鬼が来りて

 作戦としては、単純だ。


 精霊ジンリン憑きの”迷い人ミィーレェン”である俺に興味を持ったリーが、≪指名依頼≫で呼び出したところで同じ世界からの迷い人であるジィェンと出会う。

 同じ境遇であることに同情した俺が、ジィェンをギャンブルで稼いだで身請けする。

 そして、俺が世話になっているツァンの店で従業員として働いてもらうことで、平穏で”自由”な生活を送ってもらう。



 金の問題とマフィアの追及も躱すことの出来るな作戦だ。



 ーーーーーー



な作戦ですね。タイチさん。だということに目を瞑ればですが!」


 俺達に付いて来た玄武シェァンウーの精霊、ミドリガメの亜人風の小柄な少女のシンが、な作戦にケチを付けてくる。


「大丈夫なの、タイチちゃん? 聞いた身請け代って、すっご~~く、高かったお」


「この世界に転移する時に、タイチ様が”受肉”し直したみたいに。ジィェンもになってるよ。の”処女”。まだ、客を取る前だから、めっちゃ高いよ。大丈夫?」


「聞けば、後10日ほどで店に出るそうじゃないですか!? ギャンブル不覚的要素に頼らず、等級を上げて仕事をするとか。堅実な方法では駄目なんですか!!?」


 ガンちゃん、リウとツァン、女性陣からの罵詈雑言を受けながら、リーの所を出て、そのままの足で賭博場へ向かっている。


「ギャンブルで稼ぐことには、”金”を得る以外にもが有る。それに、今まで行ったことは無いが情報はある。稼ぐ自信は有るぞ」



 半信半疑の女性陣の視線が、痛い……。



 ーーーーーー



「”銃”ですか……。当店では女性でも安心して遊んでいただけるのが信条モットーです。この程度の玩具護身具なら、良しとしておりますので。持って入って、大丈夫です」


 門番の大柄な男に許され、”銃”を持ち込むことが出来た。

 遊郭でも持ち込めたし、大金を払って買った俺の”銃”は、この世界では玩具扱いなのが不服だ。


「…………」


 俺の無駄遣いを咎めるリウの視線も、痛い。




 リーの遊郭のマフィア元締めが運営する賭博場”チー”の長い通路を歩き、賭博が行われている部屋に辿りつく。


「ほっほっほ。よく、いらっしゃいました。今をときめく”精霊憑き”であるタイチ様に御来店いただいて、嬉しい限りですな。さっそくですが、この”腕輪”を付けていただけますかな?」


 事前の情報収集で、【仙術シィェンシュ】によるなイカサマを防ぐために、仙力シィェンリーの内側からの高まりを感じ取って壊れる”腕輪”が配られるのは分かっていた。

 俺に応対した爺さんも付けているように、中に居る従業員全員が付けていることで公明正大であることをアピールもしているのだ。


「腕輪が壊れましたら、その時点で退店して頂いております。そして当店は、の子供は入れませんので。決して、中に連れ込みませんように」


「……


 子供に見える精霊達を【実体化】させていないのは理解しても、一般人が見えないのを利用してイカサマをするなと、視線で訴えてくる爺さん。

 いざという時の警備要員としての役割も、この爺さんは担っているのだろう。



 ーーーーーー



 この世界に”招き人ヂァォレェン”が持ち込むのは、近代科学や制度だけではない。

 賭博やゲーム、トランプやルーレット、将棋やオセロ、音楽やダンスなどの”娯楽”も含まれている。



 その中で、俺の選んだ賭博は”麻雀”。



 昔の中国に似た異世界と合うらしく、広く普及しており、ルールも多少のローカル・ルールが有るようだが、ゲーム性や展開の早さを重視しているようで、俺の居た世界日本のルールに近い。

 半荘制の原点二万五千を奪い合い、赤なし、不正チョンボは満貫払いと、俺にとってはのあるルールなので選んだ。



≪千点・大銅貨一枚≫



 手始めに、最もレートの低い二人空きの雀卓テーブルに腰掛けると、受付から付いて来た爺さんもの意味合いなのか、腰掛ける。


「ほっほっほ。今をときめく”精霊憑き”であるタイチ様はが少ないのですかな? もっと高く、手に汗握るテーブルが有りますぞ」


「ああ、来る気は無かったからな。今はが少ない。今日は、少ししか遊んでいけないが。明日からは、居るつもりだから。……!?」



 そう捨て置いて、の紙巻タバコを数本と、リウに無駄遣いだと怒られた仙石シィェンシーを利用した簡易火起こし器ライターをテーブルに置いた……。



 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー









、運の流れ、アガリへの流れ、青龍チンロン様の”招き人”が持ち込んだ”麻雀”! それを選んだだけでも嬉しかったのに!? 凄いです! 強いです! どうして、そんなに強いんですか!?? タイチさん!!!」


 最初の反応は何のその、手のひらを返したように大喜びで、はしゃぐリウ。


「前の探偵稼業で、をしたことが有るくらいだからな。この世界の雀士たちの実力が未知数だったから、多少の不安が有ったが。何とかなりそうで良かったよ」


「凄い! タイチちゃん、凄いお!! 一騎当千だお!!!」


「前から思ってたけどタイチ様って、【武道】もそうだけど。普通の探偵じゃないよね」


 のタバコを吸いつくして、足早に、陽気に帰っていく俺達。




「……は、放っておいて、良いのでしょうか?」


 そう言いながら振り返るシンの視線の先には、短時間で雀鬼に喰い荒らされた低レートの雀士たちの魂でも抜かれたような___





 ___死屍累々の光景が広がっていた……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る