第14話「B」謎の組織

 シルエットによる爆破テロを解決してから、1週間がたち鹿波エマは支部長室に呼ばれていた。

 そこには支部長である毛利さん以外にも見たことがある人が座っていた。


「君が鹿波エマくんか、始めまして"UGN日本支部の支部長"をしている『霧谷雄吾』です。」

『霧谷 雄吾』UGN日本支部の支部長であり最高責任者。

 その実力は海外のUGNにも轟いており『リヴァイアサン』の異名をとっている。


「今回の爆破テロや前回の放火事件共に君の活躍で解決できた事は、毛利さんや藤崎からの報告で聞いているよ。」

「私の活躍だけじゃありません、イリーガルや援護課の皆さんの協力のお陰で解決できたんです。」


「そうだね、彼等の活躍も聞いている。」

「しかし、それを抜きにしても君の活躍は目覚ましい物だと我々は思っていてね。

 その事も鑑みて決めたんだよ。」

 そう言うと霧谷は懐からデバイスを取り出すと話を続ける。


「鹿波エマくん本時刻を持って君をUGNチルドレンから正式にUGNエージェントと決定することにした。」

 UGNチルドレンとは幼少期からUGNに育てられた者としての呼び方以外にもエージェントとしての見習い期間としての役職として使われており基本的にチルドレンには捜査権はなくエージェントからの要請でオーヴァード事件の援護を行えるのだ。

 そして、霧谷支部長が出したデバイスはUGNエージェントが所持できる身分証であり独自で捜査を行う権限がある人物としての証明にもなる。

 つまり、これを渡されると言うことは正式にエージェントとして認められることになるのだ。


「あっ、ありがとうございます!

 謹んで拝命致します。」

 私が辿々しくお礼を告げると霧谷支部長は笑いながら話を続ける。

「ふふっ、さぁ受け取りたまえ。」

 私は霧谷支部長からデバイスを受け取り画面を確認するとそこにはUGNエージェント鹿波エマとしっかり表示されていた。

「良かったのぉ、エマちゃんや。」

 毛利支部長がにこやかに激励の言葉を掛ける。

「はい!これからもUGNエージェントとして精一杯任務に向かって邁進していきます。」

「あぁ、期待しているよ鹿波くん。」

 私は意気揚々と支部長室を出て援護課に報告しに向かった。



 鹿波エマへの正式な辞令を伝え終わると、

 霧谷が毛利に向かって話し始めた。

「将来が楽しみな子ですね、鹿波くんは」

「そうじゃろう?あのユウサクが手塩にかけて育てておるからのぉ。」

「そうみたいですね、驚きましたよ。

 まさか、ユウサクがあんなに溺愛するとはね」

「"昔を知る"が故に.....か?」

 毛利が霧谷に意味を含ませながら質問をする。

「えぇ、彼も彼で成長しているようで安心しましたよ。」

 そんな話をしていると支部長室の扉がノックされ一人の男が入ってきた。

「やぁ、来たんだねユウサク。」

「はい、霧谷支部長。」

「良いのかい?君の娘は援護課に向かったようだけど」

「いえ、報告が優先ですから構いません。」

(ここは相変わらず変わっていないのか。)

 そう感じながらも霧谷はユウサクの報告を聞く。

「では、ユウサク調査報告を。」

「はい、今回現れたシルエットを焚き付けた者は前回の放火犯を育てた人物と同じメンターだと分かりました。」

「そうか、最近N市で見かけられていたメンターがF市で活動することになった経緯は分かったか?」

「現時点では確証を持った答えは出せませんが恐らくは"第三者"に協力していたのだと私達はよんでいます。」

「第三者?」

「はい、ここ最近FHではなく別の組織がオーヴァード関連の事件を意図的に起こしている傾向があります。」

「更には、F市UGN内部にも裏切り者がいる可能性もあり調査していたのですが現段階では何の成果も得られていません。」

「あの探偵にも相談はしたのか?」

「はい、しかし情報が足りないのと組織の隠蔽の仕方が並みではないため識崎の能力を持ってしても何も分かっていない状況です。」

「ヤテベオに関しては?」

「死体を解剖して調査した結果、レネゲイドウイルスに感染していた細胞が丸ごと、

"消失"していた事が分かりました。」

「丸ごと?ウイルスに感染していた全ての細胞が消えたと言うのか?」

「はい、まるで"感染した細胞を全て使いきった"ような状態だったそうです。」

 通常、レネゲイドウイルス感染者が死亡しても体内のウイルスに感染した細胞が活動を停止することはあっても消滅することはない。

 故に霧谷はその異常な状態を聞いて疑問が浮かんでいた。

(報告書からもヤテベオは身体に薬を打ち込んでから暴走し怪物の様になったと書いてあったな....FHやUGNでの報告でもそんな薬が出回っているとは書かれていなかった...つまりはまだ誰も知らない薬が使われたということ.......)

