第1話「C」毒
F市の倉庫街の一角で俺達はボスである春日
取引の相手は所謂、裏社会の連中。
取引の中身は....まぁコンビニで買えるような物じゃないことは分かる。
取引相手との交渉はスムーズに進んでいた。
「相変わらず、上物が揃っていますねぇ」
取引相手の男が運んできたブツを眺めながら俺達に話しかける。
「それじゃあ、交渉は成立で構わないよな?」
FHの交渉役が話をまとめて取引相手からジュラルミンケースを受け取ろうとするが、
そこで取引相手から思わぬ言葉が放たれた。
「所で風の噂で聞いたのですが....
今回の取引がUGNにバレてるかもしれないと言うのは本当なんですか?」
「誰からそんな話を聞いた?」
「嫌ねぇ我々の業界では情報が命ですから、何でもそちらのボスがヘマをして情報が漏れたとか。」
俺はその言い方に苛立ちを覚え一瞬、能力を発動させそうになるがグッと堪えた。
交渉役も不機嫌な顔をしながら話を続ける。
「うちらのボスにケチを付けるのはあんたらの勝手だがまだ取引が終わってない段階でけしかけるのは違うんじゃないのか。」
「これはビジネスだお互いに誠意をもって対応するべき事だろ?」
すると、取引相手の後ろにいた取り巻きが話に割り込んでくる。
「はっ!何が誠意だ。家らの組と取引できるだけありがたく思えや。」
「まぁ、待ちなさい取引相手を怒らせるべきじゃないだろう?」
そう言って取引相手は取り巻きをなだめるが明らかにやる気がない。
むしろ、わざと増長させていた。
「聞いてるぜぇ、てめぇんとこのボス最近落ち目らしいじゃねーかオーヴァードだか何だか知らねーけどよ。」
「こっちはワザワザ落ちぶれたヤツと取引してやってんだよそこ理解しろよなぁ?」
そこまで言わせてから交渉役が話を続ける。
「つまり、落ちぶれている我々とは取引できないと?」
「いえいえ、ただ貴方達に払う金額が高すぎると思って....」
「なら、交渉決裂だな。」
「え?」
先程まで丁寧に喋っていた交渉役の口調が変わると俺に声をかけてきた。
「ジャン...決裂だ殺していい。」
その言葉を待っていた俺はさっきまで取引していたヤツラを殺すために歩み寄っていくのだった。
ジャンと呼ばれた15〜16の青年が俺達の方に歩み寄ってくる。
(ふっ、なめ腐ってるガキ一匹こっちに寄越して何する気か知らねーが....地獄を見て貰おうか。)
そう考えた元取引相手は取り巻きに合図をすると数十人が武器を持って青年を取り囲んだ。
そして、さっきまで挑発していた取り巻きの男が持っていた拳銃をその青年のこめかみに押し付けた。
「ガキは帰ってママと寝てろよなぁ?」
完全にバカにした態度で青年を見つめていた。
取引相手の組はオーヴァードの危険性は知っていたが、彼等は最近"手に入れた武器"を使ってオーヴァードを撃退することが出来ていた。
現に取り巻きの彼が持っている銃の弾はオーヴァードを殺傷できる特殊な材質で出来ていたのだ。
しかし、青年はこめかみに銃を突き付けられながら呟いた。
「....だけか?」
「あ?」
「言い残す言葉はそれだけか?」
刹那、銃を突き付けていた青年は視界から消えると胸に強い衝撃を感じ取り巻きは命を失った。
一部始終を見ていた取引相手は何が起こったのか分からずに驚いている。
(こっこのガキっ、一瞬で目の前から消えたと思ったら後ろに回り込んでいやがった....しかもその後すぐに銃を突き付けてたアイツが倒れやがった。)
現状を正確に把握できない取引相手は取り合えず目の前の青年を殺すために取り巻きに指示を飛ばした。
しかし、それよりも早く青年は囲っていた取り巻きの周りを素早く一周回ると止まって俺の方に歩み寄ってきた。
俺は取り巻きに指示をするが、誰一人聞き入れなかった。
全員、心臓を押さえて苦しみながら倒れていったからである。
「遅効性の神経毒を心臓に打ち込んだ。
