第8話「B」剣士と斬士

 私の前に現れたスラッシュは、前と同じように私に話しかける。

「全く、お前らUGNは本当に邪魔ばかりしてくれるなぁ。」

 そう言いながら逃げていた人物に向かい喋りかける。

「おい、助かりたいなら今の内に逃げろ。」

 そう言われるとフードを被った男は大急ぎで走り去っていった。

 それを見て追いかけようとした私にスラッシュは高速で近付き右手を私の頭に向かって振り下ろした。


 しかし、その攻撃は当たることはなかった。

 高崎さんが刀を抜いてその攻撃を防いだからだ。

 刀とスラッシュの手が触れた瞬間、ガキンと金属がぶつかり合うような衝突音が聞こえるとスラッシュは直ぐ距離を離した。

「...流石はファルコンブレード。

 あの程度の攻撃じゃあダメージもなかったか。」

「いんや、結構効いたよ。」

 そう言いながらも高崎さんはスラッシュに刀を向けている。

 しかし、ダメージが回復しきれてないのか追撃しなかった。

「傍目から見たら丸腰っぽいけど....持ってるよね武器。」

 高崎さんはスラッシュに問いかける。

 すると、スラッシュは軽く驚きながらも話し始める。

「素晴らしい観察眼だな何故そう思った?」

「俺の刀と当たった時の音と感触、同じ得物ぶつけたみたいだったからね。

 それに俺の後ろに気配なく近付いてきた事から考えても君の能力はハヌマーンその中で"風に特化してる"って感じかな。」

「.....そこまでバレているなら隠す意味はないな。

 ご明察、俺の能力はハヌマーンで風と言う点も当たっているぜ。」

(まぁ、ただの風じゃ無いだろうけどね。)

 高崎もかまいたち程度の風量の斬撃なら経験したことはあるが刀と衝突して音が鳴る程の密度で練り込まれたかまいたちを見るのは始めてだった。

(ここまでくるとかまいたちと言うより、

 "風の刃"って感じだね。

 迂闊に受けたら真っ二つにされそうだ。)


「そろそろ体も回復したか?

 なら、攻めさせてもらうぞ。」

「あらら、やっぱバレてた?」

「貴様ほどの剣士を相手にするのに不意討ちで弱った所を勝っても嬉しくないからな。」

「剣士ねぇなら君も剣士ってこと?」

「いいや、剣士とは"剣を扱う人間"を指す私の腕はもう既に剣そのもの....そうだな"斬る者"斬士ざんしとでも名乗ろうか。」


「さぁ、無駄話はこれぐらいにして残りは剣で語ろう。」

 そう言うとスラッシュが高崎に向かって突進しながら腕を振り上げる。

 高崎は腕を刀で止めるとそのまま回転して刀ごと相手を押し返した。

 そして、その勢いのまま斬撃を飛ばす。

 しかし、その攻撃はスラッシュの右手に払われて横のブロック塀に当たり切断されだ。

「うへっ、結構強めに斬ったんだけどな。」

「その様だな払ってもこの威力とは、」

 すると今度はスラッシュが右手をこちらに向かって振る。

 高崎は察して納刀に高速で抜刀すると今度は高崎近くの建物の屋根が切断された。

「あー、後で謝んないとな。」

「余所見をするとは余裕だな。」

 スラッシュが能力を使い気を抜いた高崎に一瞬で近付くと右手を振り下ろすが、


音道おとみち

 一瞬でスラッシュの背後を取った高崎が抜刀し斬りかかる。

 それを今度は"左手"でスラッシュは刀を止めた。

「成る程、その"音道"とやらは俺の鳴らした音...この場合は"風切り音"に向かって高速移動する技だな。」

「初見で見抜かれるなんて、ちょっとショックだよそれにあんたも両手ともに刃になるし隠し事はお互い様じゃない?」


 話し合いながらも斬り合いに興じている彼等をエマは呆然と見つめていた。

(援護に回れる隙が全然ない。手伝うだけ邪魔なのは分かっているし勝手に動けば的になるのも本能的に分かる....動けない。)

