第41話現れたのは(ヴィック視点)

「な、何だ!!」


 ポアロ殿とウルバー殿が構える。私も剣を構えようとしたが、窓から入って来た人物を見て、慌ててお二人をとめた。窓から入って来たのはヱン様だったからだ。


「お2人ともお待ちを。彼は敵ではありません! ヱン様、窓を割らないで下さいと前にもいったではないですか」


「それよりもヴィック、ここはもう大丈夫だ。我がこの辺り一帯のオークとトロールを消して来たからな。もう心配はいらん」


「は?」


 と、今度は割れた窓から、カルソーイとククル、そして仲間たちが部屋の中を覗いてくる。


「兄貴、何でここに伝説のドラゴンが!?」


「突然私達の所に」


 あぁもう、何処から話をしたらいい。一応情報を発信していたから、そこまで問題に思っていなかったが。

 そうかこいつらは別の土地で仕事をしていたのだ。街から街へ、村から村へ情報が回っているうちに、たまたま移動でもしていて、この前の国王の発せられた情報に気づかなかったのだろう。

ポアロ殿とウルバー殿も旅をしていたせいで、お気づきにならなかったようだ。


 私はカルソーイにライオネルを呼びに行ってもらい、皆が話せる大きな広間に移動することにした。ヱン様は先程、もう大丈夫だとおっしゃった。ならば間違いはないだろう。ゆっくり話ができそうだ。


 ククルには他のドラゴン達に、街の修復を手伝ってもらえないか確認してもらい、すぐに街の壁の修復に向かってもらった。一部が大きく破損された街を守る壁。ヱン様のおかげで今は大丈夫だとしても、外壁だけは早急に直してしまわなければ。オーク達だけではなく。他の魔獣が攻めてくるかもしれない。魔獣だけではなく盗賊なども来る可能性がある。


 そんなことをしていれば、ライオネルが戻って来た。そしてヱン様を見て、ライオネルには珍しく、驚きの表情を見せる。


「カルソーイ、あの広間で話をする。そこならばドラゴンも入れるからな。ククルを案内してやってくれ」


「分かった」


 2人が窓から離れ下へと降りて行った。すぐに私達も移動する。と、私が案内する前にポアロ殿たちがドンドン前を歩いて。そうか、そうだような。ついこの前までここに居て街を守る会議をしていたのだから、私の案内など必要なかったな。


 この屋敷の中で1番広い広間に着くと、すでにカルソーイ達が中で待っていた。椅子などが倒れてしまっていて、すべてを片付けている時間はないため、軽くそれを整頓すると、各自が席に着く。ライオネルが飲み物を用意し、話を開始する。


 まず初めにヱン様にもう大丈夫だと言った理由を尋ねた。ポアロ殿方が心配されているため、その理由を先に聞いた方が良いと考えたからだ。


「何、ここに来るとき、街の近くに居る奴らを、まとめて消しただけのこと。お前達を連れて帰るのに、奴らが居ればお前達はここを離れられんと思ったからな。ここで時間をかけている暇はないのだ。今だって、すぐに移動したいのだからな」


 詳しく聞けば、この街の周辺のオークッ値はすべて倒し、本体の群れももう移動しているため、この街はオーク達による危険はないと。

 その話を聞いたポアロ殿方が、信じられんと、どうやって1人でオークの相手をしたのだと言ってきた。


「ああ、我は…」


 ヱン様がお話になれば、名前だけで終わってしまうだろうからな。私が説明すると伝え、ヱン様と私達家族との出会い、そして今の私達の状況などを、簡潔に伝えた。最初はその話を信じていなかったお2人も、にヱン様が人間の姿からドラゴンの姿に変身し、その力を全身で感じれば、すぐに立ち上がりヱン様にお辞儀をする。


「ふむ。分かったようじゃな。ではヴィック、ここも安全だと分かったのだから、すぐ城に移動するぞ。我はグロリアに頼まれて、街とお前達のことを頼まれたのだ」


 グロリアが? 何か嫌な予感がして、何故城に移動しなければならない? まさか…。


「オークとトロールの群れの本体が、城の目の前まで迫っている。城には森や林などから逃れてきた魔獣達が、待機している状態だ。我が倒すのを手伝えと言ったからな」


 皆の顔色が変わる。やはりそうか、あの群れの本体は城へ向かったか。


「我でもあの群れには手こずりそうでな。何か今までに感じた事のない力を感じるのだ。だから逃げてきたワイバーン達や、他の魔獣達に力を借りることにした。グロリアはお前のことを心配していたし、我としてもエリアスの家族が居なくなるのは、これからのエリアスとムウの成長を考えるとな」


 さぁ、急いで移動するぞと言うヱン様。だが街は…。


「だから大丈夫だと言ったろう。オーク共を消した時、ついでにこの街の近くに居た危険な魔獣や人間共は消しておいた。お前がここに居なくても、ここの騎士だけでどうとでもなる」


 しんっとする私達。カルソーイ達が頷いている。そうかカルソーイ達はその現場の見ているからな。そうか、この街はさっきまでの危険な状況から、今までにないほど安全になっているのか。


「ヱン様、質問よろしいか」


 沈黙を破ったのはウルバー殿だった。

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