第4話「A」悪夢と覚悟

 捜査中止の命令を受けた次の日、

 黒観は識崎に貰った名刺に書かれていたカフェに向かっていた。

(確か、ここであっているはず...)

 辺りを見渡すと看板が立っていた。

『Bar.CatTail』一見するとバーなのだがどうやらお昼はカフェとして営業しているらしく

 外に出ている看板のメニューにはコーヒーやらパンケーキやらが書かれていた。

 中に入ると目の前にバーカウンターと後ろのスペースにはビリヤード台やダーツなどが置かれている。

(おもっくそバーじゃねーかカフェなのか本当に)

 そう考えていると見覚えのある顔に出くわした。

「来たようだね黒観くんこちらだよかけたまえ」

 そう言うとビリヤード台の周りに並べられた椅子を指差す。

 俺はその指示に従い座ると識崎は話を続けた。

「すまないが私は昼御飯を食べてなくてね注文をさせて貰うよ君も何か頼むといい。」

 識崎はそう言いながらビリヤード台に置かれたメニューを取り吟味し始めた。

(成る程、ここが机代わりなのか。)

「....よし!決まった。」

 その声が聞こえたのかメイド服を着た女性がこちらに歩いていた。

「ご注文お決まりになりましたか?」

「あぁ、私はこの『シェフの気まぐれシチリア産レモンを使用した贅沢魚介カレーライス』を大盛で飲み物は『これを飲んだら眠気どころか意識もぶっ飛ぶカフェインたっぷりコーラフロート』で頼むよ。」

(今、何を言ったこいつ!)

 意味不明な呪文の羅列のようなメニューの注文に驚きメニューを確認してみると確かに一言一句間違いなくそう書いてあった。

(何だよこのカレーライス、シェフの気まぐれって書いてあるけど気まぐれ成分が欠片も入ってねー、それにコーラフロートになんて物騒な枕詞がついてるんだよ意識吹っ飛ばしてたら寝てるのと変わらねーじゃねーか!)

 俺はツッこみたい衝動と戦いながらメニューを見ていると「お連れのお客様は?」と聞かれ、俺は動揺した。

(どっどうする?メニューの中身に不安用要素しかねぇ、何を頼んでも予想外の物になりそうだし何を頼めば....)

 そう思案しながらメニューを見ていると『ランチセット』と言う安心できるメニューを発見した。

「俺はランチセット飲み物はコーヒーで」

 二人の注文を聞き終わるとお辞儀をしてカウンターに戻っていった。


「随分と焦っていたようだが何かあったのかね?黒観くん」

「お前なぁ...まぁいいここに来たのはこんな話をしたい為じゃない。」

「お前の言うとおり警察での捜査は中止になった。」

「ほぅ、君の服装から見て今日は非番だろうから中止を言い渡されたのは三日前か....『UGN』も優秀になったな。」

「UGN?」

「オーヴァードを保護し管理している組織だよ表面上は人類との共存を目的としている」

「そんな組織聞いたことないぞ。」

「当然だ絡んでいるのは政府の中核や公安の様な秘密裏な者たちだけだからな。」

「オーヴァードによる事件性が、あると判断されると捜査はUGNが行うこととなりなるべく秘密裏に対処される訳だよ。」

「そのUGNってのはそこまでの権力があるのか?」

「まぁオーヴァードだけでなく『ジャーム』も相手にするからね権力と武力両方兼ね備えてるよ。」

「ジャームって何だ?」

「それはまた追々...聞きたいのは今回の事件に関連することだろう?」

「あぁ、教えてくれるんだよな?」


「勿論、今回の事件の犯人はオーヴァードと呼ばれる超常能力を有した人間だよ。」

「本当にそいつらは人間なのか?」

「あぁ、とあるウイルスに感染し何かしらの、アクションが起こることにより覚醒する。」

「アクション?」

「あぁ、肉体的精神的ストレスが主だね。」「例えば死にかけるとか心が壊れかけるほどのショックを受けるとか」

「それ大丈夫なのか?」

「あぁ、オーヴァードとして覚醒すると肉体のダメージは完全治癒されるし精神的なものにもある程度補正がつくからね。」

「そして、覚醒すると色々な能力が使用できるようになる。」

「あの火災みたいな事もか?」

「あんなのは可愛いものさ熟練の使い手ならマンション事、消し炭に出来るからね。」

「...じゃあ、人間を真っ二つにしたり細切れにしたりも?」

「簡単に出来るだろうね。」

 その言葉に驚愕しつつも俺はあの悪夢の相手がオーヴァードであると確証がもてた。

「成る程な、それじゃ一つ質問だ識崎。」

「お前は何でこれだけの情報を知ってるんだ?」

 識崎は笑いながら答えた。

「フフっ簡単だよ私がそのオーヴァードだからね。」

 その言葉を聞くと俺は一気に腰に隠したホルスターから拳銃を抜いて識崎の額に向けた。

「.....いつ抜くのかと楽しみにしていたが今だったわけか。」

「テメェがオーヴァードならアイツらと同じってことだ俺ら人類にとって危険な事には変わりがねぇ」

「冷静になりたまえよ。ここで私を殺したところで事態は進展しないよ。」

 銃を向けられているのに識崎は落ち着いた様子で語りかけてくる。

(随分と余裕だな....当然か。)

