第12話「B」必殺の反撃

 雷ソウマは暴走したヤテベオによって倒壊したビルのなかに隠れていた。

(あー、何だよあの化け物。急にでっかくなったと思ったら見境なく暴れだしやがって)

 そう考えながらビルの影からヤテベオを確認する。

 完全に怪物になったヤテベオはA3の仕掛けたオートタレットを破壊すると辺りの物を壊しながら俺達を探していた。

(クソッ逃がす気は無いってことか。

 無線機も壊れちまうしナイフも通らねぇときた....さーてどうするか?)

 そう考えていると近くに気配を感じナイフを構え確認する。

 しかし、そこにいたのは仲間であるコードネームA3『門山ミチ』だった。

「何だよミチかよビックリさせんじゃねーよ。」

「あっ、やっぱ生きてたんだソウマ。」

「当たり前だろ、それが俺達の得意分野じゃねーか。」

 ソウマがミチに言うと「まぁね」と相槌をうち話を進める。


「それでどうする?あの怪物。」

「どうするって止めるしかねーだろこのまま言ったら市街地にまで破壊しかねない、この場でケリをつけるしかねーだろ。」

「けど、武器が圧倒的に足りてないよ。

 一応"三つ目のトラップ"は頑張って仕掛けたから使えるけど決定打にはならないだろうし」

「だな、俺のナイフじゃあもう致命傷を与えられないだろうからな。」

「万事休すだね。」

 ミチの顔を見たソウマは疑いながら尋ねる。

「おいミチ、本当に何もないのか?」

「なっ、何を根拠に?」

「お前の性格だ、お前は昔から欲しいと思ったり使いたいと思った物はどんな物でも揃えるし使うようなヤツだ.....何か隠してないか?」

「そそそんなことアーリませんよーーわっ」

 ソウマはミチにチョークスリーパーをかけながら話す。

「やっぱり何かあるのか話せ。」

「いっイヤだぁあれは私が欲しくて手に入れた物なんだい!ぜーったいにイヤだぁ。」

「てめぇ、ここで死ぬかもしれないのに何バカなこと言ってんだ...良いからさっさと吐きやがれ!」


 すると、ミチは観念した様に持ってきていた秘密の物を白状し始めた。

「そんなスゲーもん持ってきてたのかよ。」

「見た目がよくてさここのビルで組み立てると映えて良いかなぁと思って実際にやってみたら大正解めっちゃ映えるしカッコ良かったマジで。」

「あー、それはどうでもいい。それでその秘密兵器は何処に設置してあるんだ?」

「トラップを仕掛けたビルの隣のビル。」

「あそこか...良し先ずはヤテベオをあそこまで誘導しないと行けないな。」

「ミチ、お前の能力で手榴弾と俺のナイフを"同期"させてくれ。」

「良いけど効かないと思うよ。」

「注意を引ければそれで良い、俺が囮になってヤテベオを誘導する...お前は秘密兵器の調整を済ませて何時でも撃てる様にしといてくれ。」

「分かったよ。」

 そう言うとミチはソウマからナイフと手榴弾を受け取ると能力を発動した。


 彼女の能力は触れた物に彼女の作った装置を埋め込みその能力もその物に発動できる様にする事が出来るというものだ。

 ソウマのナイフもミチの作品の一つで、

 対オーヴァード用の細胞塗布ナイフに、(電気を通すことで高速振動を起こす装置)を組み合わせた物を彼は使っていた。

 その為、ソウマのナイフを"手榴弾の爆発を利用した爆弾ナイフ"に変える事はいとも容易く行えた。

「ほい出来た。あとこれも」

 そう言うとポケットからイヤホンを取り出すと能力が発動し二つに分離した。

「急造だけど壊れた無線の代わり。」

「助かる、それじゃあ反撃開始といこうか」


 ソウマとミチは作戦の打ち合わせが終わると各々、行動を開始した。

 先ずはソウマがナイフを一本ヤテベオに向かって投げつける。

 ナイフは回転しながらヤテベオの背中に刺さると突然爆発を起こした。

 自分の背中に異変が起きた事に気づいたヤテベオは振り返るとそこには探していた敵がたっていた。

 敵の息の根を止めるため逃げるソウマを追いかけるヤテベオだが、一向に追い付けなかった。

 身体が巨大化したことで耐久力は高くなったがその分、重くなり俊敏性が失われた為であった。


 すると、ヤテベオは追いかけながら戦法を変えた。

 背中にトゲの様に無数に生えている枝をソウマに向かって飛ばす。

 ヤテベオの木の硬度は鋼鉄並に強化されているので無数の槍が襲ってくるのと同義だった。

 しかし、その攻撃全てを紙一重でかわしながら順調にヤテベオを目的地まで誘っていく。

 目的の場所まで誘導するとミチの仕掛けていたトラップが起動する。

 ビルから円柱状の塊がヤテベオにむかって放たれるとヤテベオの目の前で爆発し炎に包まれた。


("対オーヴァード用炸裂ナパーム弾"摂氏1500℃の熱は並大抵のオーヴァードなら、火だるまになる威力だ...この怪物にとって致命傷にはならないだろうが足止めには...)

