第5話「B」彼女の偉業

 放火事件の犯人が逮捕された次の日。

 私は支部の会議室に呼ばれていた。

 今回の作戦を立案したUGN支部長が私の責任問題を問いただすために審問会を行う事を決定した為だ。

 ここには作戦を立案し指揮した支部長と本隊を指揮していた高崎隼人、周囲の警戒を行っていたメンバーのリーダーである梶山タケルも同席していた。

「君が呼ばれた理由は分かっているな?」

 支部長がニタニタと笑いながら私に問いかける。

「君は勝手に一般人の前で能力を使用しあまつさえ巻き込みかけた、それに加え本隊や周囲を警戒しているメンバーに相談もせずに勝手な行動を行ったわけだ。」

「私は、現場の緊急性を鑑みて....」

「黙れ、薄汚いネズミ無勢がっ!」

「お前が我々にちゃんと報告をすれば事態はもっと穏便にすますことが出来た。

 お前が手柄をたてたくて黙ってたりしなければな。」

「私はちゃんと報告をしました。」

 エマは確かに作戦本部に連絡をいれていた。


 しかし、UGN支部長が慌てながら「邪魔をするなネズミがっ!」と言い連絡を切られて連携がとれなかった為、識崎と黒観三人で協力して犯人を捕まえたのだ。

「いいや、私はお前の声など聞いていないドブネズミの声などな。」

「なっ!」

 今の発言を聞いて支部長が私に罪を擦り付ける気だと理解できた。


 すると、梶山が手を上げて発言を求めた。

「何だ?梶山。」

「支部長は鹿波さん一人に責任があると仰いますが、現場に駆け付けられなかった私達にも責任があります。」

「君達はヤテベオが作り出した怪物の相手と負傷したエージェントの救護を行っていたではないか?」

「はい、それは本隊を指揮していた高崎さんも同じです。

 あの場では誰も鹿波さんの援護にいける時間も要員もいなかった。」

「確かに独断行動は看過できませんがこの場合動けるのは彼女しかいなかったのです。

 全て彼女の責任にするのに私は納得がいきません。」

 梶山の論じた事実を聞いた支部長はふんと鼻で笑いながら答える。

「確かにAランクに評されているヤテベオが現れその対処に追われていた君や本隊の面々には責任はないだが、彼女は違う。」

「援護課無勢が事件を解決しようなどしたから被害が出たのではないか?」

「確かに建物等は破壊されましたが人的被害は0でした。」

「だが、本隊と合流し事に当たっていたらその被害も無かった筈なのだ。」


「では、どうすれば良かったのですか?」

 エマは黙っていた口を開き支部長に聞く。

「報告し我々が来るのを待つのが正しい判断だ。」

「犯人は能力を使用し何時、犠牲者が出てもおかしくない状態でした仮に援護を待っていたら死人が出ていたかもしれない。」

「それは貴様の憶測だろう?ドブネズミの考えなど意味がない。」

「目の前で奪われそうな命を助ける事の何がいけないんですか!」

 私は怒り椅子から立ち上がった。

「ドブネズミに人を救う資格など無いわ。」

「いいか?我々、UGNエージェントは厳しい訓練により制御した力で人命を救っているのだ。

 しかし、援護課の連中と来たら覚醒しても能力が使いこなせない落ちこぼれの集まりじゃないか....我々の援護という名目で生かされているだけの存在。」

「貴様らの存在そのものがUGNの面汚しであり不愉快極まりないのだよ。」


 援護課を侮辱された私は唇を噛み怒りを抑えそうとする。

 確かに援護課は能力の適正が低い人達で構成されている。

 けど、彼等だって立派なUGNのエージェントがお前みたいに自分のミスを隠す様な奴とは違う。

 本当は掴みかかりたかったが、エージェントとして落ち着いた振る舞いをすべきと考え耐えていた。

「くっ!高崎さんも何とか言ってください。」

 梶山が高崎に助けを求めるが、

「..............」

 彼は黙ったまま俯いている。

「流石は天下の日本支部のエージェントだ。

 誰が正しいのか良く分かっていらっしゃる。」

 支部長か笑いながら私に喋りかける。

「君の処分は決定した全ての責任は君....」

 そう言いかけた瞬間、扉をノックする音が聞こえ一人の男性が部屋に入ってきた。

 男性は上下黒のスーツに髪はオールバックでサングラスをかけていた。

