第4話「A.B」私だけの救出方法

 識崎に協力を持ちかけられた私は悩む。

(この人はパパの事を知っている....けど信用しても良いのかな?)

 悩んでいることを察した識崎が私に更に畳み掛ける。

「悩むのは結構だが時間はないと思うぞ?

 この犯人は今回始めてこんな目立つ場所で犯行を行った....つまり犠牲者を出したくて行動したということ。」

「悩めば悩むほど犠牲者が出るぞ?」

(識崎さんの言うことは正しい。)

「分かりました貴方達に協力します。」

「よし、では作戦を説明しよう。」

 識崎さんはそう言うと作戦の説明を始めた。



 識崎さんが作戦を説明し終わり黒観さんが学校の中に入っていった。

 私は私でバイクに股がり人質を救出する準備を行う。

「鹿波エマ、君の能力がバイクと雷を纏って光速で移動できる事は知っている。」

「作戦通り、黒観くんが犯人の注意を引いてくれている間に君がバイクを使い人質の救出を行ってくれ。」

「ここまでで何か質問は?」

「安全性を考えるなら私が一人で救出を行うより貴方か他のエージェントを待って行った方がいいのではないでしょうか?」

 人質全員を安全に助けるのならばそれが一番安全だと考えた私が尋ねると識崎はその意見を否定した。


「それは不可能だ、私のオーヴァードの能力は肉体的行動に付加価値が付かない正直に言って足手まといになるだろう。」

「そして、最後の質問応援の話だが、あの爆発を見て誰も来ないと言うことは」

「恐らく本隊の方にも敵が現れているのだろう。」

 残念ながら識崎の予想は当たっていたのだ。



(クソッ!さっき学校の方面で爆発があった.....放火犯はあそこにいるってのに。)

 高崎は目の前の相手に刀を向けつつ睨み付ける。

「やはり、一筋縄ではいきませんね流石は"聖なる瞑想者"が育て上げた部下。」

 俺が日本支部の藤崎さんに育てられた事をコイツは知っていた。


「あんたは確か、ヤテベオだっけ?

 前まではN市にいたってのに最近はここら辺で暴れまわってるそうじゃないか?」

「ここに何かあるのか?」

 俺の質問にヤテベオは冷徹に答える。

「貴方の知る必要のないことですよ。」

 ヤテベオの手から大樹のトゲが生成され俺や他の隊員に襲いかかる。

(コイツ、また他の奴らを)

 俺は能力により高速で相手に近付くと根本近くを刀で思いっきり切り裂いた。

 そして、二の太刀でヤテベオを斬り付けるが紙一重でかわされてしまう。


 この一戦で距離が空いたので警戒しながら俺は周りの状況を確認する。

(俺と共に突入する筈だった本隊の連中は皆、ヤテベオにやられて動けそうなやつはいねぇ...本気で斬ろうにもコイツは、動けない仲間を巻き込む攻撃ばかりしてきやがる....やっぱりこいつの狙いは)

「そんなに時間を稼いで何がしたいんだよヤテベオ。」

 俺はヤテベオに尋ねる。

「私も詳しいことは知りませんよ。ただ、あなた方を止めるように頼まれただけ。」

「なる程ね」

(頼まれたってことはこの計画の情報が漏れていたってこと裏切り者がいるって訳か。)