 相手は何でも出来る能力者、拳銃程度じゃ歯が立たないそう分かっているからコイツは落ち着いているんだ。

 自分の中で理由付けが、終わると俺は拳銃を、ホルスターにしまい席に着いた。

「懸命な判断だ黒観くん。」

「うるせぇ」

「馬鹿にはしていないよ私は君の知性に敬意を評しただけだ。」


「話を戻そう私はオーヴァードだが、彼等のような野蛮な行為に行うつもりはない。」

「寧ろ、そんな奴らはとっとと消えてほしいとも思っているのだよ。」

「そうなのか?オーヴァードにとって人類なんて吹けば飛ぶような虫けら位にしか思ってないと思ったんだが」

「そう言う奴らもいるがそれと私を一緒にしないでいただきたい。」

「確かに私はオーヴァードではあるが人類としての誇りもある身勝手に力を振るうなど獣の所業だよ。」

 そう言う識崎の目に確かな感情を感じた俺は彼の言葉を信じることにした。

「分かった、あんたを信用する。」

「ありがとう感謝するよ。」

 そう言い終わるとさっきの店員が料理をもってこちらに近づいてきた。

「どうやら料理が来たようだ続きは食べ終わってからにしよう。」

「あぁ、そうだな。」

 俺は識崎が俺の知るオーヴァードではない事に安堵し運ばれた自分の料理に目を向けた。

「...............................」

「どうしたのかね?黒観くん」

「店員さんこれランチセットですよね?」

「はい、当店の日替わりランチの一つである『アナコンダの蒲焼きとお味噌汁』です。あっ、ご飯はおかわり自由なので欲しかったら言って下さいね。」

(そこじゃねぇ...言いたいとこはそこじゃねぇ。)

 俺はその料理に驚愕した...丸々一匹の大きなヘビがそのまま甘辛い匂いのするタレにつけられて運ばれてきたのだ。

(何なんだよこの店?外面はbarなのに名前もゲテモノ料理もゲテモノとか....ここのシェフをつれてこいマジで)

 その見た目に気圧されて内心愚痴っていると識崎は何食わぬ顔でカレーライスを食べ始めた。

「どうした?黒観くん早く食べないと料理が覚めてしまうぞ。」

「.....あぁ、食べるよ。」


 俺は思考を放棄して箸を進めた。

 今日の出来事で一番納得できなかったのはオーヴァードのことでも識崎のことでもなくアナコンダの蒲焼きが美味しくてご飯を三杯もおかわりした自分自身にだった。



 ご飯を食べ終わり一息着くと識崎が話し始めた。

「さて、オーヴァードの事について多少は理解してくれた所でここからが本題だ。」

「黒観くんはこの事件を捜査し解決したいと思っているのかね?」

「当たり前だこれ以上市民を危険な目に遇わせてたまるか。」

「そうか、なら私達の目的は一緒のようだ。」

「黒観ハヤタくん私の相棒にならないかい?」

「.....は?」

 俺は驚き声を上げた。

「言葉のままだよ君に私の相棒になってほしい。」

「ちょっと待て何で俺が....」 「君の力が必要だからだ。」

「だから、何で俺が....」

「君も薄々は気付いていたんだろう?」

「.............」

「あの火災で爆風を浴びたにも関わらず君は無傷だった。」

「.....めろ」

「体力の回復も早く半日立たず..」

「止めろ!」

 俺は感情的になりビリヤード台に手を叩いた

「俺は...お前らとは違う。」

「そう思いたいだけだろう?」

「違う!もしも俺にお前らみたいな力があったら...」

「あの事件を防げたか?」

「!?」

「あぁ、知っているよ君の巻き込まれた連続殺人事件について」

「UGNのエージェントから相談を受けてねその時に資料を読ませて貰った。」

「『蛮花通り』で起こった斬殺事件、被害者は合計で300人を越え全員が殺された....君一人を除いては」

 あの時の光景が、フラッシュバックする。

 逃げ惑う人をどんどん切り殺しながらこちらに向かってくる異形な形をした人間。

「恐らくその時に君はオーヴァードとして覚醒したんだろうその力が君を守った。」

「でも、誰も守れなかった...誰一人。」

「僕の相棒になってくれるなら君に力の使い方を教えよう。」

「.....俺は」

「すぐに答えを出す必要はない....二日後同じ時間にここに来るといいその時に答えを聞かせて貰おう。」

 そう言うと識崎は財布からお金を取りビリヤード台に置くと立ち去っていった。


(俺が....怪物オーヴァード)

 驚くべき真実の筈なのに自然とのみ込めていいた。

 きっと内心気付いていたんだでも気付いてないフリをしていた。

 認めるのが怖かったから認めたらアイツらと同じになってしまうから

 アイツらと同じ怪物に......

(.....同じ?)

 俺のなかに疑問が浮かんだ。

(識崎は言っていた自分もオーヴァードだと)

 しかし、怪物じゃなく力に溺れてもいなかった...ちゃんと人としての誇りをもっていた。

(力の使い方....か。)

(あの時の俺にはこの力を使いこなすことは出来なかった...でも今ならきっと)

 力を使いこなして今度こそ悪人から市民を守る。

 俺は識崎の相棒になる決心した。


(俺はアイツらと同じ怪物じゃない......

 オーヴァードだ。)


 黒観ハヤタは今度こそ自分の信念を貫くためオーヴァードとして生きる覚悟を決めた。




  続く




【おまけ】


 決意を固めた黒観の元に店員が伝票を持ちながら歩いてきた。

「お会計お二人様で5800円になります。」

「!?結構するんですね。」

「ええ、カレーライス(略)とコーラフロート(略)で4000円するんですよね(笑)」

 俺は識崎が置いていったお札を確認した。

 そこには千円札が一枚だけ置かれていた。

「.........アノヤロウ。」


 黒観ハヤタ、オーヴァードとして生きる覚悟を決めたと共に次に識崎にあったら一発ぶん殴る事も固く心に誓った。


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