日常の変化

 シライシから譲られた刀、”虎杖丸いたどりまる”の修練を切り上げ、居候しているツァンの中華まん屋に帰ってくる。



「「「タイチ大兄ダーシィォン! お帰りなせい!!!」」」


「タイチちゃん! お帰りだお!」


 帰ってくると、夜勤の運送の仕事に行く前のツァィの兄・バン達とツァンから出迎えられた。

 食卓には残してきた精霊ジンリン達、ジィェンと昼勤の運送帰りのウサギの獣人の青年・ユンが居た。


「タイチ様、お帰りなさい。バンさん達に仕事の引継ぎしてたら、ツァンさんから仕事に行く前と帰る前に寄っていきなさいと言われましたので、お邪魔してます」


「お帰りなさぁい、タイチさぁん。今日は賑やかですねぇ」


 以前も思ったが、俺の周囲は精霊も含めて賑やかになってきていた。

 悪神”四凶スーシィォン”・三苗トウコツにも付け狙われている。


「シン! ちょっと来なさい! 話が有るわ!」


「どうしたんですか? ホン。怖い顔をして。偉く、賢いボクに何か用ですか?」



 時期に来ているのかもしれないな……。




「ふぎゃああああぁぁぁあああ!!!」




 ーーーーーー

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 ー






「「「では! お勤めに行ってまいりやす!! タイチ大兄!!!」」」


 仕事前の腹ごしらえを終え、元気いっぱいに手を振りながらバン達が仕事に向かって行き、その手の甲には虫眼鏡に似た簡易なが入っていた。

 これは【追跡ヂュイジー】と呼ばれる【仙術シィェンシュ】で、罪人などの所在が入れ墨のマークを知っている関係者が分かるようにするためのモノらしい。


 俺の左頬にあるトウコツからの【呪いマーキング】に似たモノで、追う方関係者だけが所在を感じ取れる。

 ”黄巾党罪人”である彼らの監視面倒を見る立場の俺も所在が分かり、何か有れば分かるようにもなっている。



「本来は罪人の証であり、忌むべき入れ墨。なのに、皆さん良い笑顔でしたね。タイチさんが”命懸け”で彼らのために尽力してくれているのが分かっているからですよ。『≪正しく生きていれば≫守ってもらえる。俺達はタイチ大兄を家族と思っている』と、言っていました」


 彼らを見送るために外に出て、そのまま食後の一服をしていたところにリウが来ていた。


「フーー……。家族か……。前世よりも、大家族になったな」


「……ツァンさんも。同じように思っているはずですから。相談無しにでくださいね」


 それには答えずに吸っていたタバコを消すのだった……。




 ーーーーーー




 そんなことがあった翌日、俺は理髪店に来ていた。

 この世界に来てから数ヶ月、自分で切ったり縛ったりして誤魔化してきたが、いい加減に切るようにと___


『あぁあん!! 私の主として、野暮ったい格好は許さないわよ! タイチ!』


『ワイルドなのも良いでぇすけどぉ。清潔感は、あったほうが良いですよぉう。タイチさぁん』


 ___女性陣から、特にホンとジィェンから怒られたので来ていた。






「すっげ~~! タイチ様! オシャンティーな雑誌しかないよ! ”雇われ人・銀太郎”も”沈黙のドン”も、”ゴリラ13”が無いよ!?」


 俺に憑いた来たガンちゃんが、この世界での理髪店床屋にあるはずの定番の書籍が無いことに興奮していた。

 前世の感覚で言えば、この店は”美容室”と呼ばれる、男の俺では近寄りがたい理髪店なのは分かっていた。



を目安に。アレよりも清潔感のアル、短めの髪型にすればイイネ?」


 それでも、この店を選んで来たのはだからだ。

 他にも従業員が複数、居るのに経営者オーナー自らが散髪を買って出てくれたのも、オーナーと知り合いだからだ。


「お任せあれネ。ワタシに掛かれば、タイチを今以上にモテモテネ!!」


 理髪用の大きなハサミが鼻毛切りに見えるような、クマかゴリラかと見紛うほどの大男がオーナー。

 マフィア組織”チー”の大幹部、”風林火山”の一角を担う、俺と麻雀と試合をした大男。




 表の顔が”美容室・平和ピンフォ”のオーナー・チュイ、裏の顔は”シャン”の”チュイ”なのであった。




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 ーー


 ー




 目の前にはが在った。

 あらかたの散髪を終え、最後の顔剃り、髭剃りのために蒸しタオルで顔面を覆っていた。


「♪~~」


 長い時間、瞼を閉じた特有の視界に残る光の残滓を、雷が走ったようなものだと思いながら、鼻歌まじりに髭が蒸らされる時間にチュイが髪にドライヤーのようなものを使って乾かしてくれていた。



