第6話「A.B」模擬戦

 支部長交代が起きた二日後、

 私達は訓練用の地下シェルターに集められていた。

 毛利支部長が皆の事を知りたいと言って軽いレクリエーションをするためらしい。

 その為、地下シェルターには現在F市で活動しているエージェントが全員揃っていた。

 勿論、私達援護課も例外ではない。


 全員が集まったのを確認すると地下シェルターに何故か作られた台(朝礼で校長先生が喋るようなヤツ)の上に毛利さんが立ち拡声器で皆に声をかける。

「諸君!わざわざ集まってくれて感謝するワシが今度この支部の支部長となる毛利ツネタカじゃ。

 堅苦しい呼び名は好きではない是非、

 ワシの事は"ジッチャン"と呼んでくれ!」

 いきなりの発言に聞いていたエージェント達が戸惑っているが毛利は話を続ける。

「今回来てもらったのは主らの実力を測るためだ、トップであるワシが知らないでは話しにならないじゃろう?」

「故にこれから分かれている班事に模擬戦を行うから頑張ってくれ!」

 そう言うと班分け《地獄の時間》が始まった


 班分けが終わり一番目は戦闘班となった。

 F市の戦闘班は規模は少ないと言えど50人ぐらいはいる。

 そこで毛利は驚くべき発言をした。

「時間が惜しいから全員でかかってこい!」

 その言葉に戦闘班に所属するエージェントは驚く。

(いくら田舎とはいえこっちは現役のエージェントだぞ......なめやがって!)

 戦闘班全員が毛利支部長になめられていると感じ、悪い空気が流れつつも了承し1対50での模擬戦が始まった。



 ここから後は現場を見ていた"ファルコンブレード"高崎隼人が一部始終を語った。

「全員で来いって言われた後のエージェントで顔を見て俺達をバカにしてると思ったんだろうな...皆、やる気になってたよ。」

「けどさ、現実って非情だよなジッチャンは寧ろ、親切で言ってくれてたんだぜ。」

「だって、タイマンでやったら秒ももたないし寧ろ死にかけるかもしれないんだからな。」

「模擬戦始めてから多分15秒くらいかな?

 最後に残った一人にジッチャンが狙いを定めたのは」

「最後に残った奴なんてもう現実を受け入れられてなかったな。

 まぁ、そりゃそうか一分どころか15秒で全員制圧されちまったんだからな。

 投げに蹴りに殴り、ジッチャンの正確で無慈悲な攻撃を見た最後の一人はきっとこう思っただろうな。」

「何で最初の内にやられとかなかったんだってね。」

「ん?結果?聞かなくても分かるでしょ最後の一人は無事ジッチャンの格闘技のフルコースを食らって沈んだよ.....五秒間もな。」

 F市戦闘班所属エージェント全員制圧。

 タイム20秒(最後の一人のみ5秒使用)



「ん?次?次は情報班のメンバーだった。

 彼等は戦闘もこなすし情報収集もこなすからこの支部ではエリートの扱いを受けてるみたいでな人数は30人位だったな....あっ梶山さんもここに所属してたよ。」

「ジッチャンは同じように全員と相手したよ梶山さん以外の連中は秒殺だったな。

 梶山さんは言い感じで戦ってたけど楽しくなったのかジッチャンが、少し本気を出したらやられちゃったよ。

 けど、梶山さんは意識を失わずしっかりしてたな...ありゃスゲーわ。」

 F市情報班所属エージェント30人制圧。

 タイム30秒(内15秒梶山さんに使う。)



「医療班はどうしてたかって?いやいや、流石にジッチャンも医療班と模擬戦はしなかったよだって彼等には....」

「この模擬戦での負傷者の治療を頼んでいたからね。」

 F市医療班所属エージェント鋭意治療活動中....

 タイム計測不能(負傷者多数のため)



「次はイリーガルで参加したいって奴らの、番だった。」

 『イリーガル』とはUGNに所属してはいないが協力関係を結んでいるオーヴァードや市民の事である。

「確か、黒観と識崎とか言ってたな。

 黒観に関しては現役の警官らしくてジッチャンと話があってたよ。

 こっちの戦闘は見応えがあったね。」



(クソッ!半端なく強いなこのオッサン)

 黒観は能力を発動し四肢を黒化した状態で技を打ち出すも軽くいなされ続けながら動揺を感じていた。

(攻撃してる感じから見てもオッサンは"能力を使ってない"つまり生身の力で対抗してるってことだ。)


 黒化した腕や足はオーヴァードの力を扱い始めた現段階でも鋼鉄以上の硬度を誇っており黒観自信空手の有段者である為、1つ1つの攻撃は既に当たったら只ではすまない代物になっていた。

 しかし現実、黒観の攻撃が毛利を捕らえることはなく時にはいなされ時には打つ前に組み付かれたりと正に翻弄され続けていた。

 そして、この状況に識崎も驚嘆していた。

(UGNの支部長クラスだから強いとは予想していたがこれ程とは"ストライクハウンド"を辞めて日が経っている筈だが全く衰えていないな。)

 識崎はUGNの情報に精通しているため毛利の経歴についてもある程度、理解していた。


(このままじゃジリ貧だ....勝負に出るか)

 黒観は距離を明け黒化を全身に回し力をためる。

(むっ?こやつなにかやる気じゃの....面白い受けて立とう。)

 黒観の構えに毛利も迎撃の準備をとる。

 全身に黒化が行き渡った瞬間、黒観は地面を蹴り上げ一気に毛利に接近する。

「黒腕 狼打くろうで ろうだ

 黒観がそう言いながら右腕に回転を加えて打ち出すが標的毛利は目の前から消え拳は空を切った....そして腹部に強い衝撃を受けて黒観は意識を手放した。


 その様子を見ていた識崎は今の状態を冷静に分析した。

(黒観くんが飛び出した時にはもう既に彼は行動に入っていた俗に言う"先の先"と言う感じか相手の攻撃を読みその行動が起きる前に動くそして、黒観くんの攻撃が発動した瞬間にはもう懐におりそこからの一撃で黒観くんはやられたわけか......)