 しかしソウマの予想は裏切られた。

 ヤテベオは炎に包まれた身体を気にすることはなく巨大な木で出来た右腕でソウマをなぎ払う。

 回避が遅れたソウマは攻撃を受けビルの壁に向かって思いっきり吹き飛ばされた。

 しかし、壁に当たる瞬間ソウマは能力を発動しビルの鉄骨に磁力による反発でぶつかる威力を殺した。

 そのお陰で致命傷は免れたものの攻撃を受けた左腕は折れてソウマは口から喀血した。

(あばら骨をヤられたかそれに左腕も動かねぇ...頼むぜミチ間に合ってくれよ。)

 すると、ソウマは右手にナイフを持ちヤテベオに向かっていった。



 怪物となったヤテベオにはもう人としての理性は存在しておらずあるのは純粋な破壊衝動だけだった。

(コウゲキアタッタ...!?カラダアツイ。)

 自らの身体が燃えていることを知覚すると、ヤテベオは纏っている大樹に能力を使い、水を放出することで炎を鎮火した。

 炎が無くなりクリアになった視界には壁を足で走りながらこちらに近づいてくるソウマを見つけると追い詰めるために木の槍を飛ばし始める。

 しかし、敵はそれをかわすと私の目の前に飛んできたのであった。

(コッチニキタ...コロス。)

 そう考え敵を両手で潰そうとした瞬間、強烈な痛みに襲われて手を止めた。

 ヤテベオにはその原因が分からなかった。



 ソウマはヤテベオの攻撃を避けつつ飛び上がると丁度、ヤテベオ本体が埋まっているであろう部分にワイヤーの付いたナイフをなげ能力を発動した。

 するとナイフから強力な磁力が発生しヤテベオが苦しみ出す。

(やっぱり、効いてくれたか。)

 すると、バキバキとヤテベオの内部から砕ける音が聞こえると数本のナイフがワイヤーの付いたナイフに向かって飛んできた。

(ヤテベオに命中したナイフに向かって発した磁力のお陰でヤテベオの身体には本体に向けた道しるべとなる傷が付いた。)

 後は仕上げだ、そう考えるとソウマはミチに無線で合図を出す。

「今だ、撃てっ!」

 その言葉を合図にヤテベオの正面に建っていたビルの窓ガラスが割れると"巨大な何か"がヤテベオに付いた傷に命中した。

 凄まじい衝突音と共にヤテベオは仰向けになり地面へと倒れた。

 俺の無事を確認するようにミチが無線で話を始める。


「生きてる?」

「....何とかな身体はボロボロだし能力を使いすぎたせいでもう動けそうにねーが。」

「にしても凄い威力だな"これ"」

「まぁね、"対大型オーヴァード用レールガン"別名『ドラゴンブレス』まだ試作中の武器だけど現在開発されているオーヴァード用の武器の中ではピカイチの威力を誇るからね。」

「まぁ、その分組み立てには時間がかかるし一発発射するとバレルが融解するから連射できないというデメリットもあるけど」

「だが、この状況じゃまさに"必殺の一撃"になったわけだな。」

「うん、あれを喰らって生きていられるオーヴァードは存在しないよ。」

 二人は任務中にも関わらず怪物を倒した状況に安堵するのだった。



 ダメージを喰らい怪物化していたヤテベオは逆に自らの意識がハッキリと復活した。

(これは、そう....私はやられてしまったのね)

 大きくなった身体を操作し視点を移動させる

(私はどのみち生きていられない...ならば)

("一人でも道連れに")

 そうして身体を無理矢理動かし倒れているソウマに攻撃を仕掛けるのであった。


 崩壊する身体を無理矢理起こすとヤテベオは倒れているソウマに向かって右手を槍に変形させて攻撃を行った。

(!?アイツまだ動けるのか...ヤバいもろに攻撃を喰らう。)

 ソウマは自分の死期を悟り覚悟を決めた瞬間


「よう戦ったのぉ、こわっぱども!」

 救援に駆けつけた毛利がソウマとヤテベオの間に入り、ヤテベオの身体に刺さっているレールガンの弾頭に向かって拳を放った。

 ゴン!という音の後に数秒の間があいた次の瞬間、ヤテベオの身体を覆っていた大樹が全て弾け飛び本体も後方に吹き飛ばされた。

 鋼鉄の硬度を誇りヤテベオの身体を覆っていた大樹がまるで紙のように千切れて吹き飛ぶ姿を見たソウマが目を丸くしていると毛利が話を続けた。

「うむっ!お主達は何とか無事なようじゃな...しかし雷よお主は治療がひつようそうじゃのぉ?」

「支部長であるアンタが直々に救援に来てくれるとはな...にしてもヤテベオを吹き飛ばしたあの技一体どんなトリックがあるんだ?」

「別に大した事はしてないぞ?身体に埋め込まれていた弾頭に向かって浸透勁を放っただけじゃ。」


浸透勁しんとうけい

 中国拳法で使われる技法の一つで相手の身体に衝撃を伝えて内部から破壊する事が出来る


「ワシの能力にはその振動を強化し倍以上で伝えられる力があっての...昔は戦艦や戦車をこの技で沈めていたものじゃよ。」

 常識を越えたスケールの話にソウマは驚きつつもまたその強さに納得した。

 FHの介入により数々の死傷者を出した『ニューヘブン島紛争』において凄まじい戦歴を残し終戦の一役を担った『赤き仁王』の異名をもつ毛利ツネタカ。

 伝説にも近い彼の戦いを見たソウマは彼が仲間であることに心の底から感謝するのであった。





 続く



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