懸念

 ”無手”に続き、”仙術”で優勝した俺の祝勝会の前に、汗を流そうと温泉に入ることになった。




「最後は呆気なくて、ちょっと問題になったが。この調子なら”武器”でも、優勝間違いなしだな」


「過去に”無手”、”仙術”の2冠を達成した方が”武器”でことは無いんですよ、タイチ師父シーフー


「ま、”無手肉体”と”仙術技量”で優勝なら、”無差別武器”でも優勝するのは当たり前ネ」


 ”武器”は基本的に武器防具、道具を使っても良い大会屈指の派手で盛り上がる武門。

 多少の”無手強さ”や”仙術技量”をソレらでくつがえせるといっても、限界が有るのだ。

 だから二冠を達成した俺が”武器”での最有力候補、優勝するものだと全員が思っている。






「”武器”は人気が有るからな。今までと違って予選と本選が1日で終わりきらん。は別日に………………


 そう言いながら温泉への入り口を開けたヤーが、腰に巻こうとしていたタオルが落ちたのに呆然と立ち尽くしていた。




 何事かと、ヤーの背中越しから見える湯けむりの向こうに目を向ける。




 そこに在ったのは、大小二つの肉の、




「おうおう! 流石は優勝者だ! 服を脱いでも強いと分かる筋肉! 素晴らしい!」


 一際に大きい筋肉、極東の島国”洋露波ヤンルーブォ”の国王、”獅子王”アレクセイ・レオニダス。




「騒ぐな、アレク殿。ただでさえ暑苦しいオヌシが騒げば、さらに暑くなる。騒ぐのはワシの話が終わってからにしろい」


 小さいが密度の高い筋肉、技術と工業と資源の国、常夏の南国”タルワール”の国王、”破壊王”グリム・ドヴェルグ。






 二か国の最高指導者トップが全裸で俺達を、俺を待ち構えていた!!?






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「タイチ殿は”銃”を武器にしていると聞き及んだろがい。この間の謝罪として、ソレを改良しようと考えてるが、どうだろうか?」


「改良と言っても、どれくらいの強化に? 期間は? 明日には使うのですが」


「タイチ殿は”銃”などという玩具おもちゃを使われるんですか? 吾輩わがはいは、てっきり玄武シェァンウー様が作った”虎杖丸クトネシリカ”という剣を使うと思っていましたぞ」


 俺とグリムの会話にテスラが割って入って来た。

 ロマンの分からぬ無粋な発言に俺とグリムの顔が渋る。



「”技術”や”技巧”の素晴らしさが分からぬ者は黙るだろがい! 確かに”銃”は複雑な構造のせいで仙力シィェンリーを流すだけで無理が出る。だがな、若造。不便や不合理と常に戦うのが”技術”! 技術大国であるワシの国が、ワシが何もしていないと思うな! だろがい!!」


 無駄に筋肉を隆起させ、ポージングを取ったグリムが豪語する!



「迂闊に【仙術シィェンシュ】を流せば壊れる”銃”を使う者は少ない。”極真武ジーヂェンウー”、この大会においては皆無に等しい! せっかくワシが開発した【仙術】を流しても耐えられる”技術”も日の目を見ることが無い! 悲しいだろがい!!!」


われの”武器”の戦法は”銃”を使う、利用する利点が薄いもの。だから、王が使えと言われても採用が出来ないのだ」


 ”タルワール”代表のポンチャイが、自身がグリムの発明を使わない理由を補足した。




「安心しろい! 明日の”武器”の開幕までに間に合わせる。”銃”の種類は何だろがい!? 機構の複雑さによって改良出来る範囲が決まる。機関銃マシンガン突撃銃アサルトライフルか、自動拳銃ピストルか___


「小口径の回転式拳銃リボルバー。取り回し、耐久性を考えて」


 ___おお! 良い選択だろがい! 最も頑丈で改良出来る範囲が多いぞ! 違いの分かる男で嬉しいだろがい!!!」


 具体的な改良点や”銃”についての想いを話し合って、グリムと意気投合していた。

 ロマンが、違いが分かる男同士の会話が盛り上がる。






吾輩わがはいは”銃”に、あまりロマンを感じませんな」


われもだ。実用性に欠けるようにしか思わん」


「タイチ師父シーフーの”銃”には手を焼いたことが有ります。要は、使いようですよ。……私は使いませんが」


 ”武器”に参加するテスラやポンチャイ、フェイ・ランが”銃”に興味を全く示していなかった。






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「ガッハッハハ! さあ、グリムの所用は終わったな。次は俺の話を聞いてもらおうか!?」


 グリムとの細かい打ち合わせが終わった後に、俺に話が有ると切り出してきたアレクセイ。




「話か。テスラ、何の話か聞いてるか?」


「いや、吾輩わがはいは何も聞いておりませんよ。ただ、供をしろとしか言われておりませんので」


 一応、護衛として連れて来たのであろうテスラにも伝えていない案件とは何だろうと、純粋に興味が湧く。




「タイチよ。つかぬ事を聞くが___



 豪快に笑っていた表情を引き締め、真面目な顔で質問をするアレクセイだが……。






 ___!!?」






 聞いてきたことは、修学旅行の悪友のような質問だった!??






