忌まわしく、懐かしき、”味”

 領主リ゛ー・シュの娘・クゥイを玄武シェァンウーの【神技シェンジー】で治療してから、数日後の早朝。

 クゥイちゃんが直接、俺に御礼を言いたいらしく、居候させてもらっているツァンの店に来るとかで、出迎えの準備にツァンとジィェンが張り切って準備をしている。

 ジィェンが、を用意している間に、昼時に来るクゥイのために、店自慢の”肉まん”の仕込みをツァンがしていた。



「あ、タイチ様、おはようございます。今日は、お早いんですね」


「領主様の娘さんのクゥイちゃんが来るんでね。女性陣が朝から騒がしいから、起きてしまった。ユン、新聞配達、お疲れさん」


「街では、その話題で持ち切りですよ。噂の”迷い人ミィーレェン”が三人目の精霊ジンリンを従えた上に、領主の娘を治した話題。今日の新聞にも書いてありますし」


 以前、母を助けるための薬草を"願って"いた兎の獣人の青年・ユンが新聞配達で廻ってきた。



「運送の仕事は大変だろ? 俺の世界でも人手不足になりがちだしな。帝都なら街灯も在るだろうが、この街には少ない。明るい内に運ばないと、だしな」


「獣人の脚力を活かせる仕事ですけど。夜目の効く種族はイメージ印象が悪いですから、暗くなってから運べる人員が居ません。仕方ないですよ」


 ユンと軽い世間話をしながら、朝刊を受け取って別れた。



「タイチ様~~! ご飯、出来たって~~!!」


 呼びに来たガンちゃんと共に、ご機嫌な朝飯に向かう。



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先生せんせー! こんにちは!」


 すっかり元気になったクゥイちゃんが、フェイ・ランを含めた数人の護衛を伴って、ツァンの店に訪れた。


「うっきゃ~~! 可愛いお! 元気になって、良かったね。さあ、入って、入って!」


「ありがとございまーー! おジャマしまーー!!」


 ”グゥイ”の混血ハーフについて偏見の無いクゥイが、ツァンと会うなり仲良くなっていた。

 元々、領主の娘として、様々な人々と会う機会が多いせいなのか、これくらいの年頃に多い人見知り的なことは無いようだ。

 フェイ・ラン以外の護衛は、ツァンに対して警戒の、畏怖の、侮蔑の視線を送っているが、クゥイ子供の手前、波風を立てない限りは不問することにした。



「フフーン! 元気になって、良かったですね。治して頂いたことを玄武シェァンウー様に、深く感謝するんですよ」


「顔色も、そうですが。少し痩せていたのも治ってきましたね。青龍チンロン様に感謝してくださいね」


「……本当に可愛らしいですねぇ。こんなが、自分たちの娘だったら良いですよねぇ。ねぇ、タイチさぁん」


 見た目の年齢が近い精霊達と意気投合したのか、和気あいあいと雑談が進んでいる。

 ジィェンの返答に困る質問を聞き流しながら、女性の輪に入りにくい俺は護衛達に目を向けた。


「フェイ・ラン。あれから問題は起きていないんだよな、クゥイちゃんは」


「タイチ殿、あれから屋敷から出ることは、ありませんでした。再発することも有りませんでした。それ故の今回の外出です。貴方には、領主様も感謝していました。多忙で来られなかった領主様に代わって、感謝を伝えます」


 慣れない玄武の【神技シェンジー】の効果に不安を抱いていたが、それを聞いて安心をした。



 ーーーーーー



「わ~~! おいし~~い!! すごいよ、ツァンお姉ちゃん! ウチで食べる”肉まん”よりも、おいしいよ!!」


「うっきゃ~~! そんなに褒めても……しか出せないお!!」


 朝から準備していた極上の”肉まん”を褒められて、コテコテのギャグを返すコントのような微笑ましい光景が広がる。

 平和な光景を目にすることで、クゥイちゃんがことに安堵す___




 ___



 思い返せば、クゥイちゃんを治して領主の屋敷から帰る時から、小さな違和感、見落としをしている感覚。



他人ひとにモノを教える。他人と何かをする時。ことが、他人が当たり前に出来ると思うな』



 ユンの母親が治ったのかは、ではないと、ここまで何度も心配して確かめるようなことをしなかったのに___



『他人と競う時、争う時は。自分が出来ることは、だと思え!』



 ___前世での探偵稼業の上司、所長の言葉が蘇る。










。肉体を移し替えるなど、小癪なマネを……』






 ーーーーーー



「きゃああああ!!??? どうしたの!? クゥイちゃん!!?」


 ツァンの叫び声と、食べていた肉まんを床に落としながら、クゥイちゃんがが響き渡る。


「「「クゥイお嬢様!!!??」」」


 フェイ・ランを含めた護衛達が、すかさずクゥイちゃんの介抱と安全のために駆けよる。



「お嬢様! __この症状は、”病”と同じ!!? そんななのに!!?」


 長い間、かたわらで病状を看ていたフェイ・ランの口から”病”と同じだと発言されて、他の護衛達が



「”病”と同じなら、【神技】で完全に治ったのです! つまり”病”ではなく”毒”だったのでは!?」


「あのような原因不明の”病”が、そう何度もクゥイお嬢様を襲うとは思えません! つまり、意図した”毒”!!」


「世を乱す! 穢れた! が、クゥイお嬢様に”毒”を___



 ___「お止めなさい!!! それ以上の発言は許しません!! ……?」




 ーーーーーー



「タイチ様……顔が、怖いよぅ……」


 俺の爪の甘さで、幼気な少女の命を救いきれないばかりか、この世界に来てからの恩人に対する不当な扱いを許してしまったことに、誰よりも自分自身に腹が立っていた。

 フェイ・ランが護衛達の発言を制止していなかったら、で暴れてしまっていたかもしれない。


「タイチちゃん、ツァンなら平気だお……だからね。スマイルだお!」


「タイチさぁん。せっかくの凛々しい顔ですけどぉ。ジィェンはタイチさぁんの笑った顔のほうが好きですぅ」


 ガンちゃんやツァン、ジィェンに心配され、更に自分の不甲斐なさに打ちのめされるが切り替えなければ駄目だ。



『いざとなったら余計なことを考えるな。弱音も、後悔も、涙も、ゲロも。全てが終わってから、吐き出しな!』


 所長の言葉を思い返しながら、クゥイちゃんが落とした”肉まん”を、朝から準備した、喜んでもらおうと準備した”肉まん”を拾い上げる。


「あ!? タイチちゃん、汚いお……」




 ツァンが用意した極上の”肉まん”は、前世の時の様なが、していた……。






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