【呪い】に打ち勝つ【生き方】

 __『”極真武ジーヂェンウー”の開催のために宿を取るのが困難だろうと思い、タイチ達には宿を用意しておいた。大会期間中の寝泊まりと食事は、ちんの方で用立てることにするので英気を養うことだ』



 皇帝の厚意により、宿泊費や食費は大丈夫だった。



「チィェンちゃん。今日は、もう休も? タダだお、タダ!」


の私でも泊まれるって素敵ですね……。チ~~ヒ、ヒ……。無料タダ大好きです……」


 正確には、大会期間中の生活費くらいは残していたが、俺が”極真武”で優勝する可能性が低そうだと判明したため、省エネ状態になったチィェンが土産などの買い物に行かずに宿を目指す。

 それに付き添うツァン、泣き疲れて寝ているシンと抱き付かれたままのジィェン、リウとガンちゃんも先に宿を向かうことになった。






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凡愚ヒトの街中を歩くのは久し振りだゾ! 賑やかでイイナ!!」


 物珍しそうに練り歩くトウコツを先頭に、俺達は”光星グゥァンシン街”の知り合いへの土産を買うために商店街のような場所を見て回っていた。




「タイチ殿、良いのでしょうか? 私の家族一族。皆の、お土産まで買って頂けるなんて……」


 俺が面倒を見ることになっている灰鼠フゥイシュ族の分まで、土産を買うので選ぶように言われたツァィが恐縮していた。


「チィェンが、だからな。俺が金を貸すことになるかもしれない。自業自得で散財する前に、有意義に使い果たすつもりで選んでくれ。種族の好みや、全員の好みまで熟知してないから、俺が選ぶと___




帝都ムーダンに行ってきました・クッキー≫




 ___になるぞ?」


 その辺に在った土産物屋のを手に取り、ツァィに見せる。



「おふぅ……タイチ殿……。分かりました! タイチ殿のが疑われない品を私が選んでみせます!!!」


 俺の頼みを力強く引き受けてくれるのは良いのだが、一言が余計だった。

 気負いをしないように、わざと外した商品を選んだのだが、本気で選んだと思われたようだ。




 __見た目は美味そうだったから、個人的に買って帰ることにはしたが。






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「っと、こんなもんかな?」


 食料品などの土産は帰る直前に買うように目星を付け、実用品などの物品を数点、買いこんだ。




「わざわざキラキラにする意味が、ウチには分からないゾ。使えればイイだろ?」


「わきゃ!? トウコツ殿! 驚かさないでください!」


 道すがら、飾り物屋を眺めていたツァィにトウコツが話しかけて、驚かせていた。

 貧しく、こういった飾り物を持つことが出来なかったが、やはり女の子なのだろう。

 買うことが出来ないが、せめて目を楽しませようとしている光景が、いじらしい。




「色男のあんちゃん、どうだい? 可愛い彼女達に”玉簪たまかんざし”をプレゼントしてみないかい。にもなるからよ」


「ほほう!? になるのか? このアクセサリーが」


「はわわ!? 彼女だなんて、恐れ多い! それに私には似合いませんよ!」


 店先で物色していた俺達に製作者なのだろうか、作務衣に似た服装の職人が顔を出してきた。




「”玉簪”。このハイカラな装身具は、透明な飴玉みたいな飾りが特殊なのよ。空っぽな仙石シィェンシーだと思えば良いわ。容量の限界は有るけど【仙術シィェンシュ】を1つだけ入れておける。この大きさと質なら……そうね。【精霊技ジンリンジー】までなら入るわね。良い仕事よ。褒めてあげるわ」


