”仙術”決勝~今、再び~

「タイチ様、勝てるかな? もう【雷海レイハイ】を使えるだけの仙力シィェンリーが残ってないじゃん」


 タイチとの付き合いは、精霊ジンリンの中で最も長い白虎パイフーの精霊のガンが、観客ですら思っていることを代弁する。



「もしもタイチが負けるとするなら、くらいしかないわね」


「予選から思っていましたが、ホンは何でタイチさんが勝つことを確信しているんですか? 【雷海】は確かに強力ですが、最強でも万能でも有りません。相手によっては相殺できずに押し切られたり、消費も激しいですから、ジリ貧で負けることも有り得ますよ?」


 最も付き合いの浅い朱雀ヂゥーチュエの精霊のホンが優勝を確信し、ガンと同じく長い青龍チンロンの精霊のリウが危惧していた。






「よく分かりませんが、”仙術”で重要な”適性”の朱雀様の精霊のホンが言うなら、タイチさんが優勝するとボクは思いますよ?」


 中間の玄武シェァンウーの精霊のシンが、自分では何も考えていないような発言をする。






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 司会者に入場を促される前に、タイチとシーが舞台で佇んでいた。






 __『”極真武ジーヂェンウー”!』





 __『”仙術”・決勝!!』






 __『黄龍フゥァンロンの部!!! それでは____”開始カイシー”!!!』






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 ーー現在のタイチの仙力は”球体”からの回復により【神技シェンジー】1.1回分ーー






 当初、タイチは”無手”と違い、観客席が満員となっている”仙術”の決勝で




 開始早々に”炎”の壁で身を守り、タイチを狙わんと無数に現れた【仙術シィェンシュ】の刃や槍、弾丸が浮かび上がる状況。

 上空には巨大な”炎”小さな太陽が、”殲滅ジィェンミィェ”皇女シーの代名詞の【神技シェンジー】。




 タイチを、狙ったモノを焼き尽くす【殲滅】が形成されようとしている状況でだ!






「皇帝には……済まないことを、することになるな」


 しかし、タイチはを止めることにしていた。

 不可思議な”縛り”の誤作動が起きている中でを危険と判断していたのだ!




 !!






 タイチが____”降参”の二文字を口にした瞬間にだ!!!






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 周囲に張り巡らせていた【仙術】の槍などを撃つことなく、【殲滅】が形成し終えるまでシーは俺を攻撃してこなかった。




「タイチ様。”無手”で手合わせを出来なかったこと、非常に、非常ひっじょうに! 残念です!! せめて私の得意分野”仙術”で思う存分と思いましたが、【殲滅】が出来るまで攻撃してくださいませんでしたね。そこまで仙力シィェンリーが不足していたのですね」


 シーは何か勘違いしているのか、俺が無策で、勝機も無い状態まで仙力が不足しているのだと思っているようだ。


「【殲滅】が出来るまで、。タイチ様との”仙術”の試合を楽しもうと思っていましたが、攻撃してくださいませんでしたね」


 格下の俺、”仙術”において絶対的強者である自分から攻撃せずに、格下からの攻撃に対応する形でシーなりに試合を楽しもうと思ったのだろう。

 だから、【合気道】で攻撃に入る”気”を、”機”を、”起”を狙っていた俺が攻撃しないことを、が無いのだと思っていたようだ。




 俺は、ただ____攻撃に入った時のを狙っているだけなのに。







 __『タイチは”いかずち”に関してなら____


気絶寝ていたガンとシンは仕方ないわ。でもね、リウ。忘れたのかしら? 貴女は見たはずよ。その身で____はずよ」




「タイチ様、”降参”してください! 試合と言えど、尊敬する貴方を!! な貴方を!!!」


「無抵抗では無い。気にせず撃ってくるといい。俺は、狙っている」


 せめてもの情けで、俺の狙いを遠回しで伝えてみる。

 シライシに”搦め手”で、人質を取られることで呆気なく誘拐されたことを教訓にしているのなら良いのだが。






 ____『コントン、いや、ケイオスよ。見事に”縛り”を


「今のシーは”縛り”のデメリット不利益が無い。攻撃した相手が”球体”で回復することが無い。自分で治さぬ限り、焼き尽くしたら。そうだろう? ケイオス」


「おっしゃる通りでございます、ノン様。一度ひとたび、【殲滅】を受ければ終わりです。玄武の”適性”、回復や癒しの”適性”を持たないタイチが受ければ____確実に死にます」




「では! その隙を突けるなら!! 遠慮は致しません!!!」


 残念ながら、真っ向勝負しか出来ず、柔軟性に欠け、”搦め手”に弱い所は治せなかったようだ。

 覚悟を決めたシーの”気”が変わる!






「タイチは”雷”のことに関してなら。そして”適性”は白虎様と____”流れ”の青龍様よ」


「……!!? まさか!?? タイチちゃんがアレを!? ツァンの、!!?」


 ______その微細な、繊細な”電気信号”を高度な青龍の適性流れの操作で操っていたのだ。




「お覚悟を! 【殲___


 攻撃に移る時に訪れる最大の隙、その”機”に!!




「【】しろ!!!」


 とっておきの”攻撃”を叩きこむ!!!






「ミ____! ”降参”します!!! ………………あっ!??」


 自分の意思に反しての”降参”の宣言に、シーが間抜けな顔で驚いていた。






「「「「「………………は?」」」」」






「……おい」


 言葉を失った会場に、俺の声が響く。






「おい! 審判!! 俺の勝ち、だぞ!!!」


 当然の主張をする俺の声が轟く!






 __『……はっ!!? こ、”降参”です!?? 勝者! コレエダ・タイチ!?』


 長く、呆気ない幕切れから”竜頭蛇尾”な内容だったと語り継がれるだろう”仙術”の大会が終わったのだった。






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 ーー


 ー






 タイチが使った【仙術】は、ツァンの中の”グゥイ”が使っていた【指示ヂーシー】。

 脳の中に電気信号”を操る、極めて繊細で高度な【仙術】であった。

 、【指示】に掛けられたと思った時は遅いのである。



 ”自害しろ”などの極端なことを【指示】するならば、それは【神技】の域に達していただろう。

 声に出すだけの簡単な【指示】ならば仙力の消費は少なく、簡単に掛けられるのだ。




 しかし、殺し合いならともかく、試合でならソレが命取り!




 希少な”雷”の”属性”、”仙術”では主軸に使われない青龍の”適性”の【仙術】。

 全身に薄く、仙力の防護幕でも張られれば掛からぬ”搦め手”を警戒しろ、と言うほうが無理な話だろう。

 ここまでの試合で、ここぞという場面まで使わなかったタイチの作戦勝ちだったのだ。




 見た目は滑稽で、つまらない試合だったが、その裏の真意、内容は”仙術”の試合に相応しい。

 非常に高度な【仙術】を、ここぞという場面まで温存した”戦術”を秘めたタイチが、”仙術”の優勝者に相応しい!






 しかし、___



……。……タイチはちんに何か怨みでも有るのか?」



 ___この内容で観客が満足するのかは、別問題。






「何だ!? 何だ!!?」「!? 呆気ねえな!!」「つまんねえぞ! やり直しだ!!!」


「チィーーヒッヒッヒ!! 五月蝿いですよ!! ”縛りルール”で問題無いんですから、外野は黙ってなさい!!! タイチ様!!! 信じてましたよーー!!!」






 今にも暴動に発展しそうな騒ぎに、狂乱した騒ぎに、”無手”と同様に頭を痛める皇帝ダオの姿が在ったのだった……。






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