第8話カッコいい、それに可愛い、でもやっぱり魔獣です

 縄張りに入ってすぐ、少し開けた場所にでました。オニキスがひと声鳴くと、木の間から続々とファングが集まって来ます。全部で30匹くらい。広場はファングでぎゅうぎゅう。何処にこんな隠れてたの。


「こんなに、いりゅの?」


「いや、2つの群れだ。たまたま今日ここにいたのが、この群れだっただけで、もっとたくさんいるぞ。」


 家族で群れを作るんだって。多い群れだと1つの群れで、40匹くらい居る群れもあるんだって。すごい大家族だね。

 オニキスが僕を紹介してくれて、ファング達がゾロゾロ僕にすり寄って来ました。うーん。オニキスには敵わないけど、ふわふわな毛並み。気持ちいい。

 オニキスがうーとか、ワウとか、何か言ってます。何で普通にお話しないんだろう。不思議に思って聞いてみたら、普通の魔獣は言葉は喋らないんだって。魔力の量が多かったり、レベルが高い魔獣に進化すれば、お話出来るようになるけど、だいたいの魔獣が話せないって。

 僕、今まで普通にお話してたから、それが普通だと思ってたよ。皆んな喋れるんだって、それで納得しちゃってた。だってここは、僕の知らない不思議な世界だから。


 オニキスがワフワフって言ったら、皆んなサッて整列しました。何て言ったか聞いたら、あんまり僕に馴れ馴れしくするなって。それをしていいのは、家族であるオニキスだけだって言ったらしいです。あの短い泣き声でそんなに言えたの?!…まあいいや。それがきっと普通なんだね。 


 整列したファングを見ながら、オニキスが説明してくれました。真ん中に並んでる2匹が、それぞれの群れのリーダーなんだって。他のファングと比べてみたら、確かに体も大きいし、艶々の黒い毛並みです。カッコいい。


「ハルト、お目めきらきら。」


「カッコいいもんね。」


「何だと?!ハルト、俺の方がカッコいいだろう!」


 もちろんオニキスはカッコいいけど、他にもカッコいいファングがいてもいいでしょう。なのに、オニキス僕の前に来て、見えないようにするんだもん。ケチ!

 僕がブスってしてたら、後ろの方から、小さな小さな、子ファングが1匹歩いてきたよ。か、可愛い。もうねファングじゃなくて、ただの可愛い子犬。触りたい。

 僕の前に来てお座りして子ファングは、


「はじめまちて。」


「ふぁ!しゃべりぇりゅの?」


「ああ、こいつは魔力が多いからな。将来の俺だぞ。」


 そうなんだ。こんなに可愛いのに、いつかオニキスみたいに…。僕がじっとオニキス見てたら、オニキスが何か知らないけど、カッコつけてしゃんと立ちました。…何カッコつけてるの。カッコいいオニキスみたいなロードファングもいいけど、このまま可愛いロードファングとかいてもいいんじゃない?


「あのね、おじちゃ。はりゅと、あしょんでいいでしゅか?」


 オニキスが黙ります。僕も遊びたい!少しだけお願い。僕もオニキスに向かってお願いです。目で訴えます。


「…分かった、少しだけだぞ。その後は、俺の番だからな。」


 後半の言葉はとりあえず置いといて、僕は初めにそっと子ファングの体をなでなでしました。ふおおおおお。何てもこもこ、ふわふわなの!子ファングにぎゅうってしてもいいか聞いて、いいよって言ってもらったから、早速ぎゅううう。ああ、幸せ。


 僕のお願い聞いてもらったから、今度は子ファングのお願い聞いて、子ファングの好きな遊びをします。木の枝投げて、持ってこい。うん。やっぱりいぬだよ。

 何回もやってあげて、僕の腕が疲れて終了です。動いたら、暑くなっちゃった。


「ふう、あちゅいね。」


「ぼく、まほ、ちゅかえりゅ。」


 まほ?魔法のことだって。子ファングは、風の魔法が得意らしいです。風の魔法で、涼しくしてくれるって。ありがとう。


「かじぇの、まほ。うーん。」


 子ファングがぎゅうううって目を瞑って唸ります。僕みたいに、力を貯めることから始めます。たくさん練習して慣れれば、すぐ魔法使えるんだけど、僕達みたいなお子様はまだまだです。

 子ファングがうーんって唸って、少しした時でした。突然子ファングから、物凄い風が吹きました。あまりの強さに僕は。


「ふわあああああっ!!」


 ゴロゴロ転がっちゃったよ。誰か助けて!


「ハルト!!」


「わああああ!!」


「助けてええええ!!」


 オニキスが僕の事咥えて助けてくれました。僕オニキスだったらひと口サイズなのね…。よかった家族で。はっ、さっきフウとライの声も聞こえたよね。2人とも飛ばされちゃった?!

 慌てて2人の名前を呼びます。周り見てみたら、リーダーのファングとかは同じ所で踏ん張ってたみたいだけど、やっぱりまだ小さい子ファングとか、普通のファングは、何匹か飛ばされちゃってます。皆んな大丈夫?うちの2人知りませんか?


「フウ、ライ!どこにいりゅの?」


「ハルト、ここだよ!」


「こっちこっち!」


 木の陰から、2人が飛んで来ました。大丈夫、怪我してない?2人とも羽も体も、どこも怪我してませんでした。ふう、ひと安心。

 風の魔法使った子ファングが、しょんぼりして、僕達に謝ってきました。気にしないで。だってせっかく、涼しくしてくれようとしたんだから。僕はうまく喋れないから、そんな感じのことを、オニキスに言ってもらいました。それから大丈夫だよのなでなで。


 そろそろ暗くなってきたから、お家に帰ります。子ファングとまた今度遊ぼうねって約束して、お家へ。

 いや、でも、なめてました。ごめんなさい。もうね、子犬みたいな感覚で遊んでたから、れっきとした魔獣なんだよね。しかもお話出来るくらい魔力が多い、未来のオニキス。今度遊ぶ時は気を付けなくちゃ。

 家に帰って、ご飯の木の実食べて、1日中遊んだ僕はこっくりこっくり。オニキスに寄っかかりながら、おやすみなさい。

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