第7話「B」新たな脅威

 私のバイクは能力を使用しながら高崎さんの繰り出す斬撃を必死に避けていた。

 高崎さんとはかなり距離が離れているのに当たっていることから能力で斬撃を飛ばしているのだろう。

 私のバイクはボロボロになっていくが私自身には怪我を負っていなかった。

 手加減されているのが分かっているのたのだが反撃しようにも停止した瞬間、斬撃が飛んできて走りながら考えているこの時でさえも絶え間なく飛んできた。

「どうした?逃げてばっかりじゃ何時まで経っても勝てないよー」

 高崎さんは呑気に喋りつつも斬撃の手を緩めないこれまで10分間ずっと逃げ回っているのに斬撃が止む気配はない。


(近付けすらしない....どうすれは?)

 その時、私は黒観さんと支部長の戦いを思い出した。

(もし、高崎さんの相手が黒観さんだったらこの斬撃の中でも近付けるんだろうな.........黒観さんみたいに?そうか!)

 私は思い付いた作戦を試す為に限界まで高崎さんから離れた。


(.....随分と離れたなエマちゃん、俺の攻撃に嫌気がさした...ってタイプじゃないよな。

 となると.....)

 すると、正面からエマちゃんのバイクが近付いてきた。

 しかし、エマちゃんのバイクは形が変わってより大量の装甲がついたバイクとなっていた。

 鹿波エマの能力はモルフェウスとブラッドドックのクロスブリードでバイクをモルフェウスの能力で製作していた。

 その為、形や装甲を追加するのは簡単なものだった。


(面白いことを考えるね....けど)

 高崎は居合切りの要領で抜刀し斬撃をバイクのフロントに飛ばした。

 フロントについていた装甲が衝撃で斬れて剥がれるが直ぐに周りの装甲が集まり修復した。

(っ成る程、装甲は彼女の帯電による磁力で保持しているのかだから剥がれても直ぐに直るわけね。)

 しかし、弱点も看破した。

「これだけ綿密に帯電状態を続けなきゃいけないってことは速度にまで力を回せなくなるってことだよね。」

 実際に彼女のバイクは装甲は多いものの彼女の持ち味である光速に近い速度とは程遠い普通のバイクの速度となっていた。

 トリックが分かった高崎は斬撃を威力重視から連射重視に切り替えた。

 さっきの倍の速度で斬撃が飛んできて当たる度に装甲が剥がれていく。


(くっ、「戦車形態チャリオッツ」にしてもここまでの攻撃....耐えられるかな。)

 エマは暴風雨の様に打たれ続ける斬撃に恐怖を覚えながらも近付いていった。

(お願い頑張って耐えて私のバイク。

 "チャンスが訪れるまで")


 彼女のバイクは嵐のような攻撃に去らされながらも目の前と言う距離にまで近付いた。

(良くここまで頑張ったねエマちゃん....けど)

 すると、高崎はひょいとジャンプしバイクを飛び越しそのまま運転席に斬撃を放とうと確認した瞬間。

(!?エマちゃんがいない。)

 エマは運転席にはいなかった高崎さんの頭上の上を飛んでいたのだ。

(やった!上手く行った。)


 エマはそのまま両腕を構える。

 彼女はバイクを帯電状態にするため常に両手から電気を発生させていた。

 そして、これは彼女の裏技的なやり方で高電圧の電気をバイクに向かって放つことで急速帯電状態を起こす技だった。

(バイクと私の間に高崎はいる....つまりここで電気を発生させれば彼に当たる。)

急速充電フルチャージ

 そう言いながらエマは電気を発生させた瞬間、高崎が呟く。

音道おとみち

 高崎が彼女の背後に瞬間移動していた。

(えっ?いつの間に。)


「いやぁ、流石に危なかったよマジで当たるところだった....けどこれでお仕舞いだ。」

 高崎が刀の"はばき"を見せた瞬間、

『総員、模擬戦中止だっ!』

 毛利さんの声がスピーカーから響き、

 高崎さんは刀を鞘に完全に収めスピーカーに耳を傾ける。

『F市の工業地帯でオーヴァードの犯行と思われる事件発生、総員調査に向かえい!』


「どうやら、模擬戦はこれで終わりみたいだね。」

「行こっか!エマちゃん。」

 高崎さんの笑顔に笑いながらも私は同意した。

「そうですね行きましょう。」



 地下シェルターから出た私達は支部長のいる部屋に向かい扉を開けた。

 すると、毛利が資料を確認しながら部屋の椅子に座っていた。

「むっ!お前ら調査はどうした。」

 さも当然の様に聞いてくる毛利支部長に高崎さんが苦言をていす。

「いや、俺ら工業地帯で事件が起きたとしか聞いてないし場所も分かんないんだけど」

「むっ!そうだったかすまんすまん。」

 そう言って毛利支部長は笑いながら事件の概要を説明する。

「場所はF市の暮橋地区の工業地帯で爆発が起こったのじゃがその爆発にどうやら、オーヴァードが関わっているらしくての」

「何でオーヴァードだって思ったんだ工業地帯何だから薬品による爆発事故の可能性もあるだろ?」

「爆発が起こったのは錦糸工場の一角で、火気類はなく爆発の威力もC4並みだったそうじゃ。」

「それにこれが現場付近に落ちていたらしい。」


 そう言って毛利はテレビ画面に映像を写す。

「メッセージカードか?」

 写った映像には白いメッセージカードに、

 日本語で「貴方の人生に敬意を込めて」と書かれ横に花が添えられていた。

「犯人からの犯行メッセージって訳か。」

「うむっ、実はこれと似た手口を行うヤツを知っていてな。」

「隼人、『シルエット』と言う名前を聞いたことあるか?」

「それって確かFHに所属している爆弾魔だよなランクAの。」


『シルエット』ニューヨークで活動していたFHのメンバーの一人で、彼の作った爆弾によりエージェントや一般市民両方ともに多大な被害を与えていたが最近、全く音沙汰がなかった。

