第8話「A」覚悟と二人

 黒観と根津の戦いを確認しながらも識崎は次の行動に出ていた。

(この感じから察するに黒観くんは上手く力を扱えているようだな。)

 状況を冷静に把握しながらも相棒である黒観の成長を喜んでいた。


「識崎さん。」

 呼ばれて振り向くと制服姿の女子高校生が話しかけてきた。

「識崎さんの言う通り人質になってた生徒は皆、待避させましたもう安全です。」

「素晴らしい流石の手際だね『鹿波エマ』小田嶋君が信頼しているも分かるよ。」

 そう言われて鹿波と言われた少女は照れ臭く笑った。


 鹿波エマ、幼少期にオーヴァードの力に覚醒しUGNの施設で育てられた『UGNチルドレン』としてUGNに属している。

 通常ならば身分が一般人である識崎が呼べる様な人材ではないが電話していた小田嶋ユウサクはUGN支部長でありかつ鹿波の上司であり協力関係を結んでいるため、

 この様に人材を派遣してくれたのだ。

(まぁ、貸りは利子をつけて取り立てるのも小田嶋くんのやり口なのだが。)


 鹿波が周囲の安全を確認し話を始める。

「識崎さん後は、犯人を捕まえるだけなのでここからは我々が....」

 そう言いかけた瞬間、教室の窓が一斉に割れ熱風が窓から吹き出した。

「キャッ!」

(これは!?....やはり暴走したか。)

 今の現象から犯人の現状を正しく理解できた識崎の脳内では超高速で情報の処理と解決策の思考が行われていた。

(今の爆発から考えてもサマランダーの能力が暴走していることは明らかだ無理やり鎮圧したり殺したとしても力が暴走して爆発する危険性の方が高い....なら、解決策は)

 識崎は爆発した真下の教室を確認する。

(置かれている物から推察するに理科室か鹿波くんの能力を掛け合わせれば黒観くんに話した計画と少しズレるが...いけるな)

 爆発から数秒後、識崎は冷静に鹿波に話しかける。

「鹿波エマちょっと手助けが必要なのだが構わないか?」

「えっ?あっ大丈夫です。」

「ありがとうそれじゃあ、行こうか?」

 何をするのか分からないと言う顔をしている鹿波を連れて私は理科室へと向かった。


 オーヴァード『識崎キンザブロウ』の能力は

 一度見たものを完全に記憶出来る。

『完全記憶』とスーパーコンピューターやどんな天才でも数日かかる思考を数秒で行える

『超並列思考』である。

 彼はオーヴァードの起こす事件を専門で解き明かす為、UGN内から『特殊探偵』と呼ばれている。




 黒観は熱波にが集中している部屋の前で肉体の変異を始める。

(身体の表面に鋼鉄の鎧を着けているイメージでゆっくりと力を浸透させるんだ。)

 すると黒観の全身がどんどんと黒く変色していった。

 全身が完全に黒くなると今度は身体の内部に流れる血を感じ始めた。

(こっちのイメージは血流を滝の様に流し続けるだ常に高速に)

 そのイメージに身体が反応し肉体を流れる血液のスピードが上がっていくそれに加えて体温も上がり、黒観は限界まで神経が研ぎ澄まされた一種のトランス状態になった。

 辺りの景色がゆっくりと流れて見え彼の意識は別次元のものへと昇華された。



 識崎は黒観に言った。

「もし、根津少年がジャーム化してしまった場合君一人で対処することは不可能だろう....だから、彼を我々のいる一階まで落としてくれ力付くでも構わない。」

「後は私が何とかする。」

 識崎は不適な笑みを浮かべて答えた。

(ふっ、まさか俺があんな詐欺師みたいな奴の言葉を信じるとはな。)

 そう笑いつつも黒観は信頼していた。

 あって、そんなに日もたっていない。

 識崎に関しては知らないことも多い。

 けれどもこれだけは言える。

(オーヴァードに関連したことで間違ったことは一度もない。)

 俺は地面を取り上げると飛び上がりながら部屋に入った。

 バク転しながら目標を見据える。

(そう言えば識崎が言ってたな。)

