第5話「A」けじめと訓練

 次の日の【bar.CatTail】内にて

 時間は11:00

 識崎はコーヒーを片手に来るであろう相棒を待っていた。

(黒観くんの答えは予想できている....後は)

 識崎はケータイを取り出すと電話帳から名前を選択し電話をかけた数回のコール音の後に電話が繋がる。

「もしもし、識崎だけど小田嶋かい?」

 小田嶋と聞かれた電話の主が答える。

「せやでーってか携帯にかけとるんだから本人が出るに決まってるやん。」

「そんなこと分からないだろうなりすましもあり得る....小田嶋この前フラれた彼女の名前を....」

「ええ加減にしろや、ワシを怒らせたいんか?」

 関西弁での返しに識崎は笑いながら本題に入る。

「あっはっは、相変わらず君はからかい甲斐のある男だね....ここからが本題だ。」

「黒観ハヤタと手を結ぶことにした。」

「.....蛮花事件の生き残りか?」

 小田嶋の声のトーンが変わる。

「あぁ、その通りだ。」

「彼を巻き込むとは君にしては意外な行動だな。」

「彼はオーヴァードの絡む事件に対して興味を示している、だからこそ今の内に力の使い方と敵について教えておいた方が良いだろう。」

「お前の推理ではやはり」

「あぁ、FH《ファルスハーツ》が関わっているだろうね。」

 FHは人類の新たな進化種であるオーヴァードこそが世界を支配する事が相応しいという大義を抱えている組織...なのだが実際は手に入れた力を使い己の欲望を満たしたいテロリストの集まりだ。

 UGNとFHはオーヴァードが誕生してから長きに辺り対立し戦い多くの血が流れている。

「と言うことは俺への頼みというのは黒観のUGN内での保証に関してか識崎?」

「あぁ、いきなり敵として扱われてしまっては元もこうも無いからね。」

「分かったそれはこっちで手を打っておこう。」

「頼むよ今度お礼をするから」

「あぁ、楽しみにしている。」


 そう言って電話を切ると彼はもう一度思考状態に入った。

(今回の事件の犯人はもう目星が着いている私の予想通りならここで彼は重要な決断を迫られるだろう....一体彼はどんな選択をするのやら)

 そう考えているとバーの扉が開き待ち人である黒観が現れた。

(まぁ、今日はとりあえず能力の使い方から教えないといけないな。)

 そう思いながら話し始める。

「やぁやぁ、黒観くぅぅぅぅん!?」

 黒観は識崎を発見するやいなや全速力で走りながら右ストレートを識崎にかますが間一髪でそれを避けた。

 ビュと風を切る音から黒観の全力加減が伺える。

「びびびっくりするじゃないか!黒観くん」

「うるせぇ、兎に角一発殴らせろ話はそれからだ。」

「きっ君は一体何に怒っているだい?」

「テメェがこの前食べた料理の代金...」

「ん?だから払っただろう千円」

「四千円じゃボケぇぇ!」

「なっ何あのシェフの気まぐれ(略)と眠気どころか(略)が四千円もしたのか。」

「うるせぇぇイライラしてんのに呪文唱えんじゃねぇぁぁぁ!」

「いやぁぁぁぁ!」


 数分後...