 それを見た支部長は彼に向かって話しかける。

「これはこれは『藤崎』さんではありませんか。ようこそUGN、F市支部へ。」

 私はその名前に聞き覚えがあった。

『藤崎弦一』UGN本部に所属しているエージェントであり高崎隼人の上司だった。


「少々、お待ち下さいこれから責任者を処分....」

「黙れ。」

「は?」

「黙れと言ったのだF市支部長。」

 彼はそう言うと冷静に話し始める。

「自分のミスの責任をエージェント一人に負わせるとは貴様こそUGNの面汚しだ。」

「なっ、何か勘違いをなさっておいる私は別に....」

「"ドブネズミに人を救う資格がない"という発言にもか?」

 藤崎の質問に支部長は驚く。

「どっ.....どうして?」

「隼人。」

 藤崎が呼びかけると高崎が懐からとある装置を取り出す。

「こっ、これは?」

「盗聴器だ、この部屋での会話はそれを通して全部聞かせてもらっている。」

「私が隼人を送ったのは今回の事件への援護だけではない。」

 そう言うと藤崎は机に資料をぶちまける。

「ここ最近、F市のUGN支部の資金の流れを追っていてな不思議なことに"とある課"にだけ資金が止まっておりその分が、誰かの懐に入っているのを確認した...隼人にはその調査を行ってもらっていた。」

「その結果、その金が貴様の懐に入っていることが分かった訳だ。」

「いやぁ、藤崎さんナイスタイミングですよ。」

「これ以上、コイツの話を聞いていたら俺コイツの事、ぶった斬りそうだったんで。」

 高崎は持っている刀に手を置きながらそう言った。

「さてと、責任者の処分を行うんだったな。」

 そう言って藤崎が支部長を睨み付けながら言う。

「貴様を支部長の任から外し『査察部』に引き渡すこととする覚悟しておくんだな。」

 『査察部』とはUGN本部に設立されているUGNを裏切ったエージェント専門の捜査機関の事でその機関の制裁は凄惨を極めるとも言われている。


 事態の重さを知った元支部長がとった行動は簡単だった。

「うわぁぁぁどけぇぇぇ!」

 暴れながら出口に向かって逃走を開始する。

「逃がすかクソヤロウ!」

 そう言い追おうとする高崎を藤崎が手をだし止める。

「止めておけ隼人"巻き添え"を食らうぞ。」

 そう言うと扉から一人の初老の男性が入ってくる。

「どけぇぇぇ!」

 元支部長が初老の男性に襲いかかろうとした瞬間、彼の右こぶしが元支部長の腹部に突き刺さる。

「うぶぉ!」

 鳩尾を抉るように放たれた一撃により口を膨らませながら倒れる元支部長の頸椎に左ハイキックが決まり元支部長は泡を吹きながら地面に倒れた。

「ふむ、支部長クラスなら耐えられると思ったのだが全く情けないのぉ。」

 そう言いながら倒れている元支部長を見ている人物に向かい高崎は驚きながら声を上げる

「うげっ!ジッちゃん。」

「おぉ、隼人ではないか元気にしとったか?」

「うっ、まぁまぁだよ。」

 藤崎が私達に向かって説明をする。

「彼の名前は『毛利ツネタカ』昔UGNチルドレンの教官をなさっていた方だ。」

「まぁ、後任が出てきてからは暇してたんだがのぉ。」

「彼が今後、F市の支部長の任につく。」

「よろしく頼むぞこわっぱども!」

 この事態を正確に理解できた高崎は心のなかで同情を感じた。

(うへーっジッチャンが支部長になるとしたら大変だろうなぁ。)


 高崎はエージェントになる前はUGNチルドレンとして毛利から指導を受けており彼の経歴も知っていた。

 毛利は元自衛官でオーヴァードに覚醒してからはUGN日本支部の戦闘部隊ストライクハウンドで隊長を勤めていたバリバリの武闘派だった。

 彼は良くも悪くも敵味方両方に容赦がない一度敵と見定めると完全に潰すまで止まらないし味方の訓練にも本気で取り組む。

 彼の地獄の特訓を受けた為、高崎と"もう一人のUGNチルドレン"は成長し今ではどちらも一流のエージェントとして"UGNチルドレンの訓練教官"となっている。

 故に高崎は毛利が支部長になることでF市支部で悪どいことをやってた連中は全員徹底的に潰され、逆にUGNエージェント全員が血反吐を吐くほどの辛い訓練を受けさせられることを理解し心の中で合唱をした。