 ーーーーーー






「昨日、タイチ殿はされそうになったとか。存じませんが。それと比べれば、まともな懐柔策ですね」


「だろう! 古今東西、”英雄”や”勇者”は”女”で縛り付けるものだ。”女”で生き方を、住居を、国を決める。どうだ、タイチ! 俺の国は多種多様な人種を受け入れている! タイプを言ってくれれば用意するぞ!」


「それならワシの国だって”技術”も含め、多様に受け入れてるだろがい! 極上を用意するだろがい!!」


 俺の住む街の領主、リー・シュがアレクセイの質問の真意を読み取り、解説する。

 拉致などという強引な策では無く、穏便に好待遇を提示して自国に俺を取り込みたいのだそうだ。






「胸が大きい女は、どうだ!?? 俺のロゼは妻に似ているからな! 成長すれば、デカくなるぞ!!!」


 __『お父様!!? 下品ですわよ!!!』


 __『やったー! 、ガンちゃんが1番だよ!!!』


 __『ムム!? 聞き捨てなりませんね! シー姉様だって小柄ですけど結構、大きいですよ!』


 __『おおおおお!!? ユー!?? なんてこと言うんですか!?』


 壁を隔てた向こうの女湯から女性陣の声が聞こえてきた。

 ロゼが父の下品な発言をたしなめ、何故かガンちゃんが勝ち誇り、来ていたのだろうシー達、皇女達の賑やかな声がする。




 __『シロちゃんの”属性”は”幻”やさかい。大小も、髪の長さも思いのままやで~~!』


 ……”大和ダーフォ”の特級妖魔ヤオモ、”九尾ジゥウェイ”のシロまでもが来ているようだった。




「人気者だな。して、タイチは____?」


 壁を隔てた向こうの女性陣が、聞き耳を立てている状況で聞くな!? と思うが、有無を言わさずに質問をしてこられた。






「言いたくない、と言っても聞かないんでしょうね? なら、諦めて答えさせていただきます」






「俺の好みのタイプは……」


 __『ちょっと!? シー姉様! ユーに変な事を言われて恥ずかしいのは、。けど、熱い! 漏れ出る”炎”で、お湯が熱いわ!!?』






 __『うおおおおお!! ボンバーーーー!!!』


「こんな俺を、いつ居なくなるか分からないような俺をなら誰でも良い。皇族貴族や平民奴隷だろうが、”グゥイ”やだろうが。子供だろうとだろうと」


 __『『『うわーー! 爆発したーーーー!!?』』』




 なんかイイ感じに向こうが騒がしくなったおかげで、女性陣に聞かれてないよな?






「……全てを。自分を受け入れる相手なら……全てを……受け入れる、か」


 俺の発言を聞き、上を向き、怒っているのか、プルプルと震え出したアレクセイ。






「タイチ殿。心配しないでください。アレクセイ様は訳ではありません。むしろ、


「厄介なことになっただろがい。まさか、ここまでの答えを言う奴が居たとは……」


 アレクセイの異変をテスラとグリムが、諦めたような顔で眺めている。




「アレクセイ様の奥様。女王様は、かつての”政敵”。命を狙われたこともある相手なのです」




「”金”のアレク殿に対して、禁忌とされる”銀”獅子の獣人でな。幼き頃から好き合っていたが、結ばれざる相手だろがい」




 そんな国中を敵に回すような相手との大恋愛の末に、結婚を果たしたアレクセイにとって、俺の答えは___






「どうやら、俺とタイチは……。俺と、お前は____超親友ブラザーのようだな!!!」


「今! 会ったばかりだろうが!??」


 感動の滂沱ぼうだの涙を流すアレクセイに思わず、王だということを忘れてツッコミを入れた!






 ___ドンピシャの大正解だったようだ……。






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 すっかり、二国の王達と意気投合し、敬語を使わなくてもよいと言われる程になったのは良かったのだが、”懸念”が一つ。




「テスラ、。その青アザは、何だ?」


「お? こんな所に、?」


 テスラの背中に、昨日の夜にポンチャイに殴られた箇所とに青アザが在るのを見つけた。






何か痛むと思ったら、アザになっていたのですね。二日酔いを治す時に、ニーナ殿に殿から受けた怪我は治してもらったつもりでしたが、背中なので見逃していました」






 見逃したといえど、”球体”のおかげで試合後に怪我や体力は完全に治るはずだった。






 やはり”縛り”が、ルールが、”球体”が、おかしなことになっているのではないのか?






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