帝都・ムーダン

 俺の住む国”赤壁チービー帝国”の帝都”牡丹ムーダン”に無事、昼過ぎには到着することとなった。




「まあ、今さら驚きはしないが。道はアスファルト舗装されているし、車もバスも走っているのは壮観だな」


 さすがに帝都ともなると広大で、非常に近代的だった。

 妖魔ヤオモとの関係だろうが、百メートルを越えるような建造物は少ないが中国の地方都市を思わせるような街並み。


「費用対効果の問題ですね。馬車を使えば、馬を世話する人の雇用が生まれます。ですが広大になると休みなく動き続ける流れを優先した方が良いことも有りますからね」


 リウが解説するように、俺の世界の首都の三分の一くらいの広さを誇っている”牡丹”において、効率的な交通網の方が良いのだろう。

 直線的に帝都を横断する”鉄道”、”駅”ごとに縦横無尽に張り巡らされた”バス”などの公共交通機関。

 驚きはしないが、前世の世界への懐かしさを感じていた。






「では私はタイチ様の”極真武ジーヂェンウー”参加の手続きをしに行ってまいります。受付は”牡丹”の傭兵受付ですから、勝手知ったる受付のチィェンに、お任せください」


「ウチも興味が有るから付いて行くゾ!」


 シロとの会話で一切、喋らなかったトウコツがチィェンに付いて行くと元気に答えていた。


「アイツは嫌いダ! ウチが逃げる癖に! 自分からは気安く話しかけてくるし!!」


 それはトウコツが会いに行く戦いに行くからだろうなと思ったが、口にするのは止めといた。






「では! ここからは私が案内します!! 勝手知ったる自分の庭ですから!!! 父上も首を長くして待ってますよ!!!」


 ここからは皇女のシーの案内を頼りに宮廷を目指すことになる。






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「よく来てくれたな。無事にシーとフェイ・ランも”極真武大会”に参加できるように間に合わせてくれて、ちんは嬉しく思うぞ」


 ラフな格好だが、生地と仕立てが良いことが分かる格好で皇帝である”光武グゥァンウー帝・ダオ”自ら出迎えられる。

 ちょっとした会食に使われるのだろう宮廷の部屋で、俺達は大会を前に仕事の話をすることとなった。




「せっかく宮廷に招き入れたのだから、ちんの8人の子供達をタイチに紹介したいところだが。今回、紹介できるのは3人。既に顔を合わせたことの有るのを含め5人。後の3人は機会が有ればな」


 今回のような国を挙げての催しの際に、次世代の教育の為に皇帝の執務を全て、後継者数人に任せるそうだ。

 皇帝のダオ自身の休養も兼ねているし、急死など凶事に対応するため予行練習の制度だという。




 紹介されたのは___



「初めましてね、タイチ様。次女のルイよ。シー姉様が迷惑かけてないかしら? いえ、みなまで言わなくても、


 長女のシーと比べて大人びた雰囲気の、少し茶色を帯びた長髪を後ろで縛っている帝位継承七位のルイ。



「はじめまして、タイチさん。ムムムーン! 凄いですね。タイチさんは、わたしの【占い】で国とっての”吉兆瑞気”と出ましたよ!」


 シーと同じように長い髪をポニーテールにした活発そうな三女、帝位継承八位のユー



「………………」


 不機嫌であることを隠そうともしないボサボサ頭の三男、帝位継承フー



 ___合計、三名。






「これ、フーよ。タイチに挨拶をせぬか」


「何故ですか父上? 皇族たる俺が何故、一介の傭兵如きに名乗らなければならないのです。しかも____グゥイ”を連れ立つ者に!」




「フー兄様!!? ツァンさんのことを悪く言わないでください!!」


「ふん! 穢れたモノを。汚らわしいモノを。そのまま言ったことの何が悪い!!!」



めよ、フー。タイチが、国が滅ぶ。最大の敬意を払うのだ」




「…………の3男。弟達はおろか、妹にすら帝位継承を抜かれたフーだ。……これで良いですか父上? 気分が悪いので退出させてもらいますよ」


 そう言い捨てながら、フーは不機嫌なままに音を立てながら退出していった……。






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「すまないな、タイチよ。ツァンと言ったか、其方にもな。ちんの顔に免じて、愚息ぐそくの無礼を許して欲しい」


「そ、そ、そんなあ! もったいない御言葉だお。へっちゃらです。……


 皇帝としての立場のため、頭を下げてはいないが言葉だけでも謝罪するということは珍しいことだ。

 それが領主や貴族、他国の重鎮相手ではなく、自国の平民ツァン混血に対してのモノだというだけで異例中の異例であろう。




ちんとしては多様な考え方を認めてはいる。”差別”も大いに結構。しかし、この国では認めぬ。ちんの目の黒い内はな」


「ですが父上! 市勢では横行しています! 事実、ツァンさんは光星グゥァンシン街で”差別”を!!」


 皇帝ダオの言葉に、一ヶ月近く光星街で過ごした皇女シーが実情を訴え出ていた。



「不当な”差別”。店を出せない、財産を没収される、暴力を振るわれるは無いはずだ。だが、”好き嫌い”までは取り締まれぬ。そこまで干渉しては、こちらが”差別”になる」


 シーの陳情に極めて冷静に反論がなされる。




「良き機会だ、タイチ。意見が聞きたい。”招き人専門家”としての意見ではなく、”迷い人ミィーレェン”の、異界の一般人の意見として」


「……タイチ様が、だとは思えないけどね」


 皇帝として、国の為政者として、様々な”招き人ヂァォレェン”からの技術、考えを取り入れてきていたが、俺のような一般人と話したことは無いのだろう。

 __ガンちゃんが”一般人”に反応していたが、無視されていた。




「”民主主義”だのの考えが有ることは理解しているが、この世界の国は基本的には”王制”だ。そのことについて、どう考える?」


「ここ百数十年、戦争らしい戦争が無く。貧富は有るが飢餓は無い。”民主制”を取っても良いだろうが、妖魔が居る。それによって交通、情報に制限が掛かる現状では”王制”が最善と思う。治安の関係から”貴族”などの地方自治は必要だからな」


「聡明だな。そういった理由でちんの国を含む4ヶ国が”王制”を取っている。それぞれで細かい主義主張も制度も異なるがな。そこの娘、ツァンをちんの国より受け入れやすい国も在る。極東の”洋露波ヤンルーブォ”や南国の”タルワール”が、そうだな」


 いかに過ごしやすいとはいえ、ツァンが育ての親の店を離れることはないだろう。




「戦争が無いと、タイチは言ったが____戦争は在るのだ。それが”極真武”」






「勇者や英雄は、タイチの世界で言う”核ミサイル”なのだ。跳び抜けた”個”は全てを蹂躙する。いくら集まっても”軍隊アリ”が”勇者ゾウ”に敵わぬようにな。この大会は、それを他国に所有していることを、威力を示すための催しでもあるのだ」






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