第3話「A」奇跡と真実

「全くもって奇跡だね。」

 俺の診断書を見ながら医者がそう言った。

「背中で爆発を受けたのに服だけ焼けて後は無傷なんて....奇跡だよ。」

 俺自身も驚いたのだが今回の爆発で背中に熱は感じたのに肉体には何の外傷も無かったのだ。

「いやぁ、奇跡ってあるものなんですねぇ」

「君ねぇ楽観して喋ってるけど本当はとても危険な行動なんだからね。」

 そう医者に諌められ診断が終わり病院を出る《退院》してスマホを確認すると上司から山のような着信が入っていた。

 嫌な予感がしながらも俺は上司に電話をかけた。

「黒観ぃぃぃい!お前何勝手な行動をしてるんだ?」

「すいません。」

「一歩間違えたら死ぬようなことしやがって覚悟しろよ大量の始末書がお前を待ってるからなぁ。」

 めちゃくちゃ怒っているのだろう。

 上司の声はデカいし早口になっていた。

「.........それで怪我はなかったのか?」

「はい、五体満足全部無事です。」

「そうか、なら良い早く署に戻れ。」

 そう言うと上司は電話を切った。


「成る程成る程、君はそう言うタイプなのですね。」

 言われた方に顔を向けると俺に指示を出した識崎が立っていた。

「テメェ今、俺の前に出てくるとは良い度胸だな任意同行で署まで引っ張ってやるよ。」

「君は任意と言う言葉の意味をもう一度勉強した方がいい。」

「うるせぇ、そもそも何でこの事件の事をこんなに詳しく知ってるんだ?」

「テメェが犯人じゃなければ説明がつかないだろうが」

「本当に学習能力がないね黒観くんは私はテメェじゃなく識崎と言う名前があるんだが」

「関係ないって...」

「あぁ、ここに来たのは一つ君にあることを教えて上げるためだ。」

 識崎がそう言うと俺を見ながら真剣な顔で話し始めた。

「今すぐこの事件から手を引いた方がいい。」

「この犯人は君ら警察が相手をするには荷が重すぎる。」

「なっ!何を言ってやがるんだ。」

「言葉の通りさ警察ではオーヴァードを捕まえられない寧ろ死者が出てしまうよ。」

「んなことやってみなくちゃ...」

「本気でそう思っているのかい?」

 俺は反論できなくなってしまった。

 オーヴァードって呼ばれる者がああいう奴らを指すのなら確かに警察の力では対処できない。


 ....けれど

「それでも、俺は助けたい悪人から市民を助けたいんだ。」

(もうあんな事は起こさない俺は市民を守る為に警官になったのだから)



 俺の表情を見た識崎が暫く黙っていると観念したかのようにため息をついた。

「ハァー、君ならそう言うと思ったよ。」

 すると、識崎は名刺を取り出し俺に渡した。

「もし、警察でも捜査出来なくなり自分一人ではどうしようもなくなったらここを訪ねてくるといい君には知る権利がある。」

「知る権利って何をだよ?」



「真実だよ、この世界が隠し続けている。」

「おい、分かりやすく答え...」

「それじゃあ、失礼するよ黒観ハヤタくん」

 そう言うと彼は去っていった。

 俺は追おうとしなかったと言うより出来なかった。

 まるで何かの力阻まれているように識崎は俺の視界から消えた。


 三日後、識崎の予言通りこの事件も前と同じように捜査中止が言い渡された。

 俺の上司も上層部に掛け合ってくれたのだが無駄だった。

 また、同じように事件の真相が闇に消えてしまう。

 俺はポケットから名刺を取り出した。

 識崎が俺にくれた名刺は自分のではなくこの付近にあるカフェの住所が書かれていた。

「世界が隠し続ける真実....か。」

 俺はこの場所に行くことを決めた。

 この決断が俺の今後の人生を左右するものになろうとは夢にも思わずに....



 とある路地裏でフードを被った少年が、

 顔を伏せながら歩いている。

 すると、少年の持つスマホに着信が来た。

 おもむろに電話に出る。

「....はい。」

「やぁ、気分はどうだい?」

 穏やかな口調で声の主が尋ねる。

「最高ですよ、僕にこんな力があっただなんて」

「これも全て貴方のおかげですメンターさん。」

 高揚しながら少年は話す。

「違うよそれは全て君の才能だよ私はそれを引き出しただけに過ぎない。」

「それで、もう終わりにするかい?」

 メンターの問いかけに少年は答える。

「まさか....復讐はこれからですよ。」

 そう言うと電話を切った。

(そう、まだ始まったばかり....今度こそ絶対に殺してやる。)

 静かな殺意を胸に秘めた少年は路地裏へと消えていった。



 続く

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