第7話「A」対峙と暴走

 識崎と黒観が校庭にたどり着くとそこには黒こげになった人間が倒れていた。

「恐らく爆発をもろに受けてあの窓ごと吹き飛ばされた訳だな。」

 その死体を見て識崎は冷静に分析する。

「どうやら、放火をしていた時よりも威力や操作性が上がっているみたいだな。」

「爆発の熱を集約して炭化するまで燃やし尽くすとは流石はサラマンダーの能力だな。」

「んな落ち着いてる場合じゃねーだろ識崎」

「言い分は最もだが誰かが冷静に対処できないと意味がないだろう。」

 識崎が学校を冷静に眺め数秒沈黙すると黒観に向かって聞いた。

「黒観くん人質の子供達が数人犠牲になる策と全員生きれるが君が死ぬかもしれない策どっちがいいかな?」

「お前分かって聞いてるだろ?」

「やはり、そっちを選ぶか。」

「市民を助けるとが俺の仕事だ。」

「分かったなら、君にやって欲しいことが三つある。」

 黒観は識崎の提案した作戦イカれた提案に耳を貸しすぐ行動にうつした。



 根津アカヤは興奮していた。

 今まで、自分を虐げていた奴らの命を握っている全能感とそいつらが泣き叫ぶ声を聞くことが出来る満足感に正しく神になったような多幸感が身体を支配していた。

「さて、次は君にしようか?」

 根津は今まで虐めてきた奴らの体に火をつけていたぶって遊んでいた。

 彼が本気で能力を発動すれば、全員消し炭に出来るのだが彼はしなかった。

(強者とは余裕をもって弱者をいたぶれる存在....ですよね?メンター)

 彼はメンターの教えに忠実に従っていた。

 能力を開花した今でも....

 虐めていた奴の身体にゆっくりと火をつけて行く四肢から丁寧に時間をかけて燃えている手足の火を消そうともがくが一向に消える気配はない。

 そして、火傷が起こる一歩手前で火を消すのだ。

 火をつけられた本人は焼き殺される恐怖に苛まれ今にも発狂寸前の状態になっている。

「あー、楽しかったじゃあ次は」

「もう少し痛くしてみようかな?」

 いじめっ子の顔に手をかざした瞬間、

 体に違和感を感じ攻撃をやめた。

(何だ?この感覚。)

 違和感の正体を確かめようと意識を集中させる。

 すると、廊下に違和感を与える者がいることを感じ取った彼は廊下に足を運んだ。

 そこにはスーツ姿の男性が目の前に立っていた。


(本当に奴の言った通り出てきたな。)

 黒観は識崎の作戦通りに事が運んだことに驚きながらを現れた青年を確認した。

 そこで識崎の言っていたことを思い出す。

「先ずは根津少年を人質である生徒から引き離す必要がある。」

「これにはさっきやったワーディングをやればいいワーディングにはオーヴァード以外の人間を無力化する効果と共に出力を上げると他のオーヴァードが察知しやすくなるデメリットがあるんだけど今回はそれを利用する。」

「そして、人質である生徒から引き離した後ここからが大変だ所だ。何せやったことない事を黒観くんにして貰うからね。」

「引き離した根津少年の視線を黒観くんに集中させる手っ取り早く確実なのは」


「君の能力で根津少年の攻撃を無力化する事だ。」

(全く本当に無茶を言ってくれるぜあの野郎)

 黒観は識崎の立てた作戦に毒づきながらも、冷静に状況を分析していた。

(あの根津ってガキの能力は炎を爆炎して放てるってこと...簡単に言えば巨大な火炎放射機って訳か。)

(俺の能力が識崎の言った用なやつなら確かに逆転の可能性はあるだがもし違ったら...)

 逃げるか?

 自分の心が問いかけてくる。

(冗談じゃねー、ここで逃げたらあの時の同じ...いやあの時以下だ。)

(俺はもう逃げない今度こそ守る...俺は市民の平和を守る刑事だから)

 覚悟を決め少年に向かって拳を構える。

(いくぜガキ!お仕置きの時間だ。)



 根津は目の前の男性を見ながら考えていた。

(この男があの違和感の正体?確かメンターが言っていたワーディング?だっけ俺と同じオーヴァードが使える技だったはず)

 メンターに教えられた技術を思い出しながら計画を立てる。

(コイツが俺と同じ能力者なら油断はできないな俺とこの人距離は大体5m位か。)

 敵との距離を計りながら根津は目の前の男を殺す計画を立てるこれもメンターに教えられたことだった。

(何発か牽制の攻撃をしつつ奴が近づいてきて俺の目の前に来たところを最大火力の一撃で消し炭にする。)

(遠距離なら反撃できない程の威力で燃やし尽くせばいい。)

 根津はいじめられてた時のクセで人の身体の動きや体格からこの人は何が得意なのか見抜く洞察力に長けていた。

(この人かなりカダイが良いな何か武道をしていたのかもなら、遠距離よりも近距離で来る可能性が高いな.....緊張してる?動きが少し硬い....あっ構えたあれって確か、空手だっけ?)

