”無手”予選~それぞれの思惑~

如何いかがだったかな。これがタイチの【武道】。青龍チンロン様の【仙術シィェンシュ】無しで、あれ程の動きが出来るのだ。格闘において白虎パイフー様の【仙術】にだけ仙力シィェンリーを使えば良いのは利点と思うが」


 皇族、王族だけの特別観覧席で、我が事のように皇帝ダオがタイチの【武道】を自慢していた。




「有用と言わざるを得ないが。逆を言えば、本人の”適性”以外の強さ。私はと感じたよ。人は見かけによらないと言うが、力量が目に見えない”技術”で変わる。小童こわっぱだと思っていた”猫”が、実は飼い主を食いちぎる”虎”にも成り得る」


 それを異を唱える痩せぎすで、眼鏡をかけた和装の男性。

 西欧の列国”大和ダーフォ”の将軍、小早川コバヤカワ秀秋ヒデアキ




「グハハハハ! ”四神スーシェン”の加護が行き届いている”赤壁チービー”と”ダーフォ”の御歴々は、俺とは頭の出来が違う! 加護が行き届かない程の田舎。代わりに”四瑞スールイ”の加護しか来ないからな。単純に素晴らしいと言うほかないわ!!!」


 豪快に笑う筋骨隆々の大男、常人の二人分の座席に腰掛ける金髪のたてがみ。

 極東の島国”洋露波ヤンルーブォ”の国王、”獅子王”アレクセイ・レオニダス。




「田舎者と言うな、アレク殿。同じく”四瑞”の加護を受けるワシらまで田舎者になるだろがい! しかし、種類毛色が違っても”新技術”。ワシも技術屋として興味が有る。”新技術”、そそられるだろがい!」


 アレクセイと同じく筋骨隆々だが、背丈が少年ほどしかない亜人ドワーフの壮年の猛者。

 技術と工業と資源の国、常夏の南国”タルワール”の国王、グリム・ドヴェルグ。




 __『続いて、流浪の新人! テスラ選手とは違った意味での未知! 武白タケシロ光虎ミツトラの入場だ!!!』



「名ぁは、うちの国なのに、格好は”タルワール”風ですなぁ。お顔付きは”チービー”やろか? よお分かれへん選手やわあ」


「ほんまやねぇ。なかなか強そな感じやけど、聞いたことも無い名前やん」


 研究肌、学者肌の将軍ヒデアキに成り代わり、”ダーフォ”の政務のほとんどを執り行っている姫君、”女王”コバヤカワ・サヨと、特級妖魔ヤオモ九尾ジゥウェイ”のシロがタイチの次なる相手を品評していた。




 __『それでは____”開始カイシー”!!!』


「相手が誰であれ。わたくしにはタイチ様が”無手”で負ける姿が想像できませんわ。それこそ何人掛かりでも!」


 タイチに窮地を救われ、他国で最初に【武道】を見たであろう”ヤンルーブォ”の姫、ロゼ・レオニダスが過剰な期待を寄せていた。






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「ロゼが、いたくタイチを気に入っている理由が分かったぞ。迷惑を掛けたことも有るが、俺が全盛期でも【武道】に勝てるか分からないからな。是非、俺の国に欲しい! それこそロゼを嫁にくれても良いくらいだ!」


「まあ!? お父様ったら、うふふ」


「アレク殿! 【武道技術】なら、ワシの所が相応しいだろがい! そういう腹積もりなら、固っ苦しいのが嫌いだからと来なかった娘を連れてくれば良かった。出遅れただろがい!!」


 父、アレクセイの発言をまんざらでもない様子のロゼを見て、タイチを、【武道】を受け入れようと考えていたグリムが出遅れたことを焦っていた。




 __「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」




「獅子身中の虫。”武器”を持たなくても、攻撃が出来る【仙術】を持たなくても。その身1つで、人が殺せる【武道】。暗殺などの危険が増すのが何故、分からぬ。田舎者だな」


「お父はんは、ちと臆病と思えますが、まあ危険やわ。”武器”に、仙力の高まりに注意しはるだけやなく、所作まで気ぃ付けるのは難儀ですえ」


「サヨはんが、そう言うなら従いまひょ。個人的には、シロちゃんは珍しいモンは好っきやけどね」


 否定派である”ダーフォ”の親子が、タイチとミツトラの戦いに沸く観衆の声を聞きながら、【武道】の危険性を説いている中、”九尾”のシロは中立といったところであろうか。






