”仙術”閉幕

「アァーーハッハハハ!!! 素晴らしい! ノン様の予想を! 私の予想を!! 遥かに超えるです!!!」


 シー様によって、タイチが死ぬか、良くて取り返しのつかない大怪我を負うと踏んだノン様。

 それでシー様の精神御心を曇らせ殺そうと考えていましたが、見事に覆した!



 私はタイチに何かしらの勝算有りの”秘策”が有ると思っていましたが、こうも見事で呆気ない勝ち方をなさるとは!?




「何だ!? 何だ!!?」「!? 呆気ねえな!!」「つまんねえぞ! やり直しだ!!!」


「チィーーヒッヒッヒ!! 五月蝿いですよ!! ”縛りルール”で問題無いんですから、外野は黙ってなさい!!! タイチ様!!! 信じてましたよーー!!!」




 御覧なさい荒れ狂う観客達を、を、して叫ぶ婦女子の姿を!!!






「実に私好みの”カオス渾沌”!!! 見事に荒れ、狂っている!!!」







「………………」


 おっと、私ばかり楽しんでもいられないですね。

 ノン様が計画が狂ったことに、あんなにも肩を震わせて黙り込んでしまっています。


 さぞ、お怒りなので___




「____くっくっく! アーハハハ!! コントン、見よ! あの父上の苦渋に満ちた顔を!!! 愉快だ! 愉快だな!!」




 ___は、無いようですね。






 ーーーーーー






といえど、”縛り”に干渉していることが露呈した訳では無い。大会中は、シー自体が危険な爆弾に変わりない。シーを殺せる可能性が有ると、ポンチャイに”仕込んだ”が、大会が続くのなら他の者にも”仕込める”。むしろ、より盤石な計画となる訳だ」


「王者は慌てず、ですか。シー様を殺せるような強者に”仕込む”には、私がなりません。”仙術”予選のような雑魚達と違って、試合のような直接的な対峙が必要ですからね」


 計画が狂ったことも想定内だと言わんばかりに、冷静に補正した計画を打ち出すノンに、が良く分からぬコントンが、ただただ感心していた。




「次に誰に仕込むかは、おって連絡する。今は傷つき、疲弊した身体を休めると良い」


「は、かしこまりました」


 ただただ、この未来の王者に、ただただ、狂乱の支配者に、ノンに付き従って、正解だったと思いながら、コントンは去るのだった






 ーーーーーー

 ーーーーー

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 ーーー


 ーー


 ー






 __計画が狂ったことに、






 去って行くコントンが見えなくなり、憑いているという”繋がり”から距離が離れたことを確認する。






 ____






 かなりの距離が離れ、コントンが密会の為に使った”人払い”の【仙術シィェンシュ】の効果が残っているのを確認する。






 ______ノンは、!!!






「クソがぁ!」 


 試合会場の観客席から少し離れた、試合の熱気や興奮を冷やす、そして一服するための休憩所のベンチが壊される。



「糞タイチが!!」


 ”無手”に参加できる程の腕前、素手で捻じ曲げられ、蹴りで高く蹴り上げられる。




「1度ならず2度までも、俺の計画を狂わせるか!!?」


 ”仙術”に出場できる程の腕前、哀れベンチは何も無かったように砂塵へ、無くなっていた。






「____ねえ、」






 コントンの【仙術】によって、ノンの怒りに任せた騒動に気付く者は






 __『。その身に多くの仙力シィェンリー、聖なる仙力を宿す証の前では。私のような邪な【仙術】は効きが悪いのですよ』


「おじちゃん、嫌なことがあったの?」


 創造神、”全知全能”の黄龍フゥァンロンの色、オレンジ色のボブの髪をした少女。




 タイチの住む街、”光星グゥァンシン街”領主の娘、リ゛ークゥイ






 ーーーーーー






「あれ? おじちゃん、何処かで会ったことあったっけ?」


「……さっき、ぶつかっただね」


 以前、シライシとの騒動の際に二人は会っていた。

 しかし距離は離れていたし、ノンは冕冠べんかんと呼ばれるすだれで顔を隠すようなモノを被っていた。




「そだ! さっきは、ごめんなさい!」


 その為にクゥイがノンを、この国の皇太子、帝位継承順位一位のノンだと気付かなかった。

 気付かなかった、思い出さなかった、今はソレが、ソレが良かったのだ。




 皇太子ともあろう者が、怒りに任せて暴れていたところを下々の者に見られたと知ったら、分かったのなら。






 幼気いたいけな少女といえど、冷静では無かったノンに口封じで____だろう。






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






 タイチの優勝を祝う前に、クゥイが花を摘みに行った帰りのことだった。

 一人の男性が怒り狂っているのに、いる光景。




 誰にでも優しく、困っている人を見捨てない、タイチが心に浮かんでいた。






「困ったことが有るなら、クゥイが手伝いまー! クゥイで無理なら、タイチ先生せんせーにもお願いしまー! だから、元気だそ!?」


 ベンチに、クゥイとノンは腰掛けていた。



「ああ……いや、良いんだ。これはね。おじちゃんが、自分で解決しないと意味が無い事だから」


 無邪気な善意に触れ、怒りと毒気が抜け、冷静さを取り戻したノンが平静に対処する。


「そか~。なら、クゥイは、おじちゃんが頑張れるように応援するね! フレフレ、おじちゃん! がんばれがんばれ、おじちゃん!!」






「? どしたの、おじちゃん? どこか痛いの?」


「____えっ?」


 ノンはクゥイに言われるまで、自分が静かに、一筋の涙を流していたことに気付かなかった。




 当然、皇太子として尊敬や嫉妬、様々な感情をぶつけられたことは有る。

 皇太子としてだけでなく、ノンという”個人”を認められ、評価や賛辞を送られたことも有る。




 だが、見ず知らずの状態、完全な”他人”の状態の自分に優しくしてくれた人物に出会ったことが無かった。




「どうしたの!? やっぱりクゥイの応援じゃ、元気でない?」




 他人の血を、地位を、命を求める欲深き本性が、ノンの仄暗き本性が、クゥイの無邪気な善意で雪解けしたためである。




「やっぱり、タイチ先生せんせーじゃないとダメなのかなー!?」


「そんなことは無いよ。おじちゃん、元気が出て来たよ」


 そう言って笑うノンは、憑き物が落ちたような柔らかな微笑みだった。






 グゥァンウー・ノン、よわい二十八にしての他人に心を許した瞬間だったかもしれなかったのだ。






 ーーーーーー

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 ーーー


 ーー


 ー






 ーーーーーー






 ああ、なんと輝かしく、羨ましく、眩しいのだろう。

 俺が持っていない善性、




 __『タイチ先生せんせーがね____』




 ああ、なんと浅ましく、妬ましく、憎らしいのだろう。

 俺には無い人望、人徳、このような素晴らしい少女に慕われるタイチが、邪魔だ。




 ____『__タイチ先生せんせーなら。__タイチ先生せんせーはね。__タイチ先生せんせー




 邪魔なら、殺そう。

 シーよりも、帝位のために邪魔な妹よりも、俺の幸せのために。




 ______『タイチ先生せんせー。タイチ先生せんせー。タイチ先生せんせー。タイチ先生せんせー。タイチ先生せんせー






 何をおいても真っ先に、俺の障害となるタイチを____殺そう!!!






 ーーノンの生涯最大の恋と、____殺意が芽生えた日になったーー






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