 分析の終わった識崎は笑いながら

「ふっ、これは勝てないな私達の敗けだ。」

 そう言って敗北を宣言した。

 識崎+黒観チームイリーガル制圧

 タイム1分(毛利曰く「久しぶりにワクワクした」そうだ。)



「そして、最後の戦闘は援護課の面々になった訳だけどこれは俺も見ることが出来なかっだ....だってエマちゃんの相手をしていたからね」


「次は私達の番だねパパ。」

 私は援護課として模擬戦に参加できる事にワクワクしながら話す。

「せっせやなぁエマちゃん。」

 対してパパは今までの惨状模擬戦風景を見て軽く引いていた。

「何、弱気になってるのパパ?私達、援護課の初舞台よ頑張らないと」

 鼻息荒く私が気合いをいれていると、

「次、来んかい!」

 毛利さんに呼ばれ私達は闘技場に向かう。

 援護課総勢5人が集まると毛利さんが私に言う。

「むっ、小娘お主の相手は隼人じゃ。」

 どうやら、私とパパは相手が別のようだった。

 私は了承し高崎さんのいる場所に向かう。


 エマが離れたことを確認すると毛利は小田嶋に近付いて話しかけた。

「久しぶりじゃのう、ユウサク。」

 そう言われた小田嶋は関西弁を止めて普通に会話を行う。

「先生もお元気そうで何よりです。」

「して、コイツらが"例の部隊"か?」

「はい、その通りです。」

 事情を知る毛利は少し寂しい目をしながら答える。

「....そうか。」

「まさか、お主に娘が出来るとは思いもしなかったぞユウサク。」

「そうですね...私自身も思いもよらなかったです。」

「ユウサクよ、お主良い顔をするようになったな。」

 そう言われたユウサクは笑いながら答える。

「ええ、娘のおかげですよ。」

 暫く平穏な空気が流れたが毛利が流れを変えた。

「....さて、お主の事は知っておるし今は誰も貴様らの事は見ていない。

 久しぶりの"全力"を見たいものじゃのぉ?」

 現にその通りでやられた人員は皆、治療用の別室に移されていた。

「ふっ、勘弁してほしいですが....まぁ、ご期待に添える位には戦いますよ。」

「はっはっ....それは楽しみじゃ。」

 援護課対支部長の戦いが人知れず開始された。



 私と高崎さんは一緒に地下シェルターにある別の空間に向かっていた。

 到着するとそこは地面がアスファルトで出来た空間だった?

「ここは?」

「俺達、UGNは色んな環境で戦わなきゃいけないからな色んなシチュエーションがあるんだよ。」

 そう言うと高崎さんは指を指す。

 そこには私のバイクが置いてあった。

「君の能力は知っているからな、実力を確かめるにはやっぱり乗った方がいいだろ?」

「良いんですか?多分危険なことになりますよ。」

 自分の能力について理解している光速で走るバイクが衝突でもしたらどうなるかなんて考えなくても分かるからだ。


「ん?俺の心配してくれてんの?優しいんだねエマちゃんは」

「けど、安心して良いよ"君程度"に殺られる様な柔な鍛え方はしてないから。」

 そう言うと高崎は距離を話して私と向き合った。

「これぐらいの距離があれば攻撃可能かな?」

 そう言って私を挑発する。

「分かりましたお願いします。」

 私は少しむきになりバイクに跨がった。

(高崎さんは確かにベテランのエージェントだけど....私だって。)

 私は能力を発動しバイクに雷を充填させていく。

 高崎さんは腕から刀を生成しするが構えもせずにこちらを眺めている。

「行きます!」


 私はアクセルを踏み雷の力で光速に近いスピードで高崎さんに突っ込む。

 しかし、その瞬間ザシュと言う音と共に私のバイクに衝撃が走りバイクは宙に浮いた。

 驚いた私は何とか飛んだバイクを制御して地面に着地した何があったのか確認するとバイクのフロントに一線の刀傷がつけられていた。


「挑発受けて真っ直ぐ突っ込んでくるなんて案外素直なんだな。」

 高崎さんが私に話しかけてくる。

「何....」

「何したのか?斬っただけだよ君のバイクを」

 光速に近い速度になっている私を捉えて斬りつけた私は驚きを隠せなかった。


「これはジッチャンから教わった技術でね。相手の攻撃を受けてから反撃する"後の後"

 相手の攻撃を見て同時に反撃する"後の先"

 相手の攻撃を察知して攻撃を行う"先の後"

 今回はこれだね。

 まぁ後は相手の攻撃を察知して打たれる前に先に攻撃する"先の先"何てのもあるけど流石にまだ俺にはこれは出来ない。」


「つまり、何が言いたいかと言うとね。」

「君の攻撃なら"察知してからの攻撃"でも十分に対応できるってこと....例え光速で突っ込んできたとしてもね。」

 高崎さんからの種明かしに私は驚きん隠せないでいた。

 原理は理解できても目の前で実際に行われていることに納得できなかった。

 しかし、模擬戦中のこの状況で考える時間など高崎さんは与えてくれない。

「さぁ、続きを始めよう。」

 高崎さんが軽く言うと攻撃を加えてきた。





 続く

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