 高崎が現状の解決策を思案しているとヤテベオが時計を確認し話し始めた。


「これだけ時間を稼げれば充分でしょう。」

 そう言うと懐から1粒の種を取り出した。

「私はこれから去りますが貴方の強さに敬意を評して1つお土産を残しましょう。」

 ヤテベオが種を落とすと急成長し始める。

「この種は特別製で、食虫植物と硬度が鉄並みの樹木を合成して産み出したものです。」

「成長しきると大きな犬の様な姿になり見境無く全ての生物に襲いかかります。」


 そう説明していると確かに木の形だった樹木がどんどんと大きくなり獣の姿を型どっていく。

「名はバスカビルと言います。

 ではごきげんよう。」

 そう言い終わるとヤテベオは姿を消した。

 2メートル以上ある大きな犬の化け木の塊を残して。

「やれやれこいつの相手は厳しそうだな。」

 そう言いつつも俺は刀を握り直し敵に向かって向ける。

「相手してやるよデカ犬!」

 俺とバスカビルの生き残りをかけた戦いが始まった。



 識崎の話を聞いた私は驚きながらもその意見に納得していた。

(確かにこれだけ大きな爆発が起きてるのに来ないってことは何かトラブルが起きたんだ。)

 そんな事を考えていると識崎が話を続ける。

「取りあえず今必要なのは人質となっている生徒31名の救出だ。」

「犯人の能力から考察するに相手はサラマンダーの力を有しており、見た限りだと前よりも格段に威力や精度が上がっている。

 故に長時間の救助は危険性が高いと言わざるを得ないね。」

「じゃあ、どうすれば?」

「そこで君の能力の出番だ。」

 その作戦とはあまりにも荒唐無稽な、まるでマンガの中のキャラクターが出すようなアイデアであった。

 しかし、現状何の解決策も見いだせない私はその作戦に乗ることにした。

 先ず私は能力を使用しバイクごと窓から教室に侵入した。私の格好とバイクに驚いてはいるものの「助かりたいなら私に従うしかない」事を告げると渋々ながらも了承してくれた。


 その後、私は皆に10人で1グループを作って貰い椅子でサークル状になるように準備してもらった。

 3つのサークルが出来上がると皆にチェーンの様に手を組んでもらうようにお願いし余った1人にサークルの内一人を触り私のバイクに乗ってもらう。

 準備が終わった事を確認した私はオーヴァードの能力を解放し31人の体に微弱な電流を流した。その結果、彼等の筋組織は痙攣を起こしお互いの手と体をガッチリと握った状態になった。

 これが識崎さんの作戦で人間鎖を作りそれをバイクで引っ張って外に脱出すると言うものだった。

 最初に聞いたときは上手くいくわけ無いと思ったが、それでも他に方法が思い付かなかった。


 学校の廊下では犯人と黒観さんが対峙しているのだろう。

 彼等の力を細胞を通して感じている。

 犯人は黒観さんにだけ集中して他に関心がない、そのお陰で私がこうやって救出の為の準備が出来ている。

 私は識崎さんに言われた"注意事項"を思い出す。

「想像してほしい君とそのバイクは機関車の先頭車両で速度を出すメインの機関、そして鎖状に繋がった人質は車両、君と人質を繋いでいる一人が連結部分だ。

 君が能力を使い敵の破った窓から光速に近いスピードで真っ直ぐに校庭の地面に向かって走る。

 しかし、このまま地面に激突した場合、車両は無事かもしれないが連結部分は確実におしゃかになるだろう。

 連結部分を助けるために途中で接続を切ったら今度は車両が衝撃を受ける結果となり彼等がおしゃかになる。

 助かる方法は1つ彼等の受ける衝撃を君とバイクで肩代わりするしかない。

 外に出た瞬間、回転しながら地面に着地するそして、全ての衝撃を先端である君に向かわせるようにするんだ上手く衝撃が先端に全て伝われば彼等は助かる計算だ。

 無論、君も無事ではすまなくなるがそこは安心したまえバックアップを頼んでおいたから」


「一体、誰に頼んだんですか?」

「すまないがそれは秘密にする約束なんだよ、だが味方だから問題ないよ。」


(本当に大丈夫かなぁ。)

 私は不安を覚えつつもその作戦をやることを選んだ。

(彼等はオーヴァードの犯罪に巻き込まれた被害者でUGNはその犯罪彼等を守るためにある、私はUGNのエージェントだからこそ彼等を守ってみせる。)

