせ....お前の能力は見たところ近接攻撃に特化しているのだろう?

 私の能力とは相性が悪い筈だ。」


「あぁ、確かにそうだな俺の能力とは相性が悪いが..."コイツとは悪くない"筈だぞ?」

 その言葉を合図にグリードの背後に黒い円が現れると銃声が一発響いた。

 突如、グリードの胸に穴が空き黒い円の中から燕尾服を来た男性が出てくる。

「随分と遅い救援だな?バルデロ。」

 春日は現れた男性にそう問いかける。

「貴様が援護はいらないと言ったのだろう?

 マスターローズがお前に"盗聴機"を持たせて置かなかったら死んでいたところだ。」

 マスターローズは部下を預ける以外にも保険として春日に盗聴機を持たせていた。

 そして、ピンチになったら援軍を送る算段を予め春日にも伝えていたのだ。

「それにしても心臓めがけて一発とは死んだら情報が手に入らなくなるぞ。」

「それに関してはもう諦めてる...見ろ。」

 バルデロはそう言いながらグリードのマスクを取るとそこには先程と同じ金で出来た顔が像と同じようになっていた。

「どうやらグリードはあの技を発動させた時に体を身代わり《金の像》と交換し上手く逃亡したようだな。」

「相当に頭の切れる奴だなグリードって男は。」

「あぁ、ここF市で活動しているWORKERの中でもかなり強い相手だからな。

 ランクA相当の実力はあるだろう。」

「あれだけの大技を撃てる相手なら納得だ。」

 そう言うと春日は地面に座り失った腕を急速再生させ元に戻した。

「相変わらずとんでもない再生能力だな。」


 春日 恭二...FHエージェントとしてエリート街道を歩んでいた彼はとある任務を失敗して以降まるで貧乏神に憑かれた様に任務の失敗が増えていたがそれでも彼が生き残ってこれたのはこの常軌を逸した再生能力にある。

 通常のオーヴァードは普通の人間よりも

回復能力は高いがそれでも四肢の欠損や臓器の修復等は行うことが出来ない。


再生に特化した能力でも数秒で失った腕を生やせる者はそういない。

更に彼はトライブリードであるのに再生能力が減少するどころかむしろ上昇していた。

 そんな春日の特異な能力にバルデロが疑問を浮かべながらも助けた春日にマスターローズの命令を伝える。


「ディアブロ、マスターローズの命令だ。

 情報が手に入らなくなった以上、追撃は不可能だ。

伊藤ジャンと共に怪我の治療を行い済み

次第、別の"任務"を与えるそうだ。」

「任務は失敗したのにか?」

「確かに失敗はしたが敵が"置き土産"を残してくれたからな。」

 バルデロはそう言いながらグリードを

かたどった金の像を銃で小突く。


「これだけの金だ......

集めて売れば相当な金になる。

失敗した分の穴埋めには丁度言い。」

「なら、お言葉に甘えるとしよう。

 バルデロ、ゲートを作ってくれ。」

 春日の言葉にバルデロは無表情で手をかざし黒い円を出現させる。

「医務室に繋げてある.....さっさと行け。」

 春日は黒い円に入るとその場から消えた。


 バルデロは周りに散乱している金に目を向けながら(この量を運ぶのは骨が折れそうだ。)と思いつつも能力を発動させるのだった。



 F市の下水道を歩いているグリードはスマホを取り出しクライアントにメールを打ち込む。


『任務は完了しました。

 報酬はいつもの口座に、

 それとFHからの妨害を受けましたのでご報告までに...』

 グリードはスマホのフォルダから襲ってきた春日の写真を取り出すとメールに添付すると送信した。

(しかし、まさか"ドール"がやられてしまうとは.....)


 『ドール』はグリードの作り出す金の像の名称で身代わりにしたり能力を使用するための材料にも出来る為、彼が最も使用する技の1つであった。

(ドールとは言えある程度は動かすことも出来ますから軽く能力を使用して攻撃しようかと思ったら心臓に一発で機能停止。

 あの弾...最近UGNで開発されたオーヴァードにも効くと噂の"細胞塗布弾"ですかね?)

「それにしてもUGN以外にもFHが相手となると少々厳しいですねぇ....報酬の増額をしてもらわないと割に合いませんよ。」

 するとスマホにメールが届いた。

「おっと!噂をすれば。」

 グリードはメールを開き中を確認する。

 その内容を見るとグリードの顔は笑顔になった。

「全く、私のクライアントは何て冴えているのでしょう!私の好みを分かってらっしゃる。」

 そこには次の任務の依頼とFHを相手取る事から増額された報酬が記載されていた。

 通常の10倍の報酬にグリードは答える。

「ゴールドキャンプの理念は報酬が全て.....どんなに敵を作ろうとも報酬が良ければ構いません。」


「さぁ、新しいお仕事を始めましょう。」

 グリードはメールに返信をすると下水道の奥に消えていった。




 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る