総力をもって

 ーー特級妖魔ヤオモ刑天シンティェン”ーー



 "闘争の申し子"と呼ばれる妖魔で、腰蓑を巻き付け、斧と盾を持つ巨人のような風貌。

 首を斬り落としたとしても胴体に両目と口を浮かび上がらせ、なおも戦いを止めない闘争の化身。


 その特性から、殺さねばならない強敵である。



 ーーーーーー




「駄目だよ、タイチ様。調んでしょ? いくらチィェンの頼み事でも請けちゃ駄目。”特級”相手なら特にね」


 隠していたのをホンに続き、ソファーに寝そべりながら、だらしなく雑誌を読んでいるガンちゃんにも体調不良を見破られていたようだ。



「タイチ様が請けて頂かないと。ことになります」


「「シンが?」」


 髭剃りを受けながら目を閉じていた俺が目を見開き、寝そべっていたガンちゃんが身を起こして予想外の言葉に反応する。




「これは”願い”を叶えるためにシン様が”媒介”を使って、”依頼料”を生み出した依頼なのです」






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「”特級”を倒せるのは”特級”だけ。これはでの話です。通常は複数で依頼を請けますから、上の等級でも規定の人数が揃えば請けることが出来ます。そうでないと”特級”などの依頼を消化できません。この街の規模ですら”特級”はタイチ様、フェイ・ラン様の御二人しか居ませんから」


 最もな話で、”数は力”なのだ。

 子供が相手だとしても、それが何人も何十人も居たのなら普通に負けるのは当たり前の話なのだから。


「1ヶ月程前に、実力のある1級のパーティー一党に請けてもらいました。この妖魔”刑天”は首を斬り落とすと”霧”のように消え去り、その後に首を取り返しに来たところを倒せば討伐完了となります。彼らは問題なく首を斬り落として、村で待っていたそうです」


「2回目の方が強くなる妖魔なのか? そこで失敗して、俺に話が来たと」


「むしろ1度目の方が厄介です。首を斬り落とさずに倒すと、”霧”になった後に元の姿で復活しますから」


 俺の疑問に静かに首を振りながら否定したチィェンが、自分でも信じられないことだと思っているのか、青ざめた表情をしている。



「再度、現れた”刑天”には……有るはずの無い……




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「あ、有り得ないことではないですけど。が出現した可能性は……」


『最初に首を斬り落とした連携攻撃。いわゆるの攻撃を、見事に防いで見せたそうです。その後も何度か交戦しましたが、結果は同じだったそうです。あらゆる手段で首を斬り落としても、状態で現れる。依頼を請けた一党は、”手が負えない”と判断して帰還してきました。それが数日前のことです』


 散髪を終え、帰宅した俺はシンに問題を報告していた。

 俺と同じ疑問を口にしたシンに、返ってきた返答を伝えて”刑天”が同一の特異な個体だと教える。



「安易に”金”で解決できると思ったのが間違いね。本当に”刑天”だったのか。特殊な個体や事情が有るのか。元々、支払い能力の無い村の”願い”。事情が変わったことでの依頼料の増額は見込めない。万全を期するべきだったわね」


「どどどど、どうしましょう、タイチさん。既に”媒介”を使って”金”は生み出してしまいました。特級に依頼するだけの充分な量ですが、内包する仙力シィェンリーには余裕が有るとはいえ。再度、【神技シェンジー】を使えませんよ!?」


 迂闊であったことをホンに詰められ、”願い”が失敗しそうなことに涙目になりながらシンが泣きついてくる。

 一度、何かの用途で使われた”媒介”は、仙力が残っているだけの器になるだけで再度の【神技】を使うことが出来ない。

 例えるなら一度しか開けられない金庫のようなものだと思っている。



「この案件は極秘に”特級”が請けることになった。フェイ・ランがシーの護衛のために動けないから、俺が請けるしかない。シン、玄武シェァンウーの”願い”の失敗を広めないように、チィェンがプライベートの時間で伝えて来てくれたからな。無下にも出来ない」


「すいません、タイチ様。体調が悪いのに無茶をさせてしまいますね。皇帝父上から、”特級”以上の護衛無しで動き回るなと厳命されていますので、フェイ・ランさんを拘束してしまって」


 護衛や供の者を人質に取られて捕まった経験のある皇女のシーは、相応の実力者が居ないと自由に動くことを禁じられている。

 そのためフェイ・ランが拘束されてしまっているので、この案件は俺が請けるしかないのだ。



「大丈夫だお、シンちゃん。タイチちゃんが請けてくれるし、ツァンも手伝う。リウちゃんやガンちゃん、ホンちゃんだって居るお。絶対ぜぇったい、成功、間違いなし! やったね!」


「不肖、ツァィも、お手伝いいたします! 気を落とさないでください! シン殿!!」


「ふぇぇ、皆さん……」


 シンを元気づけようと明るくツァンとツァィの二人が楽勝だと印象づける。


「まったくもって不本意ですが、タイチさんが請けると言うのなら、私も行くしかありませんね。感謝してくださいね、シン。お礼は甘菓子で良いですからね。イチゴ味ので良いですよ」


「しゃあないね。体調不良のタイチ様を少しでも楽にしてあげないと。【実体化】も【仙術シィェンシュ】も自前の仙力を使うんだから、僕のは美味しい点心。そだね、餃子が良いかな」


「リウ、ガン……。フフーン! 分かりました。とっておきのを用意しますね!」


 同じ精霊ジンリンとして、仲間意識が有るのだろう。

 素直に手助けをしないことで、シンの気兼ねや遠慮を過度に引き出さないようにしていた。



「フン!! 貴女アナタのミスの尻拭いをするのですから極上を用意することね。私は高いわよ、シン!」


「うっきゃあ!! ホンちゃんも来てくれるお!? 特級タイチちゃんと精霊全員が挑めば問題ないお!」


 ツァンが俺達が総出で挑むことに息巻いているが、俺の予想ではだけ参加すると思っていた。




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「タイチ! まだ居るネ!?」


 旅支度をしていた俺達の所に訊ねて来た

 俺とチィェンの話を聞き、動揺しながらも仕事を寡黙に続けた男。



 ”刑天”が西に出ていたことに動揺していた男。



 戦いを覚悟した特有の殺気、闘気を押し隠しながら仕事を続けていたのを感じていた。


! 小和シャオフォ村を守る”願い依頼”! ワタシにも手伝わせて欲しいネ!!!」


 巨漢の身の丈に相応しい重厚な武器が包まれているだろう荷物を地面に叩きつけ名乗りを上げる。

 先ほどまでの繊細な仕事をしている人物とは思えぬ程、闘気を身に纏い、筋肉を隆起させていた。






「金なら要らないアルネ! 故郷の為に手伝わせて欲しいヨ!!!」



 マフィア組織”チー”の大幹部、”風林火山”の一角を担う”シャンチュイ”も参戦することになったのだ。






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