「お! 分かるかい、お嬢ちゃん。そうだろう、俺っちが選び抜いた”ぎょく”に、丹精込めて細工したモンよ! どうだい? お安く勉強させてもらうよ」


 少し不遜な物言いだったが、ホンに褒められたことを素直に喜んだ職人が勧めてくる。




「どれ、試しに1つ」


 無造作に”玉簪”の一つを手に取り、”いかずち”の【精霊技】を込めていく。




「ほえぇぇえ!!? こりゃあ凄ぇ!! 無造作に【精霊技】を込められるだけじゃなく、”雷”なんて珍しい”属性”か!?」


 込められた【仙術】の強さと”属性”によって色が変わるのだろう。

 気付くと透明だった”玉”が、黄色に近いオレンジ色に変わっていた。




「あ!?? タイチ殿!! 私には過分なモノです!!!」


「試しとはいえ、使からな。買い取るしかない。男が使うモノでもなし、助けると思って使ってくれ」


 流れるようにツァィの髪に”玉簪”を差したことに驚かれるが、ことが決定しているので受け取るしか無いのだ。




「……大事に…………大事にします……タイチ殿……」


 髪に差された”玉簪”を愛おしそうに触りながら、少し涙目になりつつも喜んでくれたようで嬉しく思う。






「な~な~~! ウチには? ウチには~~!?」


 トウコツあなたは強いので、護身用は必要ありません。






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「あらあら、まあまあ。美しいオレンジ色ですこと。わたくしの”玉簪”にも込めてくださらないでしょうか?」


 俺達の会話を聞いていたのだろう金髪の猫? の獣人の洋風ドレスを着た少女が”玉簪”を手に会話に入ってきた。




「ぶしつけな”お願い”だとは分かっておりますが。とても美しいオレンジ色。わたくし、とっても欲しくなりましたの。美しい創造神様の色を身に付けられるなんて羨ましくって」


「まあ、別に構わないが」


「あ!? あんちゃん! それは____」


 職人が止めようとしてきたが、それより前に反射的にツァィの”玉簪”に込めた【精霊技】と同じモノを込めてしまっていた。






「まあまあ、なんて美しいオレンジ色! 感謝いたしますわ____。この御礼は後日、また」


 教えてもいないを言いながら、連れだって来ていた少女と共に、獣人の少女は駆けて行ってしまった。






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あんちゃん……すぐに止められなかった俺っちも悪いんだがよ。そう、ほいほいと【仙術】を他人に預けない方が良い。”属性”なら特にだよ。仙力シィェンリーは”繋がり”だ。悪意を持たれたら、何されるか分からないよ」


「この”玉簪”の全てに【仙術】が込めてないのは、そのためね。トウコツじゃないけど遠隔から【呪い】なんかを掛けるのにする必要が有るの。ゆかりの物だったり、髪だとか身体の一部。”属性”なんかは、うってつけね」


 職人やホンが危惧するように、俺の前世の世界でも【呪術】に相手のモノを使うというのは、よくある話だ。


「【仙術】入りの”玉簪”は、モノによっては高値になるから扱うことも有るんだがよ。隠居した術者の小遣い稼ぎだったりな。とにかくあんちゃんみたいな若ぇ働き盛りには、思わぬ”足枷”になることが有るんだよ」




「【呪い】なら、ウチがタイチに憑いている限りは大丈夫だゾ! 逆に【呪詛返し】をしてやる!!」


「それも有るが、には自信が有る。あの少女は大事にしてくれるさ。間違っても悪意を向けてくることは無い」


 全体的に地味なドレスだったが、生地と仕立ては極上のモノだったので何処ぞの令嬢であることが推察された。

 礼儀も正しく、敵意や悪意を感じられず、俺が【精霊技】を込めた”玉簪”を受け取っても純粋に喜んでくれていた。




 俺を案じた職人は止めようとしたが、俺の人の見る目を信じ、危険が少ないと判断したホンだからこそ【精霊技】を込める際に何も言わなかったのだ。




「……まあ、そうでしょうけどね。でも、皇帝から言われたでしょう? 大会が始まるまではの人間と極力、関わるなと」




 __『タイチの【武道】は政治的に不安定だ。”欲しい”と言うも在れば。”不要”だと主張するも在る』




「さっきの。他国の……確か___




 __『”極真武”の前。大会前の【武道】が広まっていない状態。広まっていない今の状態は危険なのだ』




『____ぁやまりますから!! 後生ですわ! せっかくの美しいオレンジの”玉簪”だけは!! 今は手持ちが有りませんが! 必ず、弁償いたしますから!!!』


 先ほどの少女が、離れたところで揉めている声が聞こえてくる……。




 __『自国だけで広める目的でタイチをかどわかす他国。広まる前に排除しようとする他国が必ず出てくるだろう』




「はあぁぁあぁ……。だから、放っておきなさいな。なんだから」


 皇帝の忠告を無視して駆けだした俺に、ホンからの正論が、常識的な非難が投げかけられる。




 __『よって、他国の人間との接触は出来うる限り避けてもらいたい。良き悪しきにせよ。危険で有るからな』




「タイチのソレは、ウチの【呪い】に勝るとも劣らないナ!」






 これが前世で出来なかった、幼き頃から望んだ、恋焦がれた俺の”今”の【生き方】だ!!!






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