”無手”本選~強者の集い~
午前の予選が終わり、昼食休憩を挟み、午後の対戦表が発表される。
一日で終わる大会は怪我や故障で勝敗が分かれるので、くじ運は重要だが、試合終了毎に全快にされるので基本的には気にする必要は少ない。
ーー
ヨシノ・ヨシコ__対__シャン・チュイ
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フェイ・ラン__対__トウコツ
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ポンチャイ・ウェスト__対__ケイオス
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ニーナ・ワンフィールド__対__コレエダ・タイチ
誰が相手だろうと全力で戦うだけだから、気楽で良い。
ーーー青龍の部ーーー
『ポンチャイの戦い方は
と、チュイに助言と修行を付けたことが有るが、どこまで通用するか疑問だ。
シーのように極端な特化型だが、”無手”に適した特化型なので勝つ見込みは少ないと思える。
「ほ~~。わたくしを前にして。わたくしの実力を知っているでしょうに。眼に闘気が宿っておりますね。その意気や____ヨシ!」
「正直、言うとネ。勝てる気は、してないヨ。でもね、無様に負ける気は無いネ!」
絵面的に、小柄な巫女さんに襲い掛かる巨漢の変質者にしか見えない。
前世だったら、迷いなく通報案件だったろう。
__『それでは____”
ーーーーーー
ーーーーー
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ーーー
ーー
ー
ヨシコの動きは手で、腕で、膝で、脚で攻撃を受け流す【太極拳】に似たモノだった。
常に防御で相手と触れる【武道】で、触れるだけで相手を無力化する【
「途中、何度か、ヒヤリと致しましたが~~。上出来でしょう。貴方様は、お強い。ヨシ! で、ございまして~~」
体格差で掴めれば、シーのように場外まで放り投げるのも容易なのだが、俺から一通りの【太極拳】の動きを見せられても掴むには至らなかった。
「アイヤー……。もう動けないヨ。ワタシの負けネ」
ヨシコの【消力】で
__『勝者!! ヨシノ・ヨシコ!!!』
ヨシコの【
ーーーーーー
「アイヤーー。負けたヨ。ごめんネ、タイチ」
「ウチのタイチに稽古を付けて貰ったにしても、よくやったゾ! 誇っていいゾ! 頑強な山男よ!!!」
辛うじて俺の【武道】を見て、模倣していたトウコツと向かいの国代表入場口に居るフェイ・ランだけが、自分が覚えた【武道】に酷似したヨシコの動きだけ、確認できていた。
そのため、チュイの善戦に対しての純粋な感想を述べることが出来ているのだ。
「タイチ
……出来ていたのだ。
ーーー白虎の部ーーー
「どうだ!? 勝った方が先に稽古を付けて貰えるというのは。ウチのタイチの独占権を賭けてナ!!」
「望むところです! それに貴方には少々、思うところがありますからね。手加減が出来ません!!」
勝手に盛り上がっているが、稽古を付けるかは気分次第なのだが。
以前に仕える領主の娘のクゥイちゃんに【呪い】を掛けていたトウコツ相手に気合十分のフェイ・ランの気合を削ぐのも可哀そうだった。
__『それでは____”
ーーーーーー
ーーーーー
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ーーー
ーー
ー
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!???」」」
先ほどの試合と違って、会場が、観衆が大いに沸き立っていた。
「
ヨシコの【
奇抜で派手な【カポエイラ】から繰り出される攻撃がフェイ・ランを蝕み、【隠蔽】が無い動きが会場を沸かす。
「この程度の足枷! 問題ありませんよ! 私にはタイチ
俺が使っているのを見た【武道】の中から自分に合った物を選択したのだろう。
自分なりの【武道】、見た感じ【中国拳法】に似た形へと昇華していた。
トウコツからの直撃を避け、受け、【鈍化】の効果を最小限に、【鈍化】してもキレが衰えることを見せていなかった。
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!???」」」
「魅せるねぇ。俺の息子と悪神様は。ここまで”無手”が盛り上がったのは見たことが無いぞ。……さて、タイチ。どちらが勝つと思う? 世辞は要らないからな」
「ヤーは、息子のフェイ・ランが勝つとは思ってないのか?」
二人の試合を観戦しながら、フェイ・ランの父、ヤーが話を振ってくる。