「ここ一番って時に決めたい技があるのなら名前をつけておくと良い私もそうしているし何だかんだつけておくとカッコいいぞ。」

 最初はバカにしていたが今なら気持ちが分かる。

 オーヴァードの能力は使用者のイメージによって力が増減する。

 だからこそ決めたい技の時や必殺技には名前をつけるんだ。

 だからこそ俺は決めた始めて放つこの技の名前を教室の地面に向けて全てを貫く猛牛の一撃。

「黒脚 牛突!!《くろあし うしづき》」

 黒観の右足から放たれた一撃は教室の地面を抉り貫きながら暴走した根津と共に落下していった。



 落下する一分前、

 識崎は理科室の蛇口を全て開き薬品を作り終えるとそれを蛇口の方面に投げ入れた。

 大急ぎで出てくいと外に待機し銅線を握らされている鹿波に合図を送った。

 合図を受けとると鹿波は自分の能力の一つである雷を使いそのエネルギーを銅線に伝わせて理科室へと流し込んで行く。

 識崎は待避しながら思考を巡らす。

(私が作った薬品は水に混ぜ電気分解を行うと通常の十倍の水素を作り出す様になっている。)

(水素が充満した部屋に点火寸前である根津少年を送り込む....すると)

火種根津少年に高濃度の水素が反応して....)

 大地を揺るがす轟音と共に落下させた高校の教室の屋根が屋上事、破裂した。

(良し、根津少年の爆発の威力と水蒸気爆発の威力が上手いこと相殺できたな....後は)

「黒観くんの安否次第だ。」

 識崎はそう言うと急いで半損した理科室に向かった。



 理科室に入った識崎が見たものは爆発で何もなくなった部屋の中心で気を失っている根津少年だけであった。

 識崎は急いで根津の安否を確認する。

(脈もあり呼吸もしっかりしているな。)

 根津の無事を確認すると識崎は黒観を探した

 この作戦での唯一の不確定要素それが根津少年の爆発と水蒸気爆発、同威力の爆発をその身に受けて黒観くんが耐えられるかどうかだった。

(ブラムストーカーの能力なら耐えられる可能性はある....だが100%じゃない。)

(もしも耐えきれなかった場合、私は....また)

 すると、隣の壁から這い出てくる人物を発見した上半身裸で下半身もギリギリ布で覆われている様な格好をしている。

 傍目から見ればみすぼらしい格好の筈なのに私には彼が誇らしく見えた。

(生きていたのだね...流石だよ黒観くん)

 彼に労いの言葉をかけようと近付いた瞬間....

 黒観が識崎の頭を叩いた。

「!?痛いじゃないか黒観くん。」

「うるせぇ識崎、テメェの作戦を信用したのに何だこれは?」

「とてつもねぇ爆発に巻き込みやがってあと少し身体を硬化するのが遅れてたら全身吹っ飛んでる所だぞ!」

「相変わらず君は煩いねぇ、私の作戦通り上手くいって死ななかったんだから良かったじゃないか、流石私だ。」

「ドヤってんじゃねーぞこのイカレアンポンタンがっ!」

「イカレアンポンタンだと!私ほどの知能を持つものは他にいないと言うのに....えーいこうしてやる。」

「うわっ、識崎テメェ返しやがれ!」

 黒観の股関を隠していた布を取っ払い識崎がその布をフリフリしていると

「識崎さん大丈夫でした.......か?」

 外で待機していた鹿波が中に入ってきた。


「おぉ、鹿波くん丁度い..」

「キャァァァァァアー!」

 目の塞ぐ鹿波に識崎は言った。

「鹿波エマ一体どうしたんだい?」

「テメェが俺を全裸にしたせいだろうが服寄越せやコラぁ!」



 こうして俺達が始めて解決した事件は幕を閉じた。

 その後、俺は識崎の紹介でUGNの保護対象として受け入れられ今は刑事とUGNでのサポーターとして識崎と共に活動している。

 俺はこの力のお陰で救える命が増えた。

 けれども救えなかった命も救えなかった過去も俺には残っている。



 俺は決意したこの能力を使って今度こそあの


 連続斬殺事件の犯人を捕まえると......


 一人でかって?.....いや



「「二人でだよ。」」




 続く

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