第55話誰のお声? 誰が通ったの?

「俺は聞こえない。ダレル聞こえる?」


「ううん、僕も聞こえない」


「シューお兄さん、声が聞こえないけど、誰の声か分かったの?」


 ラッセルにぃにがシューお兄さんに聞きます。


『ああ、おそらく奴だろう。何故ここにいつかは知らないけどな。ちょうどこのまま進めば会う事が出来る。エリアス、何と言っているか分かったら、すぐに俺に知らせろ』


「まじゅうさん?」


『魔獣じゃない』


 魔獣じゃないの? シューお兄さんは誰か教えてくれないまま、また進み始めました。


 どんどん森の中を進んで、声が時々聞こえてきます。でも何て言ってるか全然わかりません。シューお兄さんは分ったら教えろって言ったけど、何回聞こえても、『だ』とか、『ちゃ』とか、ちょっとしか聞こえないの。


 にぃに達がまだ聞こえない?って、時々僕に聞いて来て、ウルちゃん達も僕に聞いてくるんだけど、僕聞こえなくて、ちょっとイライラして来ちゃいました。みんな聞こえたら良いのに、何で僕にしか聞こえないの。


 ちょっとブスッとしちゃいます。その時でした。


『急がなくちゃ!!』


 !! 


『こっちに飛んで行ったはずだよね!』


 聞こえた!! いきなりはっきり声が聞こえました。急いで僕は聞いた事をシューおじさんに伝えます。お話してる間も声は聞こえて来て、『ずいぶん遠くに飛ばされちゃったのかな?』『一緒に居るから、すぐに会えると思ったんだけど』とか、どんどん聞こえてきました。


 僕それ全部、ちゃんとシューお兄さんに伝えたよ。それでまだまだ声は聞こえてたんだけど、途中でシューおじさんがもう良いって言いました。


『やはり確実にあいつだな。この調子で進めば、おそらくすぐに会えるだろう』


「ねぇ、シューお兄さん。誰に会えるか教えて」


 ラッセルにぃにが言います。


『そうだな。お前達人間は、めったに会えない奴だな。だが悪いやつじゃない。せっかくだから会えるまで楽しみにしていろ』


 またシューお兄さん教えてくれませんでした。誰に会えるか分からなくて、ウルちゃん達と誰に会えるのかお話します。ウルちゃん達は魔獣じゃないなら、妖精さんかもって。

 妖精さんは色々な場所に住んでるんだけど、あんまり人のいる所に出て来てくれなくて、みんなあんまり会えません。


 僕のお家にある絵本には、妖精さん達のことが書いてある本があって。その本の中には妖精さんの絵がいっぱい描いてある本もあるの。今まで人が会った事のある妖精さんの絵が描いてあるんだ。僕が好きな妖精さんの絵は光りの妖精さん。光りの魔法が上手な妖精さんです。ぷにちゃんは火の魔法が上手な赤色妖精さんが好きで、ウルちゃんは緑色の風の魔法が上手な妖精さんが好きです。


 妖精さんに会えたら嬉しいなぁ。初めての妖精さん。でもね、僕達が妖精さんのお話してたらシューお兄さんが、妖精さんじゃないって言って来ました。

 なんだぁ、妖精さんじゃないのか。じゃあ誰なのかなぁ? 僕達ちょっとだけがっかりです。せっかく妖精さんに会えると思ったのに。


 それからも色々お話してた僕達。にぃに達も一緒にお話してたら、シューお兄さんが僕達を呼びました。


『…この感じ、そろそろか。おい、お前達。そろそろ奴に会えるぞ。良く前を見ていろ。もしかしたら見逃すかもしれないからな。奴は奴で、少し騒がしくて、ちょこまかと煩い所があるからな。俺達の横を通り過ぎる可能性がある』


 僕達はシューお兄さんに言われた通り、じっと前を見つめます。シューお兄さんはちゃんと会えないといけないからって止まって待つって。


 まだかな、まだかな。シューお兄さんが止まったのに、前からなかなか誰も来ません。ウルちゃん達はずっとまだ?って、シューお兄さんに聞いてます。おじさんは静かにしてないと分からなくなるぞって。


 ウルちゃん達が騒いでる時でした。風が吹いて周りのお花や草、木の葉っぱが揺れました。


『ちっ、奴め、やっぱり俺達を見逃したか。おい、少し戻るぞ。すぐに奴に追いつく』


 シューお兄さんが来た方に戻り始めました。にぃにがどうしたの?って聞いたら、僕達が会おうとしてた誰かが、僕達の横を通り過ぎて行っちゃったんだって。僕達みんなビックリです。


 だって誰も僕達の横通らなかったよ。僕会えないと嫌だから、シューお兄さんが言った通り、ずっとじっと前見てたのに。お兄ちゃん達もいつ通ったのって聞いてます。そしたらさっき風が吹いて、お花とか揺れたでしょう? その時に僕達の横を通ったんだって。


 僕達を乗せて、急いで戻って行くシューお兄さん。ー少しして、


『見つけた!! おい、止まれ!!』


 シューお兄さんが叫んで飛び跳ねました。それですぐに地面に下りて止まります。


『みゃったく、おみゃいは』


 シューお兄さんどうしたの? 変なしゃべり方。


『わわ!? 何で僕の後ろから来るの? 僕、そっちに向って進んでたのに』


 この声。さっきまで僕が聞いてた声が、シューお兄さんのお顔の方から聞こえてきました。


『おみゃえが、いちゅみょみちゃいに、通り主義たんだ!』


『え? 本当? いつ通り過ぎたのかな?』


 シューおじさん誰とお話してるの? 誰も僕達の前に居ないよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る