遊郭の”迷い人”

違いの分かる男

 この世界に来てから一月ひとつきほどが経ち、日々の生活のために薬草採取の依頼を受け、群生地である草原に来ていた。


「【波紋ブォウェン】」


 俺を中心に仙力シィェンリーが波紋のように広がり、周囲のをソナーのように探知する【仙術シィェンシュ】。


「僕の系統。風の、身体強化の白虎パイフー様の素養が有るのは分かってたけど。タイチ様は転移して来た時に、青龍チンロン様の所に出てきたくらいだもんね。僕たちの補助なしでも水の、探査の仙術を使えるのは当然かな」


 異世界から来る”招き人ヂァォレェン”と”迷い人ミィーレェン”は、その魂に刻まれた性質に近い神のところに現れ、助言や補助、最初の俺のようななどの措置を受けるらしい。

 どうやら俺は”水”と”風”、流れを読む”探査”と身体強化する”強化”に強い素養があるようだ。



「どうせならファンタジーみたいな魔法を、ド派手に撃ってみたいんだがな。生前の能力の強化くらいしか出来ないか。それでも馬鹿げた能力だけどな。見もしない後方のの位置まで把握できるなんて」


「タイチ様が言うような、ド派手な魔法は朱雀ヂゥーチュエ様の領分。火の、動力エネルギーの素養が必要だよ。ちなみに玄武シェァンウー様は土の、創造と守護の素養が必要だね。物質を変化させたり、土壁を出したり出来るよ」


「タイチさん!! 雑談なんかしてないで、さっさと薬草を採取してください!!! 日が暮れてしまいますよ!」


 白虎の精霊である桃色の髪の虎の獣人風のガンちゃんと雑談をしていたら、最近というか、いつもイライラしている青龍の精霊である青みがかった長い黒髪のトカゲの亜人風のリウに怒られてしまった。


「タイチ様。シャオ・リウを嫌わないであげてね。この世界に無い体術の技術。【武道】を使うタイチ様は、世間では白虎様の初の”招き人”みたいな扱いだから。活躍すればするほど、白虎様の信仰評判が上がるのが面白くないんだよ」


「聞こえてますよ!! ガンガン! まったく! タイチさんは青龍様のところに転移してきたんですから、もっとゆかりの者として主張してください! ……ガンガンとばかり仲良くしてないで。……もっと相性のいい筈の私に構うべきです」


 ガンちゃんの指摘フォローが図星だったリウが、口を尖らせて抗議してきた。

 最後のほうの小声は、バッチリ聞こえていたから少しは構うようにしないといけないな。



 ーーーーーー



「ん? 反応が有ったが、これは普通の薬草じゃないな」


 依頼量の採取を終えたが、【波紋】で反応の有った分だけでも報酬の上乗せのために取っていたら、依頼以外のが見つかった。


「お!? ツいてるね、タイチ様。依頼の”緑癒草リュユーツァォ”より薬効が有って、希少で高値の”赤癒草チーユーツァォ”じゃん。やったね! オカズが1品、増えるね」


 仙術の【波紋】では目標物をピンポイントで見つけることが出来ないため、という曖昧な目標に設定したために生まれた幸運結果だった。


「出来なくはないですが、”緑癒草リュユーツァォ”だけを判別するには【神技シェンジー】を使わないと難しいです。無から有を産む。過程を無くして結果だけを得る。動かず、見ず、距離も無視するのは仙術の限界を超えていますからね。タイチさん。基準が難しいですから、うっかり【神技】を連発で使って消滅しないでくださいね」


 要は過程を度外視し過ぎることをしなければ良いのだが、俺を心配したリウが注意してくる。


「そうなったら、そうなったで。【神技】の媒介の白虎の爪が2つ有るからな。消えかけたら使えば大丈夫だろう」


「収納された魂から引き出して、行使のために身に着けて、冷静心静かに。消滅前に出来るというのであれば、文句は無いんですけどね。タイチさん」


 大丈夫だと言い返したいが、そこまでの工程を心静かに、この世界に来た時のような速度で消滅している時に出来ると言い切れなかった。



 ーーーーーー



「グケェェェェ!!!」


 薬草採取を終え、帰路の俺達の頭上を”妖魔ヤオモ”ではない黄色いニワトリのような鳥が飛んでいる。


「あ! ”舐油シーヨウ”だ! やったね、タイチ様。オカズが増えるよ! せっかく買った使おうよ!!」


 肉の油が、盛りつけられた皿に残った油ですら舐めとりたいくらいに美味しいことから名付けられた”舐油”。

 ガンちゃんに急かされるように、懐からを取り出して構える。


「タイチさんには、素晴らしい【武道】が有るんですから。そんな無粋なモノを買うなんて無駄遣いです!」


「【測流ツェ゛ァリウ】」


 リウの非難を聞き流しながら、仙術により風の流れなどを読みきり、狙いを定める。




 ……が二発、こだまする。




 ドラマや漫画の主人公が使うような大口径ではなく、日本の警察が使うような小口径の小振りな回転式拳銃リボルバー、弾数は六発。


「グケェェェェ!!!」


 射程距離ではあるが通常の命中精度、殺傷能力を計算したを越えた弾を受け、バランスを崩して落下してきた”舐油”の首を掴んで折る!


「見てください、タイチさん。銃なんて、しょせん女子供の護身用の武器。貫通どころか、1発は皮膚を貫いてもいません。タイチさんの素晴らしい【武道】に遠く及びませんよ! 無駄遣いだったんですよ!!」


 この世界の生き物は、俺の世界の物理法則を無視した生き物が存在しているせいなのか、通常よりも丈夫に出来ている。

 さすがに狙撃銃スナイパーライフル突撃銃アサルトライフルなら殺傷能力が有るだろうが、そういうのは軍用で免許や許可が必要で、なによりも……高価たかいのだ。


「そうは言っても、シャオ・リウ。飛び道具のないタイチ様には必要だと思うよ。唐揚げも食べられるし、僕は必要だと思うな~~。唐揚げも食べられるし」


「遠距離攻撃も、そうだが。指先だけで一定の威力の攻撃を出せるのは良い。仙力が多すぎて手加減しにくい俺には、必要だと思ったから買ったんだ。殺さずに制圧したい時とかにな」


 ガンちゃんのフォローに乗っかって、もっともらしいことを言う。

 一応、理論的な反論にリウは、それ以上の小言を言うのを止めてくれたようだ。





 本当は男の子の本能として、カッコいいから買っただけなのだが、黙っていよう。






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