第13話「B」10秒の戦い

 装置に電気を流しているエマは焦りを隠せないでいた。

(爆発まで一分をきった....お願い早く見つかって)

 すると、その願いが通じたのか父から無線で連絡が入る。

「分かったでエマちゃん爆弾の場所は地下や」

「地下?」

「地下の水道管にバラまかれとる。」

 その言葉を聞きシルエットに顔を向けると意識が戻った彼は笑いながら種明かしを始めた。


「そうだとも!私の爆弾はこの地区の水道管を絶えず流れ続けている。」

「そして、地下の水道管の横にはガス管も併設されている...つまり私の爆弾をここで一気に爆発させれば青葉地区その物が私の作品爆心地となるのだよ。」

 悪魔の計画を知ったエマは焦りながら父に連絡をする。

「何とか止められないの?」

 その言葉を否定するようにシルエットが告げる。


「ムダだ!私の爆弾は一度起動すれば私の意思に関係なく爆発する故に私を倒しても無駄でありまた爆弾を見つけられても解除は不可能だ。」

「そんなの....やってみなければ」

「ならば一つ教えてやろうUGNのエージェントよ。」

「私が水道管に仕込んだ爆弾の総数は、

"1万"だ。

その全てを止めることなど出来はしない。」

 シルエットはそう言うと腕時計を確認する。

「さぁ、爆発まで後20秒ほどだぞ?どうする?」


 エマは絶望感に崩れそうになった瞬間父から連絡が入る。

「しっかりしぃや!エマちゃん。爆弾はワイが止めたるさかい!」

「けど、もう時間が....」

「お父さんを信用してくれ!」

 そう言うと小田嶋は無線をきった。



 小田嶋は無線をきると付近にある水道管を見つけて手をかざした。

「テンコ、今から"能力"を使う。

 全開で使うから後の事は頼む。」

「分かりました隊長。」

 そう言うと小田嶋は能力を解放した。


 シルエットは歓喜しながら目の前でうちひしがれているUGNエージェント《エマ》を見つめていた。

 打てる手立てがなくただ項垂れている彼女の姿こそ自分の勝利をより強く感じることの出来る光景だった為である。

 この爆弾が爆発すれば私も勿論無事ではすまないそれはメンターからも予め説明されていたが、それでも私は構わなかった。

 何故ならこの爆発を成功させれば私は本物のシルエットと同じ偉業をなし得た事になると思ったからだ。


 これまで海外で沢山のビルや重要施設を爆破して芸術に昇華してきた"本物のシルエット"そんな彼がなし得ても不思議ではない程のこの爆破計画、成功したら私はもうシルエットの模倣犯ではなくなるその感情が私を更に昂らせた。

 しかし、そんな感傷も長くは続かなかった。

 何故なら先程まで項垂れていた相手が通信を終えると目に光を取り戻し私の前に堂々と立ちふさがったからである。

「今さら何をするつもりだ?」

 私はエージェントに尋ねる。

「貴方を逮捕します。」

「逮捕だと?爆弾が爆発すれば我々は共に作品へと昇華される....故にそんな無駄な事はせずに終焉を楽しもうじゃないか?」

「そんな事はごめん被ります...それに」

「爆弾は爆発しません...私の仲間パパが止めます」

 根拠のない自信に私は冷めた笑いが起きながらも彼女の誘いにのった。

「良いだろうどうせ爆発まであと10秒足らずだ...最後の爆発と共に君の死体も添えて上げよう。」

 そう言うと私は懐からボムシードを取り出す。

 彼女も同じように武器を構えている。

 爆発まで残り"10秒"これが最後の戦いになるだろうと私は感じていた。



 戦いの口火を切ったのは鹿波で持っているナイフに電気を流し鞭の様に変形させるとシルエットに向かって攻撃をする。

 シルエットもその攻撃を読んでおり前のダメージの経験からボムシードを鞭の"先端"に向かって投げつけ爆発により鞭を吹き飛ばし攻撃を無効化した。

 この間、僅か五秒の出来事である。

 爆発による粉塵で敵が見えなくなりシルエットは次の攻撃に備えてボムシード両手に持ち構えていた。

(また、同じ攻撃をしてきたなら片手のボムシードで攻撃を防御しもう片方のボムシードで相手にトドメを指しましょう。)

 そう考えていると煙の中から何か動く気配を察知してシルエットはボムシードをその方向に投げつけた。

 しかし、爆発してみるとそこにあったのは鞭ではなくもっと大きな何かであった。

(なっ!何だこれは?)

