三人目の精霊

「どうぞ、こちらです」


 入り口で招待状である木片カードを門番の男に渡し、小間使いの見習い妓女ジーニュに連れられて光星グゥァンシン街の四大遊郭の一つ、”チィゥ”の中を歩く。


「”チュン”、”シァ”、”チィゥ”、”ドン”の中の1番の妓女から。今年の最高の妓女。それに選ばれました”チィゥリー”姐様が、この先に居られます。くれぐれも粗相のないように」


 そう忠告前置きして、依頼者であるチィゥ・リーの居る部屋の扉の前で立ち止まる見習いの妓女。

 扉に近づくと、木と紙で出来ているふすまにしか見えなかったのに、俺の世界の自動ドアのように左右に、通れるように開いていくことに驚く。


「”銃”と同じだよ。この世界の文化・科学はタイチ様の世界と同じくらいなんだ。”招き人ヂァォレェン”のおかげでね。条件と物資さえ用意できれば自動車だって、鉄道だって、飛行機だって作れるんだよ」


妖魔ヤオモ闊歩かっぽしているせいで、交通網が上手く張り巡らせないせいですね。作ろうにも物資が無いので高価ですから、普及しないんです。自分の世界で見ていたはずのモノで、いちいち驚かないでください、タイチさん」


 交通網とは、人、物資を移動させ、集めるのに非常に重要だ。

 かつて、海に面していないので”塩”の調達に苦労した領主が居たように、生活や文化レベルに大きく影響してくる。

 こういったなんかは、俺の世界と同じ水準の科学力が備わっている可能性が有ると、認識を改めることにした。



 ーーーーーー



「マジ、ウケる。本当に精霊ジンリンが2人も居るし。それに、”グゥイ”のハーフとはいえ女の子を、こんなところに連れてくるなんて予想外過ぎるぽよ。常識、無い感じ~~?」


「ツァンが勝手に付いて来たんだから、タイチちゃんを悪く言わないで欲しいお!」


 部屋で待っていた、どう見ても俺の世界のキャバ嬢風の格好の長い金髪の妓女・リーに当然の叱責を受けるが、驚くのはキャバ嬢風の格好ではなかった。


? 2人は【実体化】させていないのに」


 遊郭に女性を大勢、引き連れている光景を避けるためにガンちゃんとリウに【実体化】をさせていなかった。

 つまり、見えるということは、かなりの実力者である証なのだ。


「警戒しなくても大丈夫ぽよ♪ タイチぃみたいに武闘派じゃなくて~。癒しと温もり。回復と守護の玄武シェァンウー様の【仙術シィェンシュ】が得意なだけ。この美貌も【老化防止ラオファファンヂー】で保ってんの。こう見えても、結構なオバンだぽよ~」


「……そんな、才色兼備な美女が。一介の傭兵5級を≪指名依頼≫で呼び出したのは、どういうことでしょうかね?」


 それなりの権力と金、実力もあるリーが、わざわざ俺を指名するのには深い訳が有るのだろう。



『それは、ボクからも説明しますよ!!』



 八メートル程の高い天井から聞こえてくる自信に溢れる声。

 天井を透過しながら降りてくる、謎の人型。


「うおっ! まぶしっ!!」


「あ、貴女は!!?」


 眩しそうにするガンちゃんと、見知った顔なのに驚くリウ。

 地面に着地し、輝きが収まり、そのミドリガメの亜人のような風貌が見えてきた小柄な少女。

 堂々と、胸に手を当てて、自信満々に自己を紹介アピールする。



「そう! ボクです!! 気高く、尊く、慈悲深い玄武様の精霊! とっても偉い”シン”!! 偉い偉いシンの登場ですよ!!!」



 ーーーーーー



「今、アタシ、チョ~困ってるぽよ。なんとかしたいな~って、ってたら玄武様から”媒介”もらって~」


「さっさとボクの意見を聞いて”媒介”を使って、”願い”を叶えれば良いのに。何故かリーさんが渋るので。ボクが正しいのか、リーさんが正しいのか第三者の意見を聞いてみようと思いまして。玄武様からタイチさんのことを聞いていたので、お呼びしたのですよ」


 ”媒介”、信者からの”願い”を叶えるために神から送られる【神技シェンジー】と呼ばれる、過程を度外視する程の【仙術】を一度だけ使える仙力シィェンリーの塊。

 目的の場所に一瞬で移動したり、砂漠に落とした針を何処に居ても発見できたりと、人知を超えた結果をもたらす【神技】。



「傭兵の仕事をしてて変だな~って、思ったことは無い? タイチ様。≪特級妖魔ヤオモの討伐≫みたいな依頼を、寂れた村の村長が出してたとか。到底、依頼に見合った報酬が出せそうにない依頼者なんだけど。に、依頼料が用意できている依頼を見たことない?」


「そういうのは玄武様の【神技】で”願い依頼”を頼むだけのを生み出している場合が、ほとんどです。貨幣経済や社会制度などの青龍チンロン様の”招き人ヂァォレェン”達が作ったのに、それを逆用して、楽に”願い”を叶えてるんですよ! ズルくないですか!? タイチさん!!!」


「フフーン! ボクは偉いうえに賢いので。多少、玄武様の管轄外の”願い”だろうと、叶えるのに全力を尽くした結果、ですね。つい先日に、管轄の”願い”を失敗しかけたリウの嫉妬にしか聞こえませんね!」


 水の神の精霊と亀の精霊なのに仲が悪いのか、リウとシンが言い争いが始まっているが、俺は素直にシンの方法が効率的で確実なのだと感心する。

 世知辛いが、この世の中で”金”で解決できない”問題願い”のほうが少ないだろう。



「まだ玄武の媒介を使っていないということは、”金”で解決できない問題か。なんだ? リーさん、その”願い”とやらは?」


呼び捨てリーで良いぽよ。最近、ウチに入った新入りが居るんだけどね。どうにも、この仕事は、肌に合わないっぽくて~。不幸なことになりそうなんだ~。だから、___」




「___にしてあげて欲しいぽよ」






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