「
純粋で素直で一直線、人間としては素晴らしい事かもしれないが、”武芸者”としては面白味と対応力に劣ることはフェイ・ランの課題となるだろう。
「チュイから、俺とトウコツの戦いを聞いているはず。そこから何を学んだかで勝敗が変わるだろうな」
ーーーーーー
「”カバディ”!!!」
勝負を決めようとしたトウコツが選んだ攻撃は、狙ったのか俺とフェイ・ランの戦いの最後に出した【右後ろ回し蹴り】。
「奥義___
”カバディ”の掛け声に待ってましたとばかりに
「この試合は、フェイ・ランの負けだな……」
___【
俺が模倣し、更に昇華した自身の奥義を完全に会得したフェイ・ランの最強の攻撃が、トウコツに___
「ウチの____勝ちだナ!!!」
「なんと!??」
___突き刺さることはなく、身体を捻って紙一重で躱されてしまう。
”カバディ”の掛け声は俺が”罠”として仕込んでいたモノ。
俺に敗れて”罠”だと分かっているトウコツが、変わらずに叫んでいることに気付かなったフェイ・ランが素直過ぎるが故の結果。
逆に”罠”として
「【
「【
「【
「うああぁぁぁあぁぁぁあ!!!??」
俺がテスラとの試合で見せた
俺の時の様な威力ではないが、身体の自由が奪われたフェイ・ランが為す術もなく場外へと弾き飛ばされる。
__『勝者!! トウコツ!!!』
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!???」」」
ーーーーーー
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---朱雀の部---
青龍の【仙術】、【隠蔽】が働かない試合は大味な内容でも多少は観客が沸き立つ。
一転、ポンチャイの試合では水を打ったように静まり返っていた。
「ケイオスとかいう若造は、ミツトラと同じ様に無所属だな。だから”適性”が分からない。対して、有名なポンチャイが白虎と玄武の”適性”持ち。【隠蔽】が働かないから本来なら盛り上がるのだが……」
試合が開始されているのに
試合場の上には犬の獣人のような風貌、上半身は中華風、下半身は和風、名前は洋風といったチグハグなケイオスだけが立っていた。
「ポンチャイ、あいつの戦法は有名だ。その戦法を邪魔しないように観客は静かなのだ。”影”、あいつの”属性”。特殊な”影”を生み出し、その中に自身と武器を収納する。よく見ておいたほうが良いぞ」
ヤーが解説するように、ケイオスの”影”にしては大きすぎる、試合場全てを覆いつくすような”影”が床全体に広がっていた。
ポンチャイは、その中を移動し、死角を突いて攻撃するという戦法。
出現のタイミングを知らせぬように、ゴルフの観衆のように意図的に静まり返るのがマナーとなっているのだ。
「
__『勝者! ポンチャイ・ウェスト!!!』
ケイオスの死角から現れ、気づかれる前に俺の
「国を代表するような戦士。フェイ・ラン程じゃないが、学習能力も高いということか」
「正直、”無手”はタイチが楽勝と思っていたが。こうなると、試合が進む毎に難しくなってくるな」
皇帝から、試合毎に出来るだけ違う【武道】を使うように言われている。
ポンチャイのように、その場で模倣する相手も出てくるだろう。
「俺は賭けられなかったが。賭けられなくて良かったかなと、今では思っているかな」
チィェンの生活の為にも、気を抜くことは出来ない。
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ー
「玄武様! 朱雀様! 白虎様! 青龍様!
ーーー玄武の部ーーー
__『極東の”
「”借り”が有るからって、手加減はしねぇーで、やがりますよ。ヨシコにもタイチにも。あの暴漢は、ニーナがボコボコに出来やがりました。2人とも大きなお世話、でっけぇお節介で、ごぜーましたから」
相手のニーナが敵意丸出しで、余裕が無いようにピリピリとしていた。
怒って、イラついているようなのだがタヌキの獣人の風貌が、少女の外見が、口調が可愛らしさを際立たせて怖くはない。
「
__『本選では、どのような【武道】を見せてくれるのでしょう!? 個人的にも興味が止まりません!! コレエダ・タイチの入場だ!!!』
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「神様! 仏様! ____
沸き立つ観客の歓声の中から聞こえてくるチィェンの懇願の声が、”願い”の呪詛が一番怖いのだった……。
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