「また、動き出したってことか?」

「確証はない模倣犯かも知れないからの。」

「故にじゃ、隼人それに鹿波お主らにはこの調査に加わってもらう。」

「相手が相手じゃ、こちらも本腰を入れて調査をしないといけないからのぉ。」

「分かったよジッチャン取りあえず調べてくるわ...行くぞエマちゃん」

「あっ...はい失礼します。」

 私は支部長にお辞儀をすると高崎さんの後をついていった。


 現場に到着すると既にマスコミや野次馬で溢れ返っていた。

「うわっ!もうこんなに人がいるなんて」

「確かにおかしいなオーヴァード関連の事件には警察が入り込めないように裏で手を回される筈だからこんなに人が集まるわけがない。」


 不振に思った高崎は能力を使用し自分の聴覚を強化して周りの話を聞いてみることにした。

 皆が皆、複数の話題を出してはいるが1つの共通する"ワード"を聞き取る事が出来た。

 高崎はスマホを取り出し聞き取ったワードから検索をかけるとヒットした。

「恐らくこれのせいだな。」


 私に向かって画面を見せるとそこは『シルエットの芸術』と書かれているサイトだった。

「これって?」

「あぁ、どうやら犯人は自分の

 犯行をこのサイトに載せてるみたいだ。」

 スマホをフリックすると今回、爆発の起きた工場の写真が添付されていた。

 メッセージには題名なのか「蚕の戯れ」と言う名前まで入っていた。

「コイツは自分の犯行を楽しむタイプみたいだなオーヴァードじゃなくても質が悪い」

 犯人の行動に怒りを表しながらも続ける。

「こういうタイプの奴は自分の犯罪の結果を間近で見たいヤツが多い。

 もしかしたら、この野次馬の中にいるかもな。」

 高崎がそう予想すると再度能力を使用し、

 会話を盗聴する。

 すると、一人の男に注目した。

 フードを深く被りながら小さくブツブツと独り言を言っている。

「ふふっ、皆僕の作品の虜になってる。」

「このシルエットに不可能はないんだ。」

 高崎はエマにアイコンタクトで怪しい人物を教える。

(高崎さんはあの人が怪しいって言ってる。)

 私は確証を得るためにわざとこの場でワーディングを使用した。

 ワーディングとはオーヴァードではない

 "普通の人間"を遠ざける力がある。

 結果、フード男のみ動かず他の人物が私達から離れていった。

 その光景を見た彼はバレたと理解し走って逃げていく。

「待てやテメェ!」

 そう言いながら高崎は彼を追う。

 私もバイクに乗り込むと逃げた奴を追いかけた。



 自分の犯行がバレたと思った彼は全速力で逃亡をしていた。

(.....クソッ!まさかバレるなんてまだ取って置きの"お楽しみ"が残ってるんだこんなところで捕まってたまるか!)

 しかし、彼の走っている正面にバイクに乗った女の子が止まり彼の逃げ道を塞いだ。

 正面にはバイクに乗った少女、後ろには俺を睨み付けてくる少年正しく袋の鼠だった

「鬼ごっこはおしまいだ爆弾魔。」

 後ろの少年に爆弾魔と言われ私は大声で反論した。

「違う!私の名はシルエット、爆弾魔ではない芸術家だ。」

「あ?爆弾で人を吹き飛ばしておいて何処が芸術なんだよ。」

「ふん!これだからセンスの無い奴は.....

 良いかね?爆弾とは謂わば絵の具だそして爆発する場所はキャンバスそして巻き込まれる人や物は筆だ。

 私の爆発により巻き込まれた筆が色彩を描きキャンバスが彩られる....分かるかね?

 これこそが芸術であり作品なんだよ。」

「.....テメェの能書きには興味ねぇ。」

 高崎はそう言うと日本刀を生成し構える。

「これ以上、犠牲者が出る前にお前を止める。」



「それは困るな。」

 突然、高崎の後ろから声が聞こえ振り向くと

 が間に合わず背中に攻撃を食らいエマの所にまで吹っ飛んだ。

「高崎さん!」

 私が攻撃した相手を確認すると、ソイツも私を確認するとこう言った。

「よぉ.....またあったな。」

 不気味にフードをつけたスラッシュは最初に私とあったときと同じように私達を見据えていた。




 続く




【おまけ】

 毛利支部長に呼び出された私達が向かっている途中で私はふと疑問が出来た。

「そう言えば高崎さん私と初めてあったときは鹿波って呼んでたのに今回はエマってしたの名前で呼んでくれましたよね?」

「ん?あぁ、あの時は仕事場だったからな砕けて呼ぶわけにもいかなかったんだよ。」

「エマちゃんが嫌なら別の呼び方にするけど」

「いいえ、むしろ嬉しかったです!」

「そっか、ならいいんだ。」

「ただ、私と高崎さんって年的にも近いですし出来ればちゃん付けはなしにしてくれませんか?」

「あー、確かにな...じゃあこれからは、

 "エマ"って呼ぶことにするよ。」

「!?ありがとうございます。」

「どうした?エマ。」

「いっいいえ別に!」

(言えない....名前で呼ばれてちょっとドキドキしたなんて.....)


 時同じくして、

「!?」

「どうしたんっすか?小田嶋さん。」

「いや、何か胸騒ぎがしてね。」

(エマちゃん訓練無事に終わったかなぁ)

 後日、高崎によって下の名前でかつ呼び捨てされるエマを目撃した小田嶋は、高崎に対して明確な悪意嫉妬を抱くこととなる。



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