「お。お~~い。仙石シィェンシー切れネ。替わりを持ってきてネ!」


「は~~い。オーナー」


 俺のライターのように仙石で動いているドライヤーが、電池の切れたように動かなくなったので替わりを持ってくるように指示を出していた。


「これも仙石で動いているのか。用途が多いから、仙石のほうが下手な素材より高く売れる訳だな」


「ソネ。含まれている仙力シィェンリーを変換する術式が組み込まれているネ。”熱”と”風を出す”術式だと、2つの仙石が必要で大きくなルから。これはタイチの世界のドライヤーと同じで、変換を”電力”にしてるネ。だから大きさも形も、機構も同じくらいのはずネ」


 替わりを持ってくる間の時間にチュイと世間話をしながら、タオルを片目だけ開けるようにしながら俺の世界と同じ形のドライヤーを懐かしみ、いじらせてもらった。

 二つの術式、二つの仙石を使うと片手で取り廻せる大きさにならないらしく、”電力”に変換して同じ大きさと形になっている。

 この世界の発展のために召喚される”招き人ヂァォレェン”の影響の一部である。



「ん? まだ動くぞ」


「アイヤー。タイチの莫大な仙力のせいかもネ。握ったり、暖めたり、タイチみたいに無意識に仙力を込めても動くヨ。仙石本来の仙力じゃないから、すぐ抜けて動かなくなるけどネ」


 テレビのリモコンなんかも同じ理屈で動いたりするので、ますます俺の世界の電池と同じだと思ってしまう。


「変ネ。。……タイチは本当に規格外ネ」


「オーナー。替わり、持ってきました~~」


 俺の手の中で、ずっと動いていたドライヤーをチュイが持つと動かなくなっていた。

 俺の仙力の規格外さに改めて感嘆しながら、髪を乾かす作業が再開される。




 ーーーーーー




「探しましたよ、タイチ様。プライベートな時に申し訳ありません。チィェンです」


 顔中を泡だらけにされて、軽快に顔剃りをされている所に俺の受付嬢だと言い張っているチィェンが訪れて来た。


「やほ、チィェン。普段の制服じゃないから新鮮だね。”ハイカラ”って言うのかな? これに書いてあるよ」


 だらしない格好でソファーに寝そべりながら、女性ファッション誌を暇そうに読んでいたガンちゃんが知り合い話し相手が来たことを喜んでいた。


 いつもの浅黄色の制服でなく、”和風”と呼んでいいのだろう同じく浅黄色の浴衣のような私服を着たチィェン。

 俺の世界では”洋風”が”ハイカラ”なのだが、世界が違えば価値観が違うのかもしれない。

 中華風の赤壁チービー帝国が一番の大国なので、アジア系が似合う服装が好まれるのかもしれない。



「その長い三つ編みも相まって、その和装服装が似合っているな」


「あら! お世辞でもとして、タイチ様の好みの格好が出来ていて嬉しいですね」


 本心からの褒め言葉だが、世辞だと思っていてもチィェンが喜んでくれたようだ。


「ですが、そんなことで誤魔化されませんよ。仕事の話です」


「ふむふむ。タイチ様は、こんな格好が好みと。シャオ・リウ達にも教えてあげよっと」


 プライベートの俺に、同じくプライベートであろうチィェンが訪ねて来る要件など察しが付いていた。

 体調が悪いこともあり、断るためにも褒め殺して誤魔化そうと思ったが無理だったようだ。






「南西の村に出現した”特級”妖魔ヤオモ刑天シンティェンを、お願いしたいのです」


 チィェンの話に驚いたのか、チュイの髭を剃る手が止まる。



 俺の日常プライベートが変化していくのを感じていた。






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