「今後の事は毛利さんと相談してください...では私はこれで」

 毛利と他の者に一礼すると藤崎は鹿波の元に近付き質問をした。

「君が小田嶋の娘か?」

 そう質問をされ私は答える。

「はい、そうです。」

「そうか、君も大変だな。」

 藤崎から表情は変わらないながらも鹿波に同情の意見を述べた。

「それはどういう意味ですか?」

「彼によろしくと伝えておいてくれ。」

 そう言うと藤崎は部屋を後にした。


 その後、毛利さんが正式に支部長となったことが報告され元支部長は本部へ護送された。

 毛利さんは支部内を徹底的に改革しそのお陰か援護課をラドリーラットと呼びバカにする者は誰もいなくなった。(バカにする人全員、毛利さんに叩きのめされた為)


 そして、私の環境も変わった。

 若手エージェントでありながら暴走したジャームを捕らえた立役者として。

 そして、そのエージェントを保有している援護課も今後のUGNを支えるチームとして、期待されるようになったのである。





 続く



【おまけ】

「さーて、これで一件落着だな。」

 藤崎さんの介入で事態が上手く進んだことに高崎は安堵していた。

(命令とはいえエマちゃんには可哀想なことをしたなぁ。)

 元支部長の言い分を正確に聞くために高崎は意見せずに現場を傍観するよう藤崎から命令を受けていた。


(それにしてもムカつく野郎だったぜあの男、でも毛利さんがぶっ飛ばした時はめっちゃスッキリしたぜ。

 それにここの支部長に毛利さんがなるならここは安泰だな。)

 高崎は今後の支部の道筋に安心すると冷静に考え始めた。

(さてと....いい加減、現実を見るか。)

 そう言って毛利を見つめる。

 毛利は俺たちを見つめてしばらく考えたあとみんなに向かって告げた。

「さてと、お主らの事も知りたいしちょっくら手合わせでもしようかの。」

(始まっちまったよ地獄の訓練が....)

 UGNチルドレンとして施設で過ごしていた子供時代の教官が毛利さんだった。

 故に俺は毛利さんの性格を知っている。

(毛利さんは現状のメンバーの事を知るためといって必ず模擬戦をする。

 そして、見込みのある奴には特訓と称した地獄が用意されているわけだが....)

(参加したくねぇぇぇ!逃げてぇぇよぉぉぉ!)

 この地獄を知っている俺はさっさとこの場を逃げ出したかった。

 何故なら、俺と同期の椿は毛利さんに気に入られて一番しごかれた故にその恐怖を全身で覚えているからである。

 勿論、そのおかげで強くなったことも自覚してはいるがそれでも

(ジッチャンと模擬戦するぐらいならヤテベオと戦う方がマシだ。)

 そう考えていると梶山が毛利さんに話しかける。

「毛利支部長、それは無理ではないかと」

 意外な助け船に高崎は喜ぶ。

(よし、良いぞ梶山さん。)

「今日は査問会の為、メンバーが全員集まっていません、手合わせするなら全員いるときがよろしいのではありませんか?」

(えぇぇぇぇ!そう言う理由?)

 心の中で驚いている俺を尻目にエマちゃんが話を続ける。

「そうですね、それに支部長さんには援護課の事を知ってもらいたいですし。」

「なら、"支部長権限"で召集を掛けたら如何でしょうか?」

 梶山が意見を言う。

 『支部長権限』とは使用することでその支部全体に最重要命令を伝達することができ所属エージェントは基本逆らえない。

(梶山ぁぁぁ余計なこと言ってんじゃねぇよクソガァァァ!)

 梶山からの意見に思わず心の中で呼び捨てにしてしまったがここで高崎は思い返す。

(はっ!待てよ支部長権限が通じるのは"支部に所属するエージェント"だけだった筈、俺は援護の為に呼ばれた部外者だから)

 そこに気付き俺も話しに加わる。

「そうだな!支部長権限なら簡単だしトラブルも少なくすむだろうジッチャンそうしなよ。」

 俺は笑顔で梶山の意見に賛成した。

(恨むなよエージェント諸君。俺だって死にたくないんだ。)

「ふむ、ではそうするか後で打診しておく。」

「なら良かった良かった。

 んじゃ、俺はこれで」

 そう言いながら帰ろうとする俺の肩をジッチャンが止める。

「ん?何処にいくんじゃ隼人。」

「えっ?俺、今回援護で呼ばれただけだから別の任務あるだろうし。」

「何じゃ、藤崎から聞いとらんのか?

 ヤテベオの一件から支部の調整が済むまでお主は暫く"お前をF市のエージェント"にしておくとあやつゆうておったぞ。」




「.......え?」

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