ニーナ・ワンフィールド

 世界を統べる創造神・黄龍フゥァンロンの代わりに秩序を守る青龍チンロンを始めとした”四神スーシェン”達。

 ”四神”でも世界全てを見守るには広すぎるので、カバーしきれない部分をノン麒麟チーリングゥェイフォンの”四瑞スールイ”と呼ばれる下位の神が見守っている。




 彼らの”媒介”でも【神技シェンジー】を使うことが出来るのだが、問題なのはなのだ。




 タイチの世界、星の地球においての原子力やダムの代わりとして朱雀ヂゥーチュエの【神技】を使うことで、電力や水力などを確保することで発展してきた。

 純粋な朱雀の”媒介”でなく、鳳の”媒介”では【神技】の効力が切れるのが早く、安定した発展や生活を送ることが難しい。



 故に、朱雀の”媒介”を優先的に所有する”赤壁チービー帝国”の権威が強く、次いで”四神”の加護が届いている西欧の列国”大和ダーフォ”の権威が強い。

 ”四瑞”の加護しか届かない南国”タルワール”、極東の島国”洋露波ヤンルーブォ”は属国的な立場となってしまっているのだ。






 極東の”ヤンルーブォ”において、朱雀の”媒介”を手に入れることは大変な栄誉と貢献になる。

 そんな”媒介”を手に入れる機会である”極真武ジーヂェンウー”に十年、”無手”、”仙術シィェンシュ”、”武器”の全部門に代表として出場し続けたニーナの父。




 マークス・ワンフィールドは尊敬する父で、偉大な英雄






 晩年は、『捕らぬ”タヌキ”の皮算用』、『虎の威を借りる”タヌキ”』、『三位収集家ブロンズ・コレクター』と呼ばれるまでに国内の評価を落としていた。




 __『みんな! 分かってねぇーで、やがります!!』




 長らく、どの部門でも優勝が出来ずに終わっていたマークスを、国民は期待の裏返しで凄惨に責めた。

 国王アレクセイ・レオニダスの娘、ロゼと幼馴染のように遊ぶことをニーナが許される程の権威と階級と名誉を持っていたマークス。




 ____『パパは! パパは、凄ぇで、ごぜーます!! パパを責める大人は嫌いで、やがります!!!』




 神童、皇帝の娘、”殲滅ジィェンミィェ”のシーが全部門を優勝していた時は、ちんの娘だからと”手加減”してくれていたのだろうと、準優勝の者に”媒介”を渡していた時は、まだ非難も少なかった。

 マークスよりも若いフェイ・ランやヨシノ・ヨシコがシーを破り、優勝し始めると『2位シルバーどころか3位ブロンズでは駄目だ』と、歯止めが効かなくなった。




 ______『パパは休んでてくだせーー! 嫌いな大人に任せやがるより!! ニーナが”媒介”を取ってくるで、ごぜーます!!!』




 と言ったが、マークスは若く健康でであったが、鳴りやまぬ批判に、叱責に心が、精神が、闘志が

 気丈に、ニーナが幼馴染のロゼと会う事すら許されない程となった父の権威を回復させようと奮闘する姿が、マークスにとっては一番の責め苦だったかもしれない。






 ーーーーーー






 __『それでは____”開始カイシー”!!!』




 試合開始の合図で後ろに飛びのき、タイチと距離を取ったニーナ。

 両者に生まれた距離がトウコツとの戦いに酷似していたので【空手】の【追い突き】を繰り出そうかと考えたタイチだったが、予選で【空手】を使っていたので躊躇した瞬間。



「ポンポコ、ポン!!! 【変化ヨシノ・ヨシコ___



 ニーナの”球体”から仙力が、【精霊技ジンリンジー】の行使によって急激に失われていく。



 ___なるですよーー!!!」



 ”球体”からの光が減るのと反比例するように、ニーナの身体が眩い程に輝いていた!






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 ーー


 ー






「なにィ!? アレは【変化ビィェンファ】! 饕餮トウテツの【仙術シィェンシュ】だゾ!!?」


 光が収まり、姿を現したニーナに悪神”四凶スーシィォン”の三苗トウコツが驚いていた。

 ニーナの面影を残してはいるが、姿形、佇まいがヨシノ・ヨシコそのものと言っても良いくらいの姿で現れたからだ。






 ”四凶”特有の【仙術】には、それぞれ特徴が有る。



 トウコツの【呪い】は、”玄武肉体”の性質を好きなように”白虎強化”させる【仙術】。


 渾沌コントンの【狂化クゥァンファ】は、任意の”青龍方向”へ”朱雀暴走”させる【仙術】。


 窮奇キュウキの【忘却ワンチュェ】は、積み重ねた”朱雀結果”を元の状態に”白虎弱化”させる【仙術】。




 トウテツの【変化】は___



「『覚悟しやがりますするのでして~!!!」』



 ___”玄武物質”を”青龍変質”させる【仙術】!






 自身の”物質肉体”を”変質ヨシノ・ヨシコ”と変えたニーナが、タイチに迫る!!!






