世界の”しがらみ”

……か。くくく、確かに”金”だけでは難しいな」


「でしょう? でも、シンちゃんは”金”で解決できないはずがないって、譲らないぽよ」


 人の心の機微にうとい神と精霊では理解できない問題なのだろう。

 かなりの難題に、逆に笑えてくるほどのなのだがな。



「何が可笑しいんですか!? ”金”ですれば、自由になるでしょう!!?」


「新入りの妓女ジーニュを先輩のリーが? ココの元締めが何処の裏稼業マフィアだか知らないが。そんな露骨な新人潰しみたいな真似を許すとでも? いつも変わり映えしない遊郭に客が来るとでも?」


 規則ルール的に問題が無くとも、将来的に商売に影響が出るようなことを許すとは思えない。


「リーさんを懇意にしている上客の誰かに肩代わりしてもらうとか。色々と抜け道だって」


「上客でもだ。話の妓女は肌が合わないんだろう? 身請けした妓女に手を付けてはという”願い”は叶えられない。身請けしたのに手を付けてないのを不審がられるかもしれない。人を1人、養うというのは大変だ。寝もすれば、メシも食う。住む場所は? 食事や世話は? 年数は? この世界の人の寿命が、どれくらいか知らないがな。どれだけの”金”と”手間”が掛かることやら」


 シンが言う底の浅い反論に一つ一つ、いなを投げかける。



話の妓女その方は”迷い人ミィーレェン”です。ボクが玄武シェァンウー様のところから光星グゥァンシン街に連れて来たのでまでの目安は分かります。5~10年。それだけ暮らせるだけの”金”と”手間”を出せば良い話じゃないですか!!?」


「タイチ様が特別に早いだけで。英雄、勇者の人で2~3年。一般人でソレくらいだね。仙力シィェンリーを使わないように、世界から見つからないようにしてって、条件付きだけど」


 新情報である”迷い人”の消滅の目安にも即座に対応して、俺に教えてくれるガンちゃん。

 阿吽の呼吸で、的確に俺の補助をしてくれる白虎の精霊ガンちゃんを見ながら、最初に出会う神を間違えたのでは? と思ってしまった。


「……何か、タイチさんが無礼なことを考えてそうですが。”迷い人”ですか。タイチさんと同じですね」


「その”迷い人”なのも問題なんだぽよ。多少、に扱っても消滅する人間だからって、酷いことをする人が多い。アタシは、それが嫌ぽよ」


「この仕事が性に合わない上に、消滅までの数年間は奴隷のような人生を送るのか。それは救ってやりたいと思うのも分からないではないが。”願い”を他人のために使ってまで、助けてやろうと思う理由は?」


 俺と同じ境遇の妓女には同情はするが、リーが”願い”をするほどに助けたいと思う気持ちを聞きたかった。



「アタシは誰が何と言おうと、が好き。寂しい男を女が慰める。誰も不幸にならない。そりゃあ、色んな事情で仕事をすることになった妓女は多いぽよ。全員を助けられないのは分かってる。それでも、特にキツイことになる女を助けようと思うことは変なことなの?」


 リーが何故、この光星グゥァンシン街で一番の妓女に登り詰めたのか分かった気がした。

 他者を気遣い、真摯に客に、同僚に対して接するリーの心意気に、皆の敬意が集まるのだろう。



。その”願い”、出来ることなら叶えてみせようと思う」



 ーーーーーー

 ーーーーー

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 ーーー


 ーー


 ー




 さしあたって、その妓女にとっての”自由”とは何か? を聞き取るためにリーの部屋まで呼び出してもらうことになった。


「とりあえずは、身請け代は確保しないとだが。【神技シェンジー】で金塊を生み出すのは無しだ」


「ボクはタイチさんの、お手並み拝見なので。あまり口を挟みたくは無いですが。生み出しても問題ないのでは?」


 呼び出す間に現状確認と方針の説明中に、玄武シェァンウー精霊ジンリンのミドリガメの亜人風の小柄な少女、シンが口を挟んでくる。


「身請け代というのは、その妓女に掛かった費用、これから稼ぐだろう利益、そういうのを天秤に懸けて決められる。自由になりたい妓女が稼ぐためにヤる気になる金額に設定するのが、元締めの腕の見せ所だ」


「アタシの身請け代はバカ高いぽよ。もう、自前で払えるけどね。誰からの申し出も受ける気は無いし、仕事が好きだから自由にはならないけど」


 、大金を手に入れられると思われては仕事に精を出さずに、神に祈るだけの毎日を送られてはたまったものではない。

 必然として身請け代が高くなり、困窮する妓女が増えるだろうし、降って湧いた過剰な大金は貨幣経済を崩壊させる危険性が有る。

 金が無いのを解決させるために国の硬貨や紙幣を文字通り、大量に国が在ったが、経済が崩壊してしまったことがあった。


「シン! タイチさんの話を聞きましたか!!? 卑しくも青龍チンロン様が作った制度を逆用することは駄目なんですよ!! 謝ってください!!!」


「ええぇ……。ちょっとくらい良いじゃないですか!?」


 リウが、ここぞとばかりに責め立てるが、今まさに妖魔ヤオモに襲われようとしている村や人々が依頼をするための金額くらいなら良いのではないかと、俺自身も思っているので賛同は出来なかった。



ーーーーーー



『……”チィゥリー”姐様。お呼びとのことなので、参上しましたぁ。入りますねぇ……』




 外からのインターフォンの声に驚き、

 部屋への自動ドアが開く音が聞こえ、長い廊下を歩きながら、呼び出した妓女がリーに話しかける。



「チィゥ・リー姐様が、私を何かと気にかけてくださってるのは嬉しいんですよぉ」


 俺の世界の科学技術インターフォンに驚いたのではなく、驚いたのは



「でも、新人の私が大切にされてるのが面白くない他の姐様たちが居るんですよぉ。前にも話しましたけど、この仕事しかないんですぅ。”迷い人”の私には……」


 二度と関わりを持てないと割り切ったはずの、生前の俺の世界で聞き覚えのある、



「? タイチちゃん、どうしたの? 凄い汗だお」


「タイチ様? 暑いの?」


 俺の異変に、共に身体能力のスペシャリストであるツァンとガンちゃんが気づき、心配される。

 妓女の声に俺が動揺し、体調と心情の乱高下を繰り返すのも仕方ないのだ



 長い廊下を抜け、部屋に入って礼儀正しくリー大先輩に挨拶する妓女の姿を見て、俺の不安は確信へと変わった。




「チィゥ・リー姐様。お呼びに、参上しました。新米の”ジィェン”ですぅ。何の用でしょうかぁ?」


 生前の全盛期になるように若返っているが、俺のように十年単位ではなく、数年なので面影を色濃く残しているから、勘違いでも見間違いでもない。




 この妓女は、、だった……。






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