”無手”予選~ジャイアント・キリング~

 ワタシには”才能”が無いネ。




 __『タイチと同じく”光星グゥァンシン街”に住む力自慢の理容師!』




 普通の人より身体が大きくて、普段の力も強いだけだった。




 __『記念出場と思いきや!? 素晴らしい試合を! 【武道】を魅せてくれたタイチの”1番弟子”だそうです!!!』




 同僚の”フォヤー”や”リンムー”のように多彩な”武器”や【仙術シィェンシュ】が有る訳じゃないネ。

 出来ることと言ったら、頑丈な肉体を活かした力押しだけヨ。




 __『期待しましょう!! ”シャンチュイ”の入場だ!!!』






『正直、この【武道】に関してなら、チュイの方が”才能”が有るはずだ』


 ワタシの知る限り、最強だった”万能ワンノン”の”フェイラン”を破ったタイチの激励。




『勝つのは____チュイだ!!!』


 タイチに恩が有るとか、借りが有るとかは関係ないネ。

 信じてくれる、信頼してくれる師父シーフーの為に、恥じぬ戦いを!!!






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 タイチの【武道】により満席と言わないまでも、まばらに席が埋まった観客達が静まり返っていた。

 昨今の”無手”は記憶できない試合が多く、その中でも数少ない記憶が出来る試合を求めるようなモノ好きな観客でさえ静かだった。




「皇女様でも手加減はしないヨ。元々、手加減できるほど器用でも無いネ」


「望むところです! ”1番弟子”を盗られたのは悔しいですが!? 楽しみです!!!」


 この、試合前の両者から発せられる闘気が錯綜する、殺伐とする空気を味わうために観戦する者が居るような時間に水を差すような無粋な者が居ないのだ。






 __『それでは____”開始カイシー”!!!』






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 同じように”力”に作用する白虎パイフー朱雀ヂゥーチュエの【仙術シィェンシュ】だが、似て非なる物。


 白虎の【仙術】は腕力や脚力などの、”威力結果”を得るための”能力過程”を強化する。

 ”岩を砕く結果”を得るために”岩を砕ける筋力過程”まで押し上げる。



 朱雀の【仙術】は行動した”過程”の”威力結果”を強化する。

 ”岩を殴る衝撃過程”を”岩を砕く結果”まで押し上げる。






「【強化ジィァンファ】! 【重化チョンファ】!」


 チュイの”球体”の仙力が【仙術】の行使により、徐々に光を失っていく。

 基本中の基本、基礎の基礎、消費した仙力シィェンリーに応じた効果をもたらす【仙術】で強化を始めたからだ。




「効果は、ゆっくりですが確実な方法ですね! でも、終わる前に終わらせますよ!! 【爆発バオファ】!!!」


 あらゆる事象の”結果”を強制的に引き上げる【精霊技ジンリンジー】で”突進力”を強化して、シーが弾丸のように迫る。


「更に! もう1回です!! 【爆発】!!!」


 長女であるが妹達よりも、同年代の女性と比べても小柄で、白虎の”適性”が少ないせいで【強化】の恩恵が薄いシーが、いくら”突進力”を強化しようと限界が有る。

 ”衝撃力結果”には、”体重質量”、”突進力速度”、”体躯硬さ”の複合過程が必要で、”突進力速度”以外で劣っているシーではチュイを弾き飛ばせない。




 故に、ぶつかる瞬間に”衝撃力結果”にも【爆発】を掛け、飛躍的に”衝撃力結果”を向上させることで吹き飛ばす戦法!

 突進の度に【精霊技】の消費が有るが、莫大な仙力を有するシーだけが出来る必勝の戦法!!

 フェイ・ランのように【仙術】を使わない技術も使うなどで、避け続けなければ根負けする戦法!!!






『俺でも【武道】だけで避け続けるのは難しいかな。チュイと違って、小柄というのは小回りが利く。避けれないなら____!』






「ぬうぅうう!!! アイヤーーーー!!!」


「うおおおおお!! ボンバーーーー!!!」


 元々の体重差を【重化】で広げていたチュイを吹き飛ばせなかったシーが、突進と衝撃の力押しで場外へ押し出すために突進を続けていた。

 参加していた”極真武ジーヂェンウー”で、チュイのように”受ける”ことで【爆発】を破ろうとした相手も居たことは居た。

 チュイよりも体躯に優れなかったが、【仙術】で遥かに優れていた相手でさえ容易に押しやれた経験が有ったのだ。




 押されまいと踏ん張るチュイの脚が舞台の石畳を砕きながら、【爆発】で向上した突進力と衝撃力に耐えきれずに下がる。

 立っていた位置から、一直線に場外へと、二筋の石畳の破壊痕を、道のように残しながら下がっていく!



 同じような戦法を取った相手との試合を知る者は、”またか”と思い、知らぬ者でも圧倒的な破壊痕から”無理か”と思っていた。






(((おかしい!??))でして~~)






 数年前から参加しているフェイ・ラン、ポンチャイとヨシコが異変に気付く。

 が早すぎる、と。




『”受ける”、”倒れぬ”、”動かぬ”のに最適な【武道】が有る。チュイが俺の国、俺の世界に行ったら天下が取れる。この【武道】の”才能”に溢れているからな』




 シー本人が一番に異変に気付いていた。

 いくら押しても進まなくなる巨躯、押すための抵抗が増していく巨躯、【強化】と【重化】が進む毎に圧力が増していく巨躯。

 そもそも最初に当たった時の手応えが少なく、【仙術】の効果を考えても抵抗が増す量が変だと感じていた。




「ぬうぅうう!!! !!! ネ!!!」


 __『ふ、踏みとどまったぁ!!!?? 踏みとどまりました!!!』


「「「うおおおおおおおおおおお!!???」」」


 場外の一歩手前、のギリギリで止まったことに観衆が湧く!




「そ、そんな____あっ!??」


「アイヤーーーーーー!!!」


 進まなくなったこと、押し出せなかったことに驚愕し、動きを止めてしまったシーを軽々と、赤子を掲げるように持ち上げる!

 そして場外へと、高々と放物線を描くように軽々と放り投げる!!

 ”突進”を、”衝撃”を、【爆発】を受け切られ、何の強化も無い、何の抵抗が出来ない、何の【武道】が無いシーが場外へと投げ出される!!!






「チュイ殿!! シー殿には【飛行フェイハン】が有ります!! 油断は!!?」


「爪と違って、翼は人には、ツァィ」



 __・【飛行フェイハン】などの本人の身体能力を遥かに超えた【仙術】の効果も無くなる。






『チュイ、お前に教えるのは俺の国の【国技】___




「……お見事です。負けました。今の私では何回、挑んでも結果は同じでしょうね」


 試合を使【飛行】で体勢を立て直して、の地面に降り立っていた。




 ___【相撲】だ』






 __『し、勝者!? シャン・チュイ!!!!!』


「「「わおおおおおおおおおおお!!???」」」






『チュイの方が”才能”が有るはずだ』




「はぁ、はあ、はぁ……」


 自分でも信じられぬのか、呆然とシーを、敗者を舞台の上から見下ろすチュイ勝者の姿が在った。



「「「わおおおおおおおおおおお!!」」」




『この【武道】の”才能”に溢れているからな』




 視界にタイチ師父が入り、その満足気な表情を見たことで、こみ上げて来たのだろう。






『勝つのは____チュイだ!!!』






「勝った……勝った、勝ったネーーーー!!!!!」


「「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」」


 ”無手”の予選は、この日の最高の熱気に包まれることとなった。






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