 覚悟を決めた私はバイクのアクセルを踏みしめた。


 犯人の能力によってコンクリート事吹き飛ばされた窓からバイクと人質が飛び出てくる。

 窓を出た瞬間、私はバイクを右方向に傾け回転をかけるそうすると連結している人質も右向きに回転を始めた。

 私のバイクが地面に着地するそのまま私は彼等が安全に着地できるように大回りで校庭を回った。

 ガチャン最後尾の椅子で地面に到着して、

 衝撃が発生する私は彼等にダメージが残らないように衝撃を前側に移す。

 二つ目三つ目も上手く地面に着地出来たようで衝撃はほぼなかった。


(問題はここから。)

 三台分の衝撃が連結部分をやってくれた彼に届かないようにバイクから私に衝撃を移動させる。

 そして、衝撃が全部移動したのを確認した瞬間、私はバイクから手を離した。

 手を離した瞬間、砲丸投げの玉の様に私は空に飛ばされた。

 かなりの衝撃だったのだろう学校の高さを軽く超え6階建てのビル位の高さで斜めに飛行していた。

(うっ!凄い衝撃、体が動かせない。)

 並みの人間ならこれだけで骨が折れていそうだがオーヴァードである私は何とか耐えられていた。

 頑張って後ろを見るとそこにはコンクリートの壁が迫っていた。

(当たる!)


 私は目をつむり耐えようとした瞬間、大きな爆発音と共にコンクリートの壁が崩れ、

 ボフッと言う音と共に柔らかい何かにぶつかり停止した。

 ぶつかった衝撃が少なかったお陰で直ぐに動けた私は周りを確認する。

(これって確かUGNが開発していた落下の衝撃を軽減する装置だった筈。確か使い道が無いとか言われて援護課にまわされた...)

 そこまで考えたあと味方の正体が援護課だと分かり私は安堵した。

「全く、パパの仕業ならそう言えばいいのに」

 そう考えながらも体の状態を確認しケガがないと感じると私は能力を使いバイクを呼んだ。

(まだ、休んじゃいられない仕事が残っている。)

 数分後到着したバイクに乗り私は学校へと戻るのであった。


 UGN、F市支部の屋上にて、

 事件が起きている現場を倍率スコープで除いている人影があった。

 ビルの入り口から呼び出したバイクに股がり現場に戻っていく女の子を確認すると、

 彼女は笑みを浮かべながらスマホを使い連絡をかける。

 数回のコール音の後に相手に繋がった。

「どうだった?」

「作戦成功、ケガ1つ負ってないみたいで直ぐ現場に戻っていきましたよ。」

「......そうか。」

「良かったですね隊長。」

「君のお陰だよテンコくん....相変わらず抜群の狙撃能力だ。」

「まぁ、それがあたしの能力ですからね。」

 的場テンコは当然の様に電話相手である上司に言った。

「1km以上離れたビルに仕掛けた爆弾の起爆剤を正確に射抜き娘を爆発で傷つけずに助け出せる腕は能力だけじゃなく紛れもない君の実力だよ。」

「けど、あのヤテベオってやつには止められましたけどね。」


 テンコはこの前起きた輸送トラックでの事件を思い返す。

(エマちゃんに気付かれないように数km離れた場所から護衛してた。

 敵に探知能力を持っていたとしても範囲外だった筈なのにヤテベオに弾を止められた。)

 今まで撃った弾を目標に当たらず止められたことの無かったテンコにとって屈辱的な事件としてエマとは別の意味で覚えていた。

「エマちゃんの護衛続けますか?」

 テンコが尋ねると隊長が答える。

「いや、もう大丈夫だろう...何せあの識崎が立てた作戦だイレギュラーは起こらないさ。」

「それもそうですね、では撤収します。」

 そう言って電話を切るとテンコは素早く使用した銃を片付けてその場を去った。


 UGN捜査援護課、通称ラドリーラット。

 そう呼ばて他のUGNメンバーからはバカにされている彼等だが、彼等にも裏の顔が存在する....誰にも知られていない裏の顔が





 続く

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