 ーーーーーー






 タイチが【神技シェンジー】を使うように、神の【仙術】と言えど模倣、使用するのは可能なのだ。

 しかし、二系統の【仙術】の複合である”四凶”特有の【仙術】を使える術者は少ない。




 使えたとしても”四凶”の、悪神の忌まわしい【仙術】だとして、使おうと考える者は____皆無に等しい。






 ニーナが使った【変化】は、使勝ちたかった【変化】は、完全なトウテツの【神技変化】には及ばないが【精霊技ジンリンジー】に至るモノ。

 ヨシコの全てではなくとも、その”身体”とニーナが”技術”を再現、出来ていたのだ。




『今日は、噂のトウコツはんも見れましたし____極東の”洋露波ヤンルーブォ”の新人はんも拝めたよってな。手土産には充分でっしゃろ』


『それは、で、やがりますよ』




「あない言葉ぁ。お為ごかしやのうて、本当ほんまの言葉やったんやな」


 先日の小競り合いを思い出しながら、サヨが切り札を見せすぎたことを少し後悔していた。






 ーーーーーー






「「「うおおおおおおおおおおお!!???」」」


「『なんで!? 平然としてでして~~やがります!? タイチ!!!」』


 【太極拳】と【消力シァォリー】を絡めた猛攻に、涼しい顔で対応するタイチ。




 ニーナがヨシコを模したことを確認したタイチが選択した【武道】は____【太極拳】。




 多くの者が想像する【太極拳】はラジオ体操のような、ゆっくりとした緩慢な動きのモノだろう。




「「「うおおおおおおおおおおお!!???」」」




 以前にタイチが使い、トウコツが使っている【カポエイラ】のように【太極拳】は一見、【武道】と思えない練習法。

 実際は練習よりも何倍も激しく、素早く動くことで実践的な【武道】としての要素が有るのだ。




「【変化模倣】が悪い事だと言うつもりは無い! だが! 本物よりも数段、劣る!!!」


「理解してくださいますか。喜ばしい限りでして~~」


 タイチの【隠蔽】していない【太極拳】を見て、ヨシコニーナの【太極拳】の動きを理解し始めた観客が湧く。

 自身の【動作の最適化奥の手】が、完全でなくとも解明されているのにも関わらず、コピーのニーナよりも評価されていることに、ヨシコは喜んでいた。






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 ー






 ヨシコは本気ではなく、タイチの達人の域に達していない【太極拳】で充分に対応できるモノであった。




「大会だ! 女性だと侮ってはいないが! のは気が引ける!!!」


 それでも試合を早々に終わらせなかったのは、皇帝に言われていたように【武道】を見せつけるために長く戦うため。

 女性を過度に痛めつけるのを嫌い、出来るだけ簡潔に倒す機会をうかがっていたため。




「【発勁ファジン】!!!」


 ニーナの腹部に掌を当て、

 周囲から見たら、たったそれだけだった。




「『ほおおぉぉおぉおうわああぁあああ!!???」』


 それだけなのに、テスラのように砲弾のように場外の先、観客席の壁まで一直線に、ニーナが弾き飛ばされていた。

 テスラの時と違うのは”球体”が砕け散ることはなく、少し縮んだだけの軽傷だったということだけだった。




 __『場外! 勝者!! コレエダ・タイチ!!!!!』


「「「うおおおおおおおおおおお!!???」」」






 試合が終わり、仙力シィェンリーの回復を遅らせていたタイチの”球体”の光が弱まる。


「【消力】の減り具合。あれぐらいの接触と時間だと、このくらいか」


 後に戦うことになるかもしれないヨシコの対策のために【消力】の威力を確かめる意味合いを含めて、長くタイチは戦うことを選択していたのだ。






「負けやがりましたが……。思う存分、


 モノを模倣出来るニーナ。




 では、モノなら?






 ”球体”によって死ぬことがない”極真武ジーヂェンウー”において、この出来事がのちに____タイチの命に関わってくる事になる。




 それは、もう少し先の話となるのだった……。






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