ダメ男

 女性の中でも小柄な方だった上に、若返ったために二十歳全盛期よりも幼く見える妓女ジーニュ


「チィゥ・リー姐様。この方たちは誰でしょうかぁ?」


 十数年は若返っている上に、数度の面会しかしていなかったので気づけなかった俺を殺した奥様、今の名前は”ジィェン”の妓女が疑問を投げかける。

 ジィェンの視線は俺とツァンだけにしか向いておらず、リウやガンちゃんのような精霊が見えるほどの実力者ではないようだ。


「このタイチぃは、アタシがジィエンちゃんを”自由”にするために呼んだぽよ」


「”自由”……ですかぁ。の居ない世界で、”迷い人ミィーレェン”の私の”自由”……。うふふ、可笑しいですねぇ」


 俺の名前を聞いても気付いていない様子で、リーの話を自虐的に笑いながら聞き流している。


玄武シェァンウー様から衣服と当面の生活費を持たされて、この街に来ましたぁ。でも、あの人生きる意味も、生きるための仕事も、無いんですよぉ。あの人の居ない世界で”自由”に生きろと?」


 あの糞野郎が女神と衝突したように、いまだ繋がっていた異世界への穴に後追い自殺で入ったは良いが、その時には糞野郎の側の穴は閉じられていたとかなのだろう。

 結果として俺と同じ世界へ流れ着き、俺のように異能が有る訳でも無く、糞野郎のように女神のサポートも無い。


「確かに、運命の人あの人以外に抱かれるのは嫌ですよぉ!! でも、玄武様に持たされた生活費も底をつきましたぁ! まともな仕事は”迷い人”のせいで付けません!! どうすれば良いんですかぁぁ!!!?」


 何も持たずに、この世界に迷い込んだ”迷い人”の苦悩を表すようなジィェンの怨嗟の慟哭が響き渡る。



 ーーーーーー

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 ーー


 ー




「あ~~あ。になっちゃったね。タイチ様」


 ジィェンの慟哭と、すすり泣きだけが支配した部屋にガンちゃんの暢気な声。

 部屋に居るガンちゃんを除く誰一人として、俺が決断したのに気付いた者は居なかった。



『通常の迷い人なら、コレ1つで人生を謳歌できる』


「ジィェンさん。俺も”迷い人”だ。神が人の”願い”を叶えると約束する時に渡す”媒介”というものがある。俺はソレを使って、この世界での消滅を遅らせている」


 思い返すのは神・白虎パイフーの言葉。


「俺は通常の”迷い人”と違って1年しか生き長らえないが。ジィェンさんのような”迷い人”なら1生分だ。俺はソレを集めている。……望むのなら、同郷のよしみ、___」




「___ソレを1つ、貴女のために使おう」




 ーーーーーー



「アッハハハハハ!! 玄武様の”媒介”を報酬にアタシの”願い”を叶えてもらおうと思ってたのに、叶えるために1つ使ってたんじゃ……ただ働きぽよ~~!!」


「ちょっと!!? タイチさん!! お節介にも程が有りますよ!!???」


「偉くて賢いボクでも理解できませんよ!!? 割に合ってませんよ!!??」


 部屋にリーの大笑いと、リウとシンの叱責と呆れの声が轟く。

 消滅を避けるための【在留バリア】のようなものは、この世界由来の”媒介”を魂に収納して内側から張り巡らせなければ意味が無い。

 同程度の仙力シィェンリーを三回ほど出せる俺の【神技シェンジー】は、世界に作用するのは一瞬なので、長期間の効果を出すには”媒介”が必要なのだ。



「……生きていける? でも、私にはあの人生きる意味が……」


「生きる意味が無い。あの人以外に抱かれるのが嫌だと、ジィェンさんは言うが。自殺するでもなく、貴女は。まともに生きられないことに涙していた」


 現代人の感覚として、ただ単に自殺する勇気と理由が足りなかっただけなのだろうが、説得するためにソレっぽく語る。


「本当は生きていたいのです。ジィェンさんは若い。新しい恋か、人生を生きた方が良いと思います。見たところ、私と同じ世界の出身。同郷のよしみで手を貸しましょう」


「……新しい恋……運命の人生きる意味


 俺の詭弁に騙され、自暴自棄だったのが改善されたのだろう。

 輝きを失っていた瞳に、前向きになったことを表すように輝きが戻ってくる。



「これでジィェンの”自由”の障害。消滅の問題は、何とかなる訳だけど~。肝心の身請け代は、どうするの? アタシからの、お金は使えない。お金も生み出せない。元締めマフィアとの問題も有るぽよ」


「タイチさんがタバコや銃で無駄遣いしていなくても、妓女を身請けするだけの大金。用意なんて無理ですよ」


 金とマフィアの問題を全て解決する案なら、すでに出来ていた。

 俺はソレを自信満々に、高らかに宣言する。




「簡単な事だ! だ!!」




 女性陣からの、ダメ男を見るような瞳が痛い!!!?






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