「おひしゅいひゃはい?ふろひひゅん《落ち着いたかい?黒観くん》」

 両ほほを抑えながら識崎は尋ねる。

「あぁ、少しはな。」

「ひょひぇふぁふぉふぁふぁ、ふぃはふぃふひゅひょうほぉふぁふふ?《それはよかった、しかし普通両方殴るかい?》」

「避けられた怒り分も入っている。」

「ふぉふぉーだふぁー《横暴だなぁー》」

「誰のせいだと.....っておいもう治りかけてるじゃねーか。」

 そうして識崎の顔を見るともうほとんど顔のハレが引いていた。

「まぁね、これもオーヴァードの能力だよ治癒能力が高い。」

「オーヴァードとして攻撃を受けたら危なかったけど普通の打撲ならほらこの通り。」

 そう言う頃にはもう完治していた。

「何でもありだなオーヴァードってのは」

「でも、メリットだけじゃなくデメリットもちゃんとあるよ。」

「デメリット?」

「今回はそれも教えたくて呼んだんだ...ついてきて。」

 そう言うと識崎は黒観を連れて外に出る。

 すると、人通りの多い街中で足を止めた。

「僕らオーヴァードには多数の能力の他にみんな持っている固有の能力がある。」

「今回はその訓練だ。」

 そう言って識崎は黒観から離れると人混みに紛れて姿を消した。

「おい、何をやって.....!?」

 すると識崎の周りの人が彼を避けるように歩き始め彼の周りにだけ誰もいない空間が出来上がっていた。

「これが、『ワーディング』と呼ばれる能力だよ。」

「効果は単純オーヴァード以外の生物を自分の設定した範囲内で無力化できる...つまり意図的に戦える空間を作り出せるんだ。」

「すげぇ...これがあれば」

「あぁ、民間人を巻き込まなくて済むようになる。」

「試しにやってみよう黒観くん意識を集中してみて」

 黒観は言われた通りに目をつむり集中する。すると体の中に自分だが自分じゃない何かの力を感じた。

 それを読み取ったのか識崎が話続ける。

「その力を周囲に広げるように放出するんだゆっくりと周りに広げるイメージで」

 識崎のアドバイス通りにやっている。

 自分の力を広く伸ばしていく広く....広く

 すると突如、体に違和感を感じた。

 まるで何かに細胞が飲み込まれる様な感触に俺は目を開けて周りを確認したすると自分の周りだけでなく街中の方にまで能力が広がっていたらしく人が誰もいなくなっていた。

 しかし、能力が消えるとまたいつもの人だかりに戻っていた。

 識崎はこっちに来ながら伝える。

「随分と遠くにまで広げたもんだねけど途中で驚いて目を開けたね?」

「どうだった細胞がウイルスに侵食された気分は?」

「侵食?」

「能力を使う事に私達の細胞にあるレネゲイドウイルスが肉体を侵食するそして侵食が限界を超えると理性を失い暴れるだけの怪物『ジャーム』になってしまうんだ。」

「じゃあ、この訓練でも....」

「安心していいワーディング程度なら何度やってもジャーム化なんてしないよ。」

 識崎の言葉に俺はホッとしつつも話を続けた。

「じゃあ、あの感覚が侵食。」

「そうだ君も能力を使いこなし始めたら否が応でも感じ続けることになる。」

「慣れろとは言わないが覚悟はしておいてくれ。」

 そう言いながら識崎はケータイで時間を確認する時刻は14:00になろうとしていた。

「おっと、もうこんな時間か急がないといけないな黒観くん行こう。」

「行くって何処に?」

「決まっているだろう。」


「今回の連続放火事件の犯人のいる所だよ」




 続く




【おまけ】


【bar.CatTail】にて黒観を待っている頃、

(さて、待っているだけでは退屈だし飲み物でも頼むか。)

 識崎はそう思いメニューのドリンクゾーンを見る。

 共通の友人からこの店を紹介して貰ったのは良いものの識崎自体もここには数度しか来たことないのでまだメニューを全て把握していないのであった。

(何々、『ドラゴンフルーツをのせた慈しみのあるカフェオレ』『遣唐使も愛用してほしい烏龍茶』『最近腰痛が酷くなって辛いんですアイスコーヒー』...最後に至ってはメニューの名前ではなく患者の説明みたいだな。)

 他にも色々と長ったらしい名前のドリンクばかりで見るのに疲れてしまい止めかけた瞬間ある名前が目に飛び込んできた。

(ん?『E』これだけしか書かれていない何の飲み物だかサッパリだ。)

 疑問に思いながらメニューを調べてみるとどうやらメニューの下に説明が書いてあるようなので読んでみた。

(『Eとはいつものアレです』..........アレとは一体?)

 識崎の脳に疑問の言葉が浮かび同時に歓喜した。

(私の知識で分からない飲み物.....興味深い)

 識崎は店員にEを頼んだ。

 識崎は興奮していたどんな飲み物が来るのだろう。

 想像できない楽しさに身を振るわせながら待っている。

 暫くすると店員が飲み物を持ってきた。

「お待たせいたしましたぁー」

(来る!私の知らない飲み物Eがっ!さてさてどんなものが来る?良いぞ、かかってこい正面から堂々と迎え撃って....)


「Eの『エスプレッソ』です。」

「..........エスプレッソ?」

「はい、だってお客様が見ていらしたの日替わりランチの飲み物のメニューじゃないですか?」

 そう言われて見返してみると確かに上の方に書いてあった『日替わりランチのドリンク表』と.....

「じっじゃあ、いつものアレとは?」

「エスプレッソっていつもの感があるではないかってこの店のオーナーが仰ってたので」


 その後、識崎は死んだような目付きでエスプレッソをすすり黒瀬を待つのであった。

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