無邪気な元凶

「リウ! シン!」


「は、はい! なんですか、タイチさん!?」


「ボクは悪くありませんよ!? 玄武シェァンウー様の【神技シェンジー】は完璧でしたし……」


 表情は戻ったが、さっきまでの俺の殺気に委縮してしまったリウとシンが過剰に反応する。


「お前たちは悪くない。。確かめもせずに、周りの見立てを信じたのは俺だ。クゥイちゃんの病状は”病”ではない。【神技】級の【呪い】のせいだ」



『手加減して効果が無かったら、無駄、ですね』


 三回も【神技】を使えるのだから、原因を確かめるのにも使えば良かったのだ。



『この結界に気付かれずに【呪い】をかけるなんて【神技】並だよ』


『自分が出来ることは、だと思え!』


 この世界に来て、英雄や勇者ですら容易に使えない【神技】を乱発できることに、自惚うぬぼれていたのだ。




 もう、微塵も油断などするものか!!!




 ーーーーーー



「リウ、原因を探ってくれ。俺から仙力シィェンリーを持っていって【神技】を使うことを。シン、【神技】級の【呪い】相手の、守りの【神技】は有るか?」


「フフーン! ですね。仙力の量が同じなら、後は技量の問題です。お任せください。偉く賢いだけでなく、ボクは強く凄いので!」


 【呪い】の原因と浸食を防ぐために、一斉に【神技】を使うのを、精霊ジンリン達に任せる。



「フェイ・ラン! クゥイちゃんを屋敷に移すぞ! 屋敷の結界のおかげで【呪い】を掛けていたヤツが、肉体が入れ替わっていたのに気付かなかったみたいだ。シンの【神技】と合わせて、より強固な守りになるはずだ!!」


「タイチ殿、分かりました。行くぞ! お嬢様を運ぶのだ!!」


 フェイ・ランと護衛達がクゥイちゃんを運ぶための準備を始める。



「……タイチ先生せんせー


「ごめんよ、クゥイちゃん。今度こそ、今度こそ治してみせる。助けて、みせるから。我慢してくれ」


「……うん」


 一刻を争う事態に、ツァンとジィェンを置いて、怒涛の如く、領主の屋敷へと向かっていく。






「タイチちゃん……」


「きっと、タイチさぁんなら。今度こそ、クゥイちゃんを元気に出来ますよぅ。信じて待ちましょう、ツァンさん」



 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「タイチさん、が有ります」


「奇遇ですね、リウ。ボクも良い知らせと悪い知らせが有りますよ、タイチさん」


 シュ領主の屋敷にクゥイを運び込み、容体が落ち着き、一段落ついたところでリウとシンから報告が入る。



「精霊様、クゥイの身に何が起きているのでしょうか!?」


流石さすが、領主だと言うべきですかね。ずいぶんと、悪人に恨みを買っているようですね。ボクをもってしても屋敷の結界を併用しないと防ぎきれない【呪い】を掛けられるとは」


 シュの問いかけにシンの答えは、防ぎはしたが、だという両方の報告。



「【呪い】を掛けるように相手を特定しました。問題は掛けていた下手人真犯人なのですが……」


 シンの報告を聞き、察しが付いていた俺にリウが【神技】により割り出した決定的な報告を始める。


「シュさんに恨みを持つ犯罪者集団が、≪領主の娘を苦しめぬいてから、殺す≫ように。その”願い”を受けていたのは___




『1度ならず! 2度までも!!! ウチの【神技】を退けたのは、何処のどいつだ!!!?』


 ___、”四凶スーシィォン三苗トウコツです!!」


 屋敷の結界を、堅固な外壁を、子供の児戯だと言わんばかりに、積み木を崩すように粉砕しながら乱入してくる一つの影。




 今回の事件の元凶、悪神”四凶”トウコツの派手な登場である。




 ーーーーーー




「タイチ様! あれは”現身シィェンシェン”と呼ばれる精霊だよ! 僕らよりに近い存在で、が操っているから……神そのものを相手にしているようなものなんだ!!!」


 説明をしてくれたガンちゃんを筆頭に、同種の上に、別格の存在の乱入に精霊達の顔が青ざめ始める。



「ほほう! ウチの【呪い】を防ぐのに、”媒介”を3つも大盤振る舞いしたものだと。嫌味の1つでも言いに来たのダ。そこの男! なかなかに大きな器をしているナ!」


 虎のようなフードの付いたパーカーを着て、ギザ歯で、獅子のような長い尻尾をした小柄なのようなトウコツが、俺を指差す。



「”願い”を聞くかわりに、その命を捧げてもらう約定だったが。お前が相手では、いくら【呪い】を掛け直しても、イタチごっこだナ」


「なら、諦めてくれないか? 俺も、よく言われるが”無駄遣い”は良くないだろう?」


 フェイ・ランや警護の者達の警戒を意に介さず、ゆっくりと俺に向かって歩いてくる。



「ウチが願われたのは≪≫という【呪い】のだ。発動した後のことなど知らない。それが解かれようが克服しようがな」


 手の届く距離まで迫ってきて、立ち止まる。



「その後、娘が治っているではないかと、文句を言われたが。本来なら【呪い】を放った時に、良かったのダ。結果を見せるために遅らせてやったのに、恩知らずなモノだ。そう思わないカ?」


 俺に同意を求めるように問いかけてくる。


「その恩知らずのために、2回も【呪い】を掛けてやったのか。あんな幼気な少女を苦しめる【呪い】を」


。恨まれるのは構わんが、不履行。守ろうともしていないと思われるのも、癇に障るからナ。娘に掛けた【呪い】と


 実際の年齢とは違うのだろうが、少女の顔で笑うトウコツから寒気がする。


「今ごろ、娘と同様に。ウチの偉大な【神技】に、だろうよ」



「クゥイに、娘には。これ以上の【呪い】を掛けないという解釈で良いのでしょうか? トウコツ殿」


 娘の身を案じたシュが、立ち込めるトウコツの禍々しい仙力を受け、青ざめながらも問いただすにはいられなかった。


「……貴様に、発言を許した覚えは___


 シュに何かしようと、指先を向けたトウコツを


 ___……アッハハハハハ!!! 何だ今のは!!? 身体強化の【仙術シィェンシュ】を使わずに。ああも鋭く、速く、立ち回れるのか!!!」


 気取られずに【武道】だけで殴り飛ばしたので、大したダメージを受けなかったが、大の字に倒れたままトウコツが大笑いをする。



「マズいですよ、タイチさん。戦うことが、争うことが大好きなトウコツ。未知の【武道】に興味深々です!」


「ほほう! 今のは【武道】と言うのカ!? 神のままだと拮抗する相手が居なくて退屈していたのだ。”現身”になって弱体化したのに相手が見つからん」


 興味をシュから完全に俺に移したトウコツが、何事もなかったように立ち上がり見据えてくる。


「昨今、噂の実力者。フェイ・ランの恨みを買えると思い、この”願い”を受けたのだが。とんだ掘り出し物に当たったものだナ!!!」


 フェイ・ランと俺を交互に比べるように見回して、宣言する。




「娘を見逃そう。その代わりに、どちらが強いか。どちらがに相応しいのか競ってもらうぞ!!!」






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