 シルエットは驚きながらもう片方のボムシードを投げつけ爆発させるがその物体は勢いが止まることはなくシルエットに正面から激突した。

 そこで、彼は激突した物の正体を正確に確認した。

 それは鞭の先端に鹿波が使っていたバイクがついておりそれを鹿波が操っていた。


 この攻撃は高崎との訓練により編み出した鹿波の新たな必殺技でありシルエットを確実に仕留めるために温存していた技でもあった。

(先端についたバイクを鞭の変則的な動きを利用して相手にぶつけ更に雷を加えた複合攻撃。)

「毒蛇の一撃!《ヴェノムインパクト》

 鹿波は、吹き飛んだシルエットの真上に雷の力が加わったバイクを叩き付けた。

 シルエットにバイクが当たり地面に叩き付けられた瞬間、大きな稲妻が地面に向かって走り付近に衝撃による風が巻き起こった。

 力を使いきった鹿波はそのまま地面に倒れこみ気を失った。


【爆発まで残り3秒】



「流石は"雷鳴の追跡者"《鹿波エマ》

 "偽物"では勝てませんでしたか。」

 路地裏から闘いを見ていた男がそう呟く。

「それにどうやら"水道管の爆弾"も不発に終わったようですね。」

 時計を確認し時間になったのにも関わらず変化をしない地面を見ながら彼は独り言を続ける。

(爆発の阻止を警戒してヤテベオを護衛につけた様ですが....彼女もやられてしまったようですね。)

「流石は"特戦"《とくせん》...この程度の人員では手も足も出ないといった所ですか。」

 そんな事を呟いていると後ろから声が聞こえる。

「動くな!」

 その声に後ろを向くと二人の男性が私に銃を向けて警告をした。

「貴様!ここで何をしていた?」

 どうやらこの辺りを警戒していたUGNのエージェントに見つかってしまったようだ。

 そんな彼等の質問に私は答える。

「研究成果を見にきただけですよ?」

「研究成果だと?」

「ええ、私の育てた偽物のシルエットの能力が何処まで成長できるのか.....

この前の"少年"の様に追い詰められて進化する事を期待したのですが.....

彼は期待外れでした。」

「進化することなく"ボムシード".....

いえ"極小サイズの爆弾"程度で能力が完結してしまいましたから」

「お前がこの事件の黒幕と言うことか?」

「黒幕...と言うには些か語弊がありますが彼を育てこの事件を起こしたのは確かに私ですね。」

 彼は悪びれる様子もなく淡々と答える。

 その光景にエージェント二人は怒りを覚えながらも仕事を行う。

「お前を拘束する無駄な抵抗はするな。」

「貴方達程度の能力では無理だと思いますよ....まぁ"彼"なら問題ないと思いますけどね。」

 そう言いながら私は後ろを指差す。

 後ろを振り向くとそこには一人のUGNエージェントが立っていた。

「梶山さん!」

 銃を敵に向けているエージェントの一人が話しかける。

「梶山さんも援護に来てくれたんですね?

 コイツがどうやらこの事件を起こした黒幕みたいで」

「あぁ、"知ってるよ"。」

「え?」

 その瞬間、銃を構えていた二人のエージェントの首が空を舞い鮮血が飛び散った。

「こいつはメンターと呼ばれていて"我々"に協力してくれていたんだよ。」

「相変わらず容赦がないね君は、裏切っているとは言え仲間だろ?」

「ふっ、こんな弱者など私の仲間ではない見ているだけで虫酸が走る。」

 梶山は殺した二人の死体を踏みつけながらメンターに近づく。

「それで...例の物は?」

「あぁ、これだよ。」

 そう言うとメンターは梶山に袋を渡す。

「偽物シルエットに作らせた特注のボムシードだ。

 当たった瞬間、爆発するように調整しておりまた爆発物の検査にも引っ掛からない代物だよ。」

「そうか、これで"計画"を進めることが出来る。」

 そう言ってメンターから袋を受け取ると梶山は続けて話す。

「これで、お前との契約も終了だな。

 約束通りご主人様の元に戻って良いぞ。」

「助かるよ、本当なら我が主の為にこの力は使いたいからね。」

「人形無勢が利用されるだけの存在の癖に」

「それはお互い様だろう?"スラッシュ"」

 不穏な空気を醸し出しながらも梶山は路地裏へと姿を消した。


 メンターはスマホを取り出すと主に連絡をかける。

「私ですマスター...はい任務完了致しましたこれよりN市に戻ります....後はあちらがこっちの要求を叶えるだけです...はい全てはマスター14、貴方の為に」

 そう言うとメンターは電話をきり不敵に笑いながら姿を消した。



 1つの事件の裏で新たな事件の計画が進もうとしていることに気付くものは今はまだ誰もいなかった.....






 続く

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