ボスをコケにしたことを後悔しながら死ぬと良い。」
取引相手はコイツらが前に殺したオーヴァード達とは確実に違うとここで始めて認識した。
「まっ、待ってくれ!かっ金は迷惑料も付けて払うよ三倍...いや四倍だそう。」
「黙れ。たかが人間無勢が大人しく後悔しながら死ね。」
そう言うと青年は取引相手の心臓に向かって腕を打ち込んだ。
取引相手は打ち込まれてすぐ痙攣を起こし即死した。
「ジャン、終わったかい?」
交渉役のエージェントが俺に話しかける。
「はい、そちらはどうですか?」
「こっちも問題ないよ...金も手に入ったしあの組への落とし前は後日やることにするからさ。」
「しかし、バカな連中だよ。
大方、そこら辺のオーヴァードと我らFHを同じに考えていたのだろう。」
そう言うと交渉役がスマホを取り出し電話をかける相手は当然ボスだ。
「ボス、私です....はい実は取引金額を値切ろうとしたみたいでして....はい勿論始末致しました。
....はい、後日必ず...ジャンにですか?」
そう言うと交渉役が俺にスマホを渡してきた。
「ボスがお前に話があるそうだ。」
俺はスマホを受け取り話す。
「もしもし」
ジャンが電話に出るとボス《春日》が何時ものように不機嫌な口調で話し始めた。
「俺だ、ジャンお前にはもう一働きして貰う。」
「その倉庫街の近くで輸送していた俺達のトラックが謎の二人組に奪われたらしい、
取り返してこい。」
「分かりました直ぐに向かいます。」
ボスが電話を切るとジャンはスマホを交渉役に返してトラックの捜索に向かった。
トラックの捜索を行うため付近を調べるジャンは上空に浮かんでいる奇妙な物体を確認した。
(何だ?木の塊が浮いてる?.....あの真ん中のヤツってもしかしてトラックじゃないか?)
俺は詳細を確認するため能力を発動し背中から四枚の羽を出現させる。
その羽は高速で動きジャンの体を浮かせると上空にある木の塊に向かって飛び始めた。
飛びながら能力を発動し片目を昆虫の複眼の様に変化させると木の塊に向かって焦点を合わせ視界をズームさせる。
すると木の塊の上に二人の人を確認し木で覆っている内部にはトラックが包まれていた。
(ボスの言っていたのはこのトラックで間違いなさそうだな....恐らくどちらが又は両方が能力を使ってあのトラックを運んでいるんだろう。)
ジャンはトラックを奪取する方法を考えていると二人の内の一人がこちらを向くと腕をふった。
その瞬間ジャンは回避行動を行うと強烈なかまいたちが通り過ぎ顔を掠めた。
ジャンの顔から一筋の血が流れる中、二人のいた方向に顔を向けると攻撃をしてきた者が空を飛びこちらに向かってきた。
「俺達を追って来る気配を感じて来てみたらガキ一匹とは、随分となめられたものだな。」
向かってきた人物がジャンを見ながらそう答える。
「そのトラックをどうするつもりだ?」
ジャンは冷静に相手に尋ねる。
「知ってどうする?」
「その荷物は我等FHの所有物だ返して貰う。」
ジャンがFHの陣営だと知ると疑問を呈しながら答える。
「FH?この"トラックも中身もお前らの物"では無い筈なのだが...まぁいい、どちらにしても渡す筋合いは無い。」
その一言を聞くとジャンは目の前の人物に向かって臨戦態勢をとりこう続けた。
「ならば、力ずくで奪う。」
殺気を込めた構えを見ながらも余裕で言葉を返す。
「ほぅ、ならばこちらも力ずくで問題を解決しようか。」
「若き蛮勇に敬意を表して名を教えよう俺の名は"スラッシュ"だ。」
すると、ジャンも返す。
「俺はFHエージェントが一人、ボスの命令を忠実に実行する者.......
貴様の命はここで貰う。」
上空500mの空の上で誰にも知られないもう1つの戦いが始まろうとしていた。
続く
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