 黒観の構えを見て根津が分析をする。

(良し近距離用の殺しで行こう。)

 根津も構えると臨戦態勢に入った。




 最初に攻撃をしたのは根津だった両手に小さな火球を作りながら黒観に投げつけていく。

 それを黒観は華麗に交わしながら根津に近づいていく。

 敵の意図が読めた根津は後方にステップで下がりながら火球を打ち続けていく。

 段々と速度が上がっていくにも関わらず黒観は無駄なく避けていく時には地面を蹴り天井を雲のように走りながら根津に近づいていく

(この人化け物かよ、あんな回避の仕方初めて見た。)

 根津の驚きを尻目に黒観は焦っていた。

(良し、何とかここまでは上手く出来ているみたいだな動きに今んとこラグもない。)

(だとすると勝負どころは)

(やはり)

((ここだ) )

 もう後ろに下がれなくなった根津は目の前に両手をかざして最高火力の一撃を放った。

 高速で近づいていた黒観はもろにその炎を受ける事になった。

(良し!当たったこれで終わりだ。)

 根津が勝利を確信し、笑みを浮かべる。


 攻撃の刹那、黒観は識崎の言葉を思い出す。

「黒観くん君の過去を調べた結果から推察すると君の能力の名前は『ブラムストーカー』能力は血流を操作して身体能力と治癒力の向上....そして、もう一つは。」

 根津の爆炎が突如として書き消された。

 両腕を黒い何かに捕まれたからだ。

(何だこれ?炭化した腕か?)

 しかし、その考えも否定された。

 根津の目の前に現れたのは、

「黒観くん君のもう一つの能力は血中の鉄分を操作して肉体に鋼鉄の強度と耐久性を与えるものだ。」

 黒い身体をした化け物だった。



 黒い身体をした化け物に攻撃を止められた根津は焦って脇腹に蹴りを加えた。

 しかし、その蹴りが黒観にダメージを与えることはなく寧ろ根津の足の骨が折れる音が聞こえ悲鳴を上げる。

 黒観は空いている右手を根津のあばら骨に平手で打ち込んだ。

 手加減したとは言え根津のあばらは折れ身体はボールの様に隣の多目的室に飛んでいった。

 根津が飛んでいったのを確認すると黒観は大きく息を吐きそれを合図に彼の身体は元の肌色の肉体に戻った。

「やっぱ、長くは続かないよな。」

(しかし、ぶっつけ本番でやっては見たが出来ちまった...そしてこれがオーヴァードの力)

 黒観にも根津と同じ強い力による全能感を感じていたがそれ以上。

(身体の細胞が力に飲み込まれていくのが分かる....これが識崎の言っていた侵食か。)

 自分の身体で自分の者で失くなっていくような感覚に黒観は恐れを抱いた。

 平静さを取り戻すと多目的室に吹き飛ばした根津に目をやる。

 頼むから立ち上がらないでくれと言う願いを込めながら



 吹き飛ばされた後の根津は数秒後目を覚ました。

(がっ!息が出来ない。)

 あばらを折られた為、息を吸えなくなっていることに根津は気付いてなかった。

(くそっ!起き上がらないと)

 またいじめられる!

(いじめられる?俺は今何を考えた?)

 また殴られる。

(止めろ俺はもういじめられっ子じゃない)

 みんな無視する。

(黙れ!俺は強い...強いんだ!)

 みんなが僕のことを笑ってくる。

(止めろぉぉぉぉぉ!)

 彼の中で何かが壊れる音がした。



 根津を吹き飛ばした多目的室で急に爆発が起きた黒観が確認にいくと根津の周りで業火が発生していた。

(コイツっ!さっきよりも力が強くなってないか?)

 あまりの熱量に近づくことすら出来ない黒観は識崎の言っていた事を思い出した。

「さっきの作戦で仕留めきれなかった場合の最悪のパターンとして根津少年がジャーム化する可能性がある。」

「ジャーム化って能力を使いすぎると起こるんだろ、じゃあ可能性は低くないか?」

「通常のパターンならそうだが能力者が自我を保てなくなるほどの精神ダメージを受けてもジャーム化することがある。」

「そうなった場合は危険だ制御出来なくなった能力は暴走を起こし被害を及ぼす周りやもちろん自分にも」

「自分?」

「能力の管理が出来てないから身体のダメージを気にせずに力を奮うそれこそ身体が壊れてしまうまでね。」

 根津の身体を見てみると衣服が所々焦げていたり手に火傷のような怪我を負っていた。

(早くケリをつけないと不味いな。)

 黒観はもう一度力を解放する。

(全く、まさかここまで読みきっていたのかよ識崎。)

 黒観は最後に識崎から言われた言葉を思い返す。

「もし、根津少年がジャーム化してしまった場合の最後の作戦を教えよう。」

「これがさっき言ったろ君が犠牲になるかもしれない作戦だ。」




 続く

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