 呆然と立ち尽くしているとスラッシュは何かを感じ距離を開けた。

 コートのポケットに手をいれ携帯を取り出すと電話を始める。

「俺だ....そうか了解した。」

 電話を切るとスラッシュは名残惜しそうに高崎に伝える。

「どうやら、俺の任務はこれで終わりのようだ本当はもっと斬り合いたかったが仕方がない。」

 そう言うとスラッシュはその場から去っていた。


 高崎は現状の戦力さからみて勝ち目が薄いと判断し追おうとせず刀を鞘に収めた。

「FHの『ビンゴブック』では見たことないけどアイツかなりの使い手だね能力や技能も含めてパっと見"AかBランク位"かな?」


『ビンゴブック』とはUGNが重大犯罪者として指定する者達を集めたリストで主にSからBまでのランクの犯罪者が記載されており、高崎も所持していた。

「取りあえずは助かったことを喜ぶか。

 大丈夫だったか?エマ。」

 エマに向かって尋ねる。

「はい、手も足も出せませんでしたけど。」

「あれだけの能力者が相手なら生き残っただけでも立派だよ。」

「それにしてもF市にはヤバイ奴が大勢いるんだなヤテベオやアイツも」

「その件ですけどもしかしたら彼等は全く新しい勢力だと思うんです。」

「その根拠は?」

「実は私が失敗した輸送トラックの任務で護衛してたのがあの二人だったんです。」

「えっ?マジで!」

「はい、あっちの方はスラッシュと名乗ってました。

 それでトラックを持っていく際にヤテベオが我々って言ってたんですFHだとしたらそう呼称するんじゃないかなと思って」

「成る程ね...実は俺も放火事件の時、ヤテベオと対峙してねその時に聞いたんだ。

「これもFHの計画なのか?」って

 そしたらアイツは平然と

「違いますよもっと崇高な目的を持つ方々の計画です。」って言いやがったんだ。」

「崇高な目的......」

「どんな計画にしても危険なことは変わらないけど今は目先の事件からだ逃げた爆弾魔を追うぞ。」

 そう言うと私達は逃亡した爆弾魔シルエットの捜索をしたが見つかることはなかった。



 目を覚ますと私のいる場所は真っ暗闇の空間だった。

「!?何処だここは!」

 私が大声で叫んだのを聞き取ったのか、

 私の目を覆っていた物を取り外してくれた。

 周りを見るとそこはどうやら部屋の一室で

 目の前に机がおかれており私は椅子に手錠で体を固定されていた。

「やぁ、おはようシルエットくん.....

 いや"伊藤ケンジ"くん。」

 私は名前を呼ばれて驚く。

「なっ、何故私の名前を!」

「他にも色々と知っているよ。」

 そうすると目の前の男は私について色々と喋り始める。


「君は厳格な家庭に生まれ小中高まで親の敷いたレールに沿って生きることを強制されてきた....転機は大学受験の時で君は大学に落ち代わりに弟が君の受験した大学に受かった。

 それ以降、君の家族は君を見限り弟を優先するようになる....その頃に見たんだろう?

 シルエットの犯行の動画を」

「それから君はシルエットの起こす犯罪を見続ける内に共感する様になった。

 彼の犯罪の美しさに....自分もこうなりたいこう言った偉業を成し遂げたいとしかし、君にはその力がなかった。」

「そして、君は人生に絶望し自殺未遂を行いその過程でオーヴァードへと覚醒した。

 爆弾の知識は恐らくネットからの物だろうねモルフェウスは物は作り出せるがその構造をある程度理解してないといけない。」

 まるで私の人生を全て見てきたかのように私の事について喋る彼に対して恐怖の感情を抱いた。


「お前は....一体?」

「"最初の殺人"は君にとっても思い出深いのではないかな?」

「!?」

「君を否定してきた家族一同全員を爆殺したその時に君も死んだことになった。

 だから、警察からも追求されなかった。」

「君はこう思ったんじゃないかな?「伊藤けンジは死んだこれからの僕はシルエット......爆弾による"芸術家シルエット"になるんだ」とね。」


「しかし、シルエットとなった後の爆発は上手く行かなかったどれだけ手法を真似しても警察やUGNは誰一人として気づいてくれなかったからだ。」

 そう、私はシルエットと名乗り始めてから沢山の事件を起こした...しかし、誰も私がシルエットだと気付かなかった。

 その事に我慢できなくなり私は.....

「サイトを作り自ら宣伝し始めた訳だね。」

「......はい。」

「しかし、UGNの奴等に見つかってしまい危うく捕まりかけたと。」

「君も大変だったね、君は何も悪くない憧れた者になりたいと思うのは罪じゃない。」

「けど、私はなれませんでした敬愛するシルエットに」

「大丈夫、私に任せなさい。」

「君を立派な"芸術家シルエット"にしてあげよう。」

「貴方は.....一体?」

「あぁ、失礼紹介が遅れたね。」



「私の名前は"メンター"君のように力を持つ者の才能を開花させるのが私の仕事だよ。」





 続く

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