なのだ。ちんが、幼き日に見た強者つわもの達の戦いは……。昨今の勝敗だけしか記憶出来ぬモノではなく。”無手”とは、”個”とは、”勇者”とは。……こういうものなのだ」


 普段と違う”無手”での観衆達の歓声を聞きつけたのか、ちらほらと観衆の数が増えていくことに、タイチを招聘した皇帝ダオだけが、独り満足気だった。

 観衆の歓声が観衆を呼び、集まった歓声が更に観衆を呼び、全盛期の”無手”が取り戻されていくことに、童心に帰ったように満足気に見つめているのだった。






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「ダオ殿よ。娘のシーが政務もせずに”極真武ジーヂェンウー”に、鍛錬にうつつを抜かしておるとか言ってただろがい。は良いのか? 今にも麺かバターにでもなる勢いでタイチに投げられ、叩きつけられてるのは、良く見りゃダオ殿の3男坊だろがい?」


「フーのことか。順当に行けば継承権3位なのだが、おごりが過ぎるのだ。男子息子に抜かれるだけでなく、女子シーにさえ抜かれたのに慢心が抜けぬ。を持つが故のな。タイチに叩きのめされるのは良い薬になるだろうからをした」


 テスラとの戦いとは打って変わって、【空手立ち技】から【柔道投げ技】に切り替えたタイチに面白いように投げられているミツトラの正体に気付いたグリムが指摘する。

 当初、正体に気付かれぬように施していた【隠蔽】がタイチとの戦いにより、勝つために回す余剰の仙力が無いと示すように効果を弱めた結果だった。




「”青龍”、”白虎西”。”朱雀”、”玄武”。隣合っとる”適性”は習得しやすうけど、対極を使えるんは”希少”やからね。……”特別”やと、増長する輩は多いんでっしゃろ」


「あら!? タイチ様も対極ですが、紳士な御方でしたわね。ねえ、サヨ様。”特別”でいて”特別”な人でしたわよね」




 __『場外! 勝者!! コレエダ・タイチ!!!!!』


 __「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」




「ほら! 今だって勝ちましたわ。無駄にトドメを差すようなはしない。紳士な御方ですわ、タイチ様は」


「……そやねぇ、ロゼはん。おほほ。ほんま、そやねぇ。おほほほほ。どこぞのよりも紳士やねぇ。……おほほほほほほ」


 ロゼは遺恨を忘れて、純粋にタイチの人間性を褒めているのかもしれなかったが、策謀渦巻く国の政務を取り仕切っているサヨには嫌味にしか聞こえていなかったのだろう。

 一触即発の空気の二人に気を取られたのか、【最適化仙術】により活躍が記憶に残らなかった敗者がタイチへの歓声を背に、悔しさで爆発しそうな表情をしていたのに気付いた者は居なかった。






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『タイチではなく、チュイなる男にシーの予選の相手をさせろと言うのか?』


『俺に敗れて本選に出られなくてもと思うかもしれない。”無手”では勝ち目が薄いことを分からせるには相応しい相手だよ』




「俺の教えた【武道】で勝てるはずだ。持って産まれた、恵まれた”体格”。充分な【身体強化】、癒しではないが玄武シェァンウーの”適性”」


 この世界で初めての”弟子”となるチュイを励ます。




『それならばシーを説得出来ようが……。勝てるのか? シーは白虎の【仙術】の”適性”は無くとも強いぞ』


『極端な朱雀ヂゥーチュエ特化。シーの”無手”での戦法も分かっている。それを踏まえても!』




「正直、この【武道】に関してなら、チュイの方が才能が有るはずだ。だから、!」


「タイチ……」


 緊張でガチガチだったチュイの瞳に”炎”が、”戦士”が宿る。






「『勝つのは____チュイだ!!!』」






 __『予選の最終戦! 我が国が誇る”殲滅ジィェンミィェ”皇女!! シー様の入場だ!!!』


 この国が、この世界が初めて記憶し、記録する”弟子一級”が”特級”を打倒したという出来事。

 ”大物殺しジャイアントキリング”の幕が上がる。






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