「警戒しておいた方が良さそうですね。」

「ユウサク、君は引き続き裏切り者の調査を頼むよ。」

「毛利さんには謎の組織について調査をお願いします。」

 霧谷の言葉に毛利は疑問を抱く。

「珍しいのぉ、主の事だからてっきり自分で調べると言うと思っておったぞ。」

「そうしたいのは山々なんですけど....実は今UGN本部はある事件の捜査でもちきりなんですよ。」

「何じゃそれは?」


「オーバーヘブンで脱獄事件が起きたんです。」

 その言葉にユウサクや毛利も驚いた。

『オーバーヘブン』とは犯罪を犯したオーヴァードを閉じ込めておく特殊な刑務所で今まで脱獄者を誰も出したことがなかった。

 その為、数々の犯罪者が投獄されていた。

「それは随分と大事だのぉ、あそこが破られとは。」

「えぇ、詳しくはまだ調査してみないと分かりませんが恐らくかなりの人数が脱獄したと思われます。」

「これは私の勘ですがこの脱獄事件も今回の事件と繋がっている気がしてなりません。」

「謎の組織について早急に情報を掴み対処しないと。」

「承知しております霧谷支部長....その為にも我々特戦は存在するのです。」

 ユウサクの言葉に霧谷は続ける。

「そうですねその為にも貴方にはまだまだ働いて貰うことになりそうです。」

「UGN内部捜査兼特殊戦闘工作部隊の隊長である貴方には...」


『UGN内部捜査兼特殊戦闘工作部隊』

 霧谷雄吾が内密に設立した独立部隊でその目的はUGN内部の裏切り者を炙り出し大事になる前に処置と処理を行う。

 援護課とはその目的を悟られない為に作られた表向きの組織であった。

 そして、小田嶋ユウサクはこの部隊の隊長を勤めており、その能力や数々の戦歴から、『リヴァイアサンの牙』の異名をとっていた。


「全ては正しき秩序の為に....」

 そう告げるユウサクの目には暗くも鮮烈な光が灯っていた。



 F市にあるカフェで一人の男性がタブレットでとあるニュースを見ていた。

 最近、輸送トラックの事故が多発している事とこの前、青葉地区で起きたガス漏れ事件の記事だった。

 この二つはUGNが事件を隠蔽するために作ったカバーストーリーだとその男は知っていた。

 暫く、そのニュースを見ながらコーヒーを飲んでいると見知った仲間が話しかけてきた。


「あんたは呑気にコーヒーブレイク中か?」

「まぁね、軽くニュースを見ていたのだが、やはりどれもこれも事実を隠蔽しているようだからね。」

「ふっ、UGNの奴らは事件を隠すことに忙しくて"本当の目的"になんざ気付いてないだろ?」

「まぁね、だが一部気付きそうなヤツラもいたけどね。」

「一部...."特戦"のヤツラか?」

「いいや、他にもいたよ。」

「現に調査しているヤツもいるしね。」

「面倒だな...消すか?」

 仲間がコーヒーを飲んでいる男に訊ねる。

「いいや、まだほおっておこうヤツラにはこの先の計画にも協力して貰わないといけないからね。」

 そう言うと仲間は小さく舌打ちをする。

「随分と苛立っているね。」

「まぁな、ヤテベオが殺られちまってから

仕事が増えて仕方がねぇのにUGNも警戒を始めてるから迂闊に動けないでストレス貯まってるんだよ。」


「成る程ね、ならこれは朗報になるだろうね。」

 そう言うと男は自分のタブレットを仲間に見せた。

「!?コイツらは」

「あぁ、"オーバーヘブン"からスカウトしてきた人材だよ。

 彼等とはもう交渉も終えて我々と行動を共にしてくれるらしいからね。」

「なら、そろそろ始めるのか?あの計画を。」

「あぁ、"プロジェクトキメラ"を再開する。」

「それは確かに朗報だな....

どうやらUGNからの仕事が入ったみたいだこれで失礼するぞ。」

「あぁ、それでは続きはアジトでスラッシュ。」

 そう言うとスラッシュ《梶山》はカフェから姿を消した。


(使える手駒も増えた、警戒はされているが我々の存在を嗅ぎ付けたヤツはまだいない...全てが計画通りに進んでいる。)

 男はコーヒーに口を付ける。


「舞台と道具も整った....

そろそろ第一幕を始めようかな?」


 そう言う男の顔は歪んだ狂気の笑顔で